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47_寝る前のお喋りは嘘をなくしてくれるような気がする②

「私の母親は、私を産んだ後に体調を崩してこの世を去ったのです」



 イリスは語る。



「後妻を取るか否かで親族間で話し合いがあったようですが、父親は後妻を取らないことにしました。私が生まれていない頃の話ですが、父親は母親と仲が良かったようです。他の人を妻として娶る考えはないようでした」

「そうなんだ……」



 昼間の様子からすると、リンハイルは愛情深いタイプには見えなかったから少し意外だった。



「子供の世話は主に使用人がしましたが、お父様が手ずから教育したいと言ったことがあります。魔法です。魔術師の子供を、また魔術師にする。それが使命だと語っていました」

「魔術師の家系って、そうなのね」

「兄はうまくいきましたが、私は中々魔法の学習が進まなかった。朝に起きるのも苦手だったから、遅れた分を取り戻そうと勉強時間を確保するのもうまくいかず……。お父様がかなりフォローしないといけなくなって、私のせいでお父様の研究は遅れてしまったと貴族たちの間で噂になりました」

「……それで?」

「そこからは、ネージュさんが知っている通りです。私は朝起きるのに失敗して、魔術師としての今までの信用を失って、寝具ビジネスにもの申すように言われて……今に至ります」

「……そう」




 イリスの説明で、今までに起きたことはわかった。

 でも、やはり色々と不思議なことはある。



「そもそもだけど……どうしてあなたの家は子供のうちから魔術師の仕事をさせているの? 貴族の子供でもあなたくらいの年代から活動している子はそんなにいないと思うんだけど」

「それは、魔術師の特徴かもしれませんね。出来るだけ早いうちに勉強させ、実戦に耐えるようにする。それが親が子になすべきことだと伝えられているんです」




 ……そういうものなんだろうか。むしろ魔術師は歳を重ねてからでも活躍出来るイメージがあったが。

 私がそう言うと、イリスが灯りの消えた暗い寝床の中で首を振った。





「魔術師の職業としての寿命は、長いように見えてその実は短い――そう言われています。優秀な魔術師であっても、いつかは天のお告げの様に『魔の一撃』を食らって、成果を出すことは難しくなるって」

「魔の……一撃? なんなの、それ?」

「研究畑の魔術師にいつか訪れると言われる終焉です。それが起きたら、それまでのように活動を続けるのは非常に難しくなる……。そして、表舞台からは去ってしまう。だから、魔術の勉強をするなら若いうちからやれって言われてるんです」

「はあ……?」



 イリスの話を聞いて、私は困惑した。



(何故魔術師に限ってそんな時限爆弾みたいなものがあるのよ。魔力が高いと何らかのペナルティがあるってこと? 研究畑の魔術師の間での話ってことは、ダンジョンに潜るような冒険者の魔術師には起きない事象ってことなの? なんなのよ……)




 イリスが嘘を言っているとは思わないけど、色々と不可解だ。


 ……ともかく、イリスや彼女の兄が子供のうちから魔術師として働いている理由はわかった。




 でも、理由がわかっても、納得しきれないことがある。

 私はそれを彼女に伝えることにした。




「イリスは、父親の足を引っ張ったっていう意識があるのね。だから父親の言うことは聞かないといけない――そう思ってるって」

「そうです」

「でも……あなたの母親が亡くなったのは不幸な事故で、後妻を迎えないと判断したのはあなたの父親自身の行動よ。それでイリスが責められるのはおかしいわ」

「……お父様も、最初はもっと違う接し方をされていました。でも、私の出来が悪いから、段々と愛想が尽きていったんです。お父様は魔術師としての圧倒的な実績がある。私はお父様を尊敬しています。だから、色々言われても仕方ないと思っています」

「……」

「私がもっと違う子だったら、お父様はもっと穏やかに過ごせた。私のせいで、お父様に嫌なことを沢山させてしまった……だから、仕方ないんです」




 イリスの声が萎んでいく。

 消え入りそうな声だった。



 役に立ってるとか立ってないとかで自分を蔑ろにしていいってことはないと思うんだけど。

 ……でも、そういう言葉を掛けても、今のイリスには響かなさそうだ。



(…………)



 一考した上で、天井を向いていた私はベッドの中で体勢を変えた。

 横向き寝のような体勢にすると、隣にいるイリスが私の腕の中に収まる。


 彼女は戸惑ったように身を固くした。




「ど、どうしたんですか?」

「イリス。聞いて欲しいことがあるの」



 ずっと頭の中で考えていたことを、口にする。



「私は、あなたの父親にはほぼ十割負けていると思うわ。彼みたいな社会的地位もないし、魔法の学習も私は最近始めたばかり。彼にしてみれば遊びみたいなものに見えるでしょうね。でも、これだけは私の方が詳しいって思えることがある。睡眠よ」

「睡眠……」

「眠ること関連だけはあなたの父親よりも私の方がずっと詳しいし、私の方が専門家の立場であると自負してるわ。寝具店一号だって、結構繁盛してるしね」

「……」

「私は睡眠の分野なら他の先を行っている魔術師よ」



 これは実態に即していない言葉である。私が魔法を学んだ経緯は独学に等しいし、リンハイルが私の話を聞いたら鼻で笑うだろう。

 それでも、今はイリスに掛けたい言葉を優先することにした。



「だから、この場……ベッドの中では、あなたの父親よりも私の言葉の方が強いものになる。そう思って聞いてほしいんだけど」

「は、はい」

「イリスはあなたの父親よりもすごいわよ」

「え……?」

「だって、私が開発したいものをすぐに理解してくれた。その上で商品開発のためのアドバイスをくれた。おべっかで言ってる訳じゃないわ。あなたは私の力になっているわよ。私が寝具を試してほしいって言ったら、こうして着いてきてくれたしね」

「……」

「イリスは自分はまだまだだから食事も寝るのも我慢しないとって思ってるのかもしれないけど、あなたはもう沢山のものを身につけているわ。だからいいものを食べて欲しいし……夜はゆっくり眠ってほしい」

「……!」




 そうイリスに語った後、私は小さく息をついた。

 そうだ。私は誰かがすやすや寝ている姿を見ていると癒やされるし、反対に寝れていない姿を見ると少し悲しくなる。

 それもあって、イリスをこの部屋に連れてきたんだろう。



 私たちの作った寝具で、イリスにぐっすり寝てもらう。

 それが理想だったんだけど……。



「イリス。私、どこでもいい感じの寝床に出来るギフトを持っているのよ。最初は普通にベッドを使って貰おうと思っていたけど、イリスが眠れないなら、ギフトを使うわ。ゆっくり休んでちょうだい」



 私はイリスにそう言った。


 だが、イリスは私の腕の中で首を振った。




「ネージュさん……」

「うん」

「ギフトは、使わなくていいです。魔法なしであなたたちの作った道具を使ってみたいから。それに……」



 イリスは涙声で呟いた。



「私……既に、ネージュさんから沢山のものを頂きました。だから、もう大丈夫、だと思います」



 そして、その後私たちの会話は終わった。

 静寂が訪れた部屋に、暫くして寝息がする。

 イリスが眠りに入った音だった。


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