83_領地開拓とネージュという妻について②(アロイス視点)
私は複数の使用人を連れ、遠くの領地に出発した。
まずは作物の取れない土地の開墾だ。
これに関して、ネックになっていることはない。ただ純粋に人手が足りないのと、その土地で一年を通してどのように作物を育てていくかのスケジュールのサンプルを作るために、実際に収穫出来るだけの時間が必要だった。
私は連れてきた使用人と共に作業を進めた。
作付する野菜を提案し、農家を雇い、時には私の魔法も使って荒れた土地に栄養が行き渡るようにした。
相応に時間はかかったが、魔法を使えない平民だけでも作物を育てられるように土地を整備することは出来た。
(ここまでは順調に進んでいる。この領地はひと段落として次の場所に進むべきだろうな)
私はそう考え、連れてきた使用人たちに今後の展望を説明した。
ローハイム家の持つ領地には、瘴気で覆われた土地や魔物が彷徨っていて人が寄りつかない土地がある。
長らく放置されていたが、それらの整備に進みたい、と話した。
使用人たちの中には、渋る者もいた。
「……今までの農地開拓とは話が違います。魔物の討伐が必要になるのならば、私どもだけでは危険過ぎる。いざという時のための護衛術は学んでいますが、魔物と戦えるだけの戦闘力は有していません。アロイス様は魔法の面でも優秀ですが、それと同等の力を持つ者は……」
「それは承知している。お前たちのほとんどにはここに残って貰って、領民のために働いて欲しい。戦いは私がする。私一人だけでは力が足りないのもわかっているが……それは、人手を募ることにしよう」
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ごく少数の使用人を連れて、私は更に遠くの領地に出発した。
魔物が蔓延っている土地では、討伐する側も数が必要になる。
という訳で、私は傭兵を雇うことにした。
何組かのグループに分けて雇い、それぞれの成果を比べるようにする。
何週間か経って、少しずつそれぞれのグループの討伐数が見えてきた。
それを調べていると、あることに気付く。
「C班の討伐数が突出しているな。どの班も同程度のランクの傭兵を雇った筈だが……」
しかも、討伐を始めた当初は、C班は駄目だろうと踏んでいた。
ある程度の一日のスケジューリングは各班に任せているが、C班は作業を撤収する時刻が他の班よりも早かったからだ。
だが、実際はその班がどこよりも高い戦果を上げている……。
気になった私は、その傭兵グループに確認することにした。
魔物討伐は仮設の寝床を建てながら進んでいく。
今回も傭兵たちはテントの中に寝泊まりしていた。
ある朝にテントの様子を見に行った。
「雇い主様! こんな早い時間から何の用で?」
「ああ。ここの班は突出して戦果を上げているようだから、その理由があるなら聞きたいと思ってな。……?」
私の声に反応して、傭兵たちが私を迎える。それはいい。
気になったのは、テントの中にある寝具だ。
大体の魔物討伐時は折りたたみ式のベッドで寝ることになる。私もそれで寝た経験はある。
だが、このテントの中にあるものは私が知っているものとは少々違う。
私が知っているベッドは、もっと小さくもっと狭い。こんなに大きく、厚いベッドは見たことがない。
「そのベッドは……変わっているな」
「これが気になりますかい。まさしくこれが我々が戦果を上げている理由ですよ」
「はあ……?」
「俺たちは寝具に力を入れるようにしたんです。夜に長々働かないで睡眠時間を確保する、荷物作りの魔道具に予算を使って大きめの寝具を持っていく。俺達の作戦は当たりました。睡眠に力を入れることで日々万全の状態で討伐に望める。討伐時間を長くするより、集中して作業に当たった方が成果が出る。そういうことです」
「そうか……そういうものだろうか。そもそも、そんな商品が売っていたということ自体知らなかった」
「俺も最初は知りませんでした。ですが、軍の知り合いから教えて貰ったんです。寝具の専門店が王都に出来て、それがすごくいいんだって」
「とにかく、教えて貰ったことには礼を言う」
私はそう言った。
口では礼を言いつつ、頭の中では未だに納得がいっていなかった。
……寝具が理由。
つまり、沢山寝ることで成果をあげられるようになった?
起きて活動するよりも、寝る方が大事。そんなことがあるものだろうか。
彼らの認識では寝具のおかげということになっているが、討伐が進んだのには別の要因があるのではないか。
「リカバリーウェアも持ってきて良かったですね」
「全くだ。この衣服があると起きたときの疲労感が全く違う! 回復魔道具よりも安上がりだ。寝具に投資して良かった」
「手紙を貰って知ったのですが、寝具店でまた新しい商品が発売されたそうですよ。すぐに買いに行けないのが残念です」
「なにっ!? そうか。妻に頼んで並んできて貰うか……」
私の疑問をよそに、テントの中の傭兵たちは楽しそうに話を続けているようだ。彼らは武器や防具の情報交換でもするように、寝具について話し合いをしている。
(寝具店か……)
テントから出ながら、私は考える。
そんなものが出来たとは知らなかった。
この国の文化として、睡眠は重視されてこなかった。
そんな中で、睡眠専用の道具を作り、そしてヒットさせた者がいる。
(どんな人間なんだろうな)
私はそう考えた。
同時に、その人間を哀れに思った。
新しい道具を開発して人気を得るのは中々出来ることじゃない。その者の勤勉さを讃えてやりたいくらいだ。
でも、何故開発する商品が睡眠関連のものなのか。
「寝る」という動作には何もいらない。身体の衝撃を和らげるような敷物は必要だが、それさえあれば誰でも出来るものだ。寝転がって目を瞑ればいいのだから、子供でも容易に出来る。
今は多少は流行っているようだが、どうせ長続きしないだろう。「こんなものに金を出す価値はない」と飽きられて終わりのはずだ。
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魔物討伐が進むことで、土地の開拓は進展した。
今まで閉ざされていた奥地にも進めるようになったのだ。
だが、問題があった。
「……未知の気配がする」
私は調査のために探知魔法を使った。その上で、ここから先はどうやら未知の生物に会う可能性があるのだと知った。殆どは今まで出会ってきた魔物の種族と同じ痕が残っていたが、原因不明の痕跡もあったからだ。
私は数日間掛けて調査を続けた。
「アロイス様、いかが致しますか? 新たに魔術師や傭兵を雇いますか?」
長らく家に勤めた使用人・ジョージがそう質問してきた。
だが、私は首を横に振った。
「時間を取って調査してわかったことがある。原因不明の痕跡は、私も知っている魔物のものだった。当初見たことがない痕だと思ったのは、私が知っているものよりも深く強く痕跡が残っているから……。恐らく、バフの魔法を魔物たちで掛け合っているんだろうな。魔法にはまだわかっていないことも多い。特別に魔法が使える魔物が一定数いてもおかしくないだろうな」
だが、その魔物の防御力自体は低いことはわかっている。恐らく能力にバフが掛けられていたとしてもさほど苦戦することはない。
私が出て早めに討伐すれば、恐れることはないだろう。




