↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/96

76_カミラの対策にやったこと②

 これらの仮説をもとにして、私はカミラの睡眠を改善するためになにが必要か考えた。



 ウェルカムドリンクで出したのは、アサイーのドリンクである。

 アサイーは鉄分豊富なドリンクだ。それを客に出すことで、『鉄分不足による睡眠障害』の対策を出来たらと考えた。




 アサイーは寒さに弱い植物だ。だから栽培も難しいのだが、睡眠のために開発した商品――エアコン――、そして植物の成長を促進させる魔道具を組み合わせて、ホテルのために栽培を行った。

 まだ試作段階だけど、ホテルを本格的に稼働することになったときはギルドのコネを使って専用の栽培所を作る予定だ。



 それに加えて、食事にはひよこ豆のスープをつけた。

 ひよこ豆は鉄分を含むのに加えて、豆なのでイソフラボンも含む。



 前世で母親が教えてくれたことだ。『加齢によって中途覚醒が起こることがあり、その対策には豆製品が効く』と。

 詳しいところは記憶が曖昧だが、豆の持つ栄養が中途覚醒を防ぐのに役立つ、とかなんとか。

 カミラが途中で目覚めてしまうのには、鉄分不足だけでなく加齢による体質の変化もあるのかもしれない。それに対策をするため、食事でも補うようにした。




 また、食事だけでは必要な栄養が足りない可能性もあるので、部屋には栄養分を凝縮させたタブレットを部屋に置くことにした。

 所謂サプリメントである。

 栄養食品はイリスが研究している。彼女に連絡を取って、サプリメントの試作品を作ってもらった。

 まだ大々的に売り出してはいないが、評判が良ければ商品化も行う予定だ。




 そして、大浴場に使ったのは炭酸泉の入浴剤だ。



 以前商品開発のために火山灰を調達した際に、火山地帯の近くまでコンタクトを取った。そのタイミングで、火山の近くに温泉が湧いていることを知った。



 出来るものなら、ホテルには温泉を引いてきたかった。だが、地理的な問題とコストから断念した。

 その代わり、「温泉に近い風呂に出来ないか」と考えた。それで炭酸泉の入浴剤を作ることにしたのだ。

 火山地帯では炭酸ガスが放出されている。それを魔法によって固めて粉にすることで炭酸の入浴剤を作れるのだ。湯の中に粉を投じれば炭酸泉の出来上がりだ。




 この世界の風呂は熱い湯の方が好まれやすい。高温の湯は意識をしゃっきりさせるという理由で。

 だが、うちの風呂はぬるめの湯にした。

 睡眠の前に入る風呂は、高温よりも低温の方が向いているのだ。ぬるめの湯に長めに入ることで心身が落ち着き、身体が安眠モードに向かうらしい。うちのホテルのモットーは『睡眠第一』なので、低温の湯にした。

 そして、炭酸泉の湯は血行を促進する効果がある。これにより、風呂からあがっても身体の熱が続くようになっている。




 館内着と寝間着は、さらりとした素材で作られたリカバリーウェアを使ってある。

 リカバリーウェアは『寝ている間に疲労回復』を実感してもらうためにホテル内で利用出来るようにしている。

 そして、炭酸泉と同じくリカバリーウェアにも血行をよくする効果があるのだ。



 貧血などの栄養不足で体調不良に陥っている人に栄養を補給し。

 風呂と専用ウェアで血行を良くさせる。

 カミラのように睡眠の悩みを抱えている客に対して、これらのサービスがあれば安眠出来るのではないか――そう考えたものは全て取り入れるようにした。



(今まで寝具中心に充実させてきたけど、それだけでは心地よい睡眠が叶わないこともある。何を食べるか、普段どんな栄養を取り込んでいるか……それが睡眠に関わることも大いにある。そういう意味では、私たちの身体も寝具のひとつといえるわね)



 そして、個室で使える寝具は各自で選べるようにした。

 部屋のクローゼットの中には様々な材質の枕やシーツが入っている。もともとセッティングされているベッドを客が自由にカスタマイズすることが出来るのだ。



 また、面会時にカミラに女性の美容について指摘されたこともあり、安眠だけでなく美容効果のある寝具も取り入れるようにした。

 それがシルクの枕カバーである。



 髪の毛や肌は寝ている間に枕との摩擦を受けるため、朝になればダメージを負っていることが多い。

 その点、シルク生地は表面が滑らかなので髪や肌を傷つけず、艶を保つことが出来る。つまり寝るだけで美容効果が得られるのだ。



 シルク……絹糸は原価が高いため、最初は商品を作ることが難しかった。だが、寝具店が好調になるにつれて、コストのかかる商品にも挑戦することが出来るようになったのだ。

 このホテルに泊まることになった人には、特別な夜を過ごして欲しい。だからこういった新商品にも挑戦するようにした。





 そして、あとひとつの問題……カミラの家庭のことについて。



(うん。このことについては諦めることにしたわ)




 流石にホテル審査までの期間で家庭をどうこうするのは難しかった。

 ――というか、仮に期間が充分にあったとしても、私がカミラの家庭をどうにか出来るとは思わない。私にはそんな交渉力は無い。



 リンハイルやイリス、ローハイム家の権力をフルに使えば何か変わるものもあるのかもしれない。

 だが私にはアロイスとの約束がある。ローハイム家に影響を及ぼすような活動は出来ないのだ。

 見知った人の問題の全てを解決したいという欲求も私には無い。そんな力も無ければモチベーションも無いからだ。



(でも、カミラに対してこれをしてあげたいと思うことはあった。彼女が中途覚醒で悩んでいるなら、それはなんとか解決してあげたい。その為には力を尽くしたい)




 カミラが家族のことを気にしていて、それが原因でホテルの方針にあれこれ口出ししているのならば、いくら中途覚醒について対策をしても無駄ということになるかもしれない。彼女の家庭の問題が解決していないからだ。



 でも、カミラは睡眠の悩みも持っている。

 それを解決して快適に眠れるようにすれば、睡眠の重要性を評価してくれる可能性もある。



 これは賭けだ。「こうすれば確実にいい結果になる」というものではない。

 でも、どうせなら私は自分が信じたものに賭けたい。

 私たちの商品で作ったホテルは癒やしの場所になるのだと思いたい。



 カミラは私たちに対して良い感情を持っていないらしい。

 でも、そんな彼女がホテルを認めてくれるなら、今後来る客の満足も見込めるのではないだろうか。

 そう考え、ホテルの内装、施設、寝具たちに力を入れたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。