第五話「木陰 雛子──①」
[過去]
私には、好きな人がいる。
それは、教え子である……十八歳の少年。
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禁断の恋。
そんな事は分かってる。
ダメだと分かってても、会話して、体が触れ合えば……異性として感じてしまうのは、人間の本質として、仕方ながないことなんじゃないかとさえ思った。
だから、自分の中でルールを課した。
一つ。彼の心が壊れないようにケアすること。
二つ。付き合うのではない。彼とは、共に今の関係を利用すること。
三つ。そして、卒業後にもう関わらないと伝えること。
本気にさせてはダメだと思ったから。
相談に乗るだけ。そう……。
初めはそんな気持ちで関係を始めてしまったことを……私は後悔することになる。
─────────────[回想]
出会いは彼が十五歳の時だった。
『私立 鬼灯学園高等学校』に赴任してきて、二年目。担任として一年二組のクラスを受けもった。
今年も一年生のクラスを受けもつことになり、少し嫌だった。
だって、まだ精神的に幼くて、反抗ばかり。
授業中は話は聞かないし、話してばかり。
正直、私の声なんて届かない生徒に嫌気がさしていった。
でも、彼は違った。
元々、弱気な子だったし、話したこともあまり無かったけど、ある日の補習の時に彼が話しかけてきた。
「木陰先生は、悩みとかありますか?」
私は一瞬戸惑った。
生徒の手本である先生が、悩みがあるなんて言ったら、不安にさせてしまうのではないかと思ったから。
「んーん!ないわよ!」
なるべく元気に、明るく答えた。
「そうですか。」
えっ?それだけ?
聞いてきたのに、それで終わり?
嘘でしょ?
そんな記憶が、彼と授業のことではない……初めての会話だった。
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半年くらい経った頃、彼に元気がないことに気がついた。
私は補習の時に二人きりだったから、そのタイミングで聞いてみることにした。
「ねぇ、立波くん。 最近元気なさそうだけど、何かあった?」
この年頃の男の子が相談しにくいことは、前年でもあったから理解していた。
だから、ちょっと切り込みすぎたかな。って言った後に内心焦った。
「……!」
「………いえ。別に。」
明らかに動揺があった。
この子は何かを隠してる。そう思った。
「そう…。 何かあったらすぐに言ってね!」
「担任として相談にのるから!」
自分の子供でもあるまいし、他人の子供。
私に子供はいないし、欲しいとも考えた事はなかった。
あまり深入りしたらダメだと思ったから、その時は深く関わろうとしなかった。
数日後、彼は学校を休んだ。
一週間も。
何があったかは分からない。
担任として心配だったから、親御さんに連絡をして状況を聞いても、母親にも答えてくれないそうだった。
だから、待つことにした。
こういうのは、時間が解決するモノだと思ったから。
その数日後、彼は学校に登校した。
私はホッとして、いつも通り接していた。
でも、彼の顔には笑顔はなかった。
今でも鮮明に覚えてる。
何かに絶望して、悲しそうな顔をしていたのを。




