61_審査員から私が指名されているの?
ホテルステイを終えて数日後。
私は寝具店のスタッフルームでマーシーに報告した。
「どうだった?」
「色々収穫はあったわ。予想外のこともあったけどね。男性の魔術師なら受けられるサービスを私は受けられないとか」
「その手の話については事前に知っていた。が、実際に行ってみた方が学べることもあるかと思って静観していたんだ。悪かったな」
マーシーの言葉に、私は肩を竦めた。
マーシーの知り合いの中には女性の魔術師もいる。宿でどういった扱いを受けるか等も知っていたのだろう。
でも実地で体験してみる方が大事、という彼の言い分も尤もだと思った。
「ホテルに泊まってみて面食らったことも色々あったけど、それも含めていい勉強になったわ」
「それは良かった。この後の作業は続けられそうか?」
「うん。私ひとりだけだと難しいから、ギルドのメンバーにも手伝ってもらうけどね」
「ああ、勿論だ」
――それから、私は色々な作業をした。
あれこれ調べ物をしたり、マーシーと話し合いをしたり。
ホテルのコンセプト、図面、ホテル名、その他諸々を提出する作業はなんとかやり遂げられた。
ホテル名は、『ホテル・デイドリーム』とした。
眠りに関することが売りだとアピールしたかったのと、他に同じホテル名で被っているものが無かったのと、決めた理由は色々ある。
名前がしっくり来ない場合はそのうち変更することも出来るらしいから、ここはそこまで時間を掛けずに決めることにした。
審査にはそこそこの時間がかかるらしい。
だが、私たちにはホテルの他にも諸々やることがある。一号店や二号店の運営を確認したり、寝具について新たな需要がないか調べたり。
という訳で、審査結果が戻ってくるまでこちらの件に関しては暫く待機することにした。
****
「ネージュ。ホテル開業の件について手紙が返ってきたぞ」
「本当?」
ある日、寝具店の営業終了後にマーシーと話していると、彼からホテル審査の進捗を知らされた。
ギルド全体の売り上げが好調とはいえ、私たちは商売としての歴史はとても浅い。真っ当に相手して貰えるものかという不安もあった。
でも、想像以上に早く返事が返ってきたみたいだ。
「審査ってもっと時間がかかるのかと思ってたわ。予想より早かったわね」
「ああ……俺もそう思っていた。だが、今回はどうも特例のようだな」
「なに? 特例って」
「審査員の方からご指名が来ている。ネージュ、ホテルについてあんたと話したいそうだ」
「私と……?」
睡眠ギルドの発案者が私だということは大々的に公表している訳ではない。
けど、知る人は知っている。
二号店オープン前にリンハイルと揉めたとき、そう伝えたからだ。
その話はリンハイルが何人かに言ったことがあるそうだ。
だから「睡眠ギルドの発案者は若い女性」ということはある程度知られている。
だけど、私は自分自身の身分を表明した訳ではない。私がローハイム家に嫁いだ人間とはわからないはずだ。
「私の身分自体は知られていないわよね。ローハイム家との繋がりが持てるとか、そういうことが期待されている訳じゃないはず。……何で私を指名してきたのかしら?」
「ギルド間に知り合いがいたら、それ同士で話を進めて終わらせることは珍しくはないぞ。何ごとも早く終わるに越したことはないからな」
「でも、私にはそんな知り合いはいないはずよ。この睡眠ギルド以外では目立った活動もしていないし。あ……リンハイルやイリスとの繋がりが欲しくて私に接触してきた、とか?」
リンハイルやイリスが睡眠ギルドを支援しているという話はよく知られている。二人が魔術師界では有名人だからだ。
だが、マーシーは首を傾げていた。
「それも考えたんだが、それなら睡眠ギルドと友好関係を結べばいいだけの話だ。わざわざあんたを指名してきた理由はわからないな」
「それもそうね。なんでだろう……」
「ひとつ考えられるのは……女性同士、話したいことがあったのかもしれないな。あんたを指名してきた審査員も女性だからだ」
「そうなの?」
マーシーは頷き、メモ帳に審査員の名前を書いた。
カミラ・ブリスウィッツ。
私を指名してきた審査員は、そういう名らしい。
「マーシー。この、カミラさんがどういう人か、あなたは知っているの?」
「俺自身が仕事で絡んだことはない。だが、評判は知っているな」
「どんな人?」
「『氷の女性』」
「……え?」
「カミラ・ブリスウィッツはそう呼ばれている」




