性別モラトリアム ー思春期になると性転換する世界ー
「梨花! 帰ろうよ」
「うん。ちょっと、待っててね。提出するプリントがあるから」
僕と梨花は幼馴染。
幼稚園の頃から喧嘩をしたり仲直りしながら、遊び、気がついたら小5になっていた。
「あれ? 長ズボン?」
「うん。私、性別リセット期間に入っちゃったんだ」
「うそだろ。早いな」
「私たち、もうそういう年齢なんだよ」
23世紀、未来の人類の一部は、10歳を過ぎ、思春期を迎えると性別がリセットされる肉体へと進化した。
男の心を持つものは男の体に、女の心を持つものは女の体へと二次性徴を遂げる。
性別の確定は、猶予期間が入ってから1週間後だ。
その後は、確定した性別通りの体へと育っていく。
と、いっても、先天的な男は95%は男になるし、女も90%は女になる。
「ねえ。梨花。3年の頃の約束覚えている?」
「うん。大人になったら、私ら結婚するんだよね。ゆびきりげんまんしたよね」
「良かった。忘れていなかったんだ」
僕はほっと胸をなでおろす。
手をつなぎたいな。手をそっと差し伸べるけど、彼女ははねのける。
「とんぼ飛んでる! 追いかけよう!」
「待ってよ!」
気まぐれな彼女に僕は振り回されっぱなしだった。
とんぼをおいかけてる彼女に話しかける。
「もしもさ⋯⋯。いや、なんでもない」
「どうしたの? 急に。変な林吾だねえ」
言えなかった。もし、男の子になったら男同士。
今の時代は多様性の恋愛が許されているとはいえ、彼女とこのままの関係でいられるだろうか。
1週間後、僕の体に異変が訪れた。
あるべきものがなくなっていた。性別モラトリアムだ。
「おーい。梨花! 僕もモラトリアムになってさ⋯⋯あっ!」
梨花は半ズボンに男物のシャツを着ていた。
「悪い。今日から俺、梨春なんだ。男になっちゃった」
いつもの女友達ではなく、やんちゃ寄りで近寄りがたい男子とつるむ梨春。
僕は目の前が真っ暗になった。梨花が遠くに行ってしまったように感じた。
その後の1週間は放心状態だった。彼女、いや彼と一言も喋っていない。
このまま、彼と疎遠になっていくのだろうか。
ずーんと重たい気持ちになった。今日もお腹が痛い。
トイレに行くとするか。
あっ⋯⋯。血が出てる。これは、もしかして。
翌日、僕はスカートで登校した。
「林吾。やっぱりそうじゃないかと思ってたんだよ。昔っから心が女の子だったんじゃないかなと」
林子となった僕に梨春はささやいた。
「ふえっ。わかってたの?」
梨春は深々とうなずく。
「男になれてよかったと思ってるよ。こんな可愛い彼女とお付き合いできるんだから」
「ば、ばかっ! 恥ずかしいこと言うなよ!」
梨春は僕にそっと手を差し伸べる。
「手をつないで帰ろう! これやりたかったんだろ?」
「う、うん」
差し伸べた手を僕は握りしめる。
「うん。握り心地よし。こっちの性別同士の関係の方がしっくり来るな俺たち」
「ちょっと、その握り方くすぐったい! ううう。僕、この前まで男だったのに、なんでこんなこと気にしてるの」
「あ、とんぼが飛んでる」
梨春は足早にかけていく。危なっかしくて放っておけないかも。
「待ってよー!」
この頃は、大人になって本当に結婚して、子どもを作るなんて思ってもいなかったな。




