第二話「立波 相哉──②後編」
[現在]
ボクの名前は「立波相哉」
実年齢三十二歳で、恋人の雛子と同棲をしながら、売れない小説作家を名乗っていた。
容姿は、普通。体型も普通だ。
まあ、それも、昨日まではボサボサの髪に、少しだけ伸びた口と顎のヒゲを生やしていたんだが。
ボクは昨日、どうやらタイムスリップしてしまったらしい。
どうやら、中学時代に戻ってしまった。
ありえないと思うだろ?
夢かと思って、試しに頬をつねってみたけれど、"感覚がなかった"。
だから、夢だと思うだろ?
でも、夢じゃなかったんだよ。
だって、実家に帰って寝て起きても、まだ実家の布団で寝てんだからさ!!
隣で母親と兄貴もスヤスヤ寝てるよ!!
いやぁ〜……まさか、夢ではなかったとは。
これはいよいよ現実として受け入れるしかないのではないだろうか?
「ハァ……マジかよ。」
隣で寝る二人を起こさないように、小さく呟く。
声に出さないようにしたくても、あまりの驚きに、声が出てしまった。
まあ、漫画で言うところの、第二の人生を始めれると考えたらポジティブに思えるか。
ん?てか、まてよ。過去に戻ったってことは、この先未来で起こることが分かってるオレは……有利じゃないか?
そうじゃん!ほんとにポジティブに考えるなら、この先どんな小説を書いて、持ち込みすれば……流行りを先取りして流行が来るタイミングで売れるのでは!?
売れっ子作家間違いなしだろッ!!
きっ……たぁ〜〜〜〜!!!
オレの時代キタコレ!!
そうと決まれば、今日は学校をサボって必要なものを買いに……あっ。この時代のオレも、金が無いんだった。
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と、なると、だ。
オレがすべき事はなんだ?
やりたいことをやるためには、お金が必要だ。
つまり、バイト。
あの時の、中学時代の暗い思い出なんて、今はもうないんだし!
どうでもいいヤツらのことなんか、ただのクラスメイト……いや、その辺に生えてる雑草と思えばいい!!
そんな雑草と関わる時間よりも、小説を書くためのアイデア探しと金だ!!
金を稼がねばならん!!
パソコンは無理でも、最低限……携帯は買いたいしな。
SNSでの宣伝も、必須だ。
早めにやればやるほど良い。
やらないよりはやるに越した事はないからな!
色々と計画を練る必要がありそうだ!
フフッ。楽しくなって来たぜ!
コレがまだ夢なのか、そうじゃないのかは知らんが!
オレは人生を変えるぞ───!!!
こうして、オレの第二の人生が始まったのである。
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まずは、バイトだな。
部活はやんなくて良いし、中学程度の学問なら、いまさら勉強なんてしなくても余裕ッ!!!
フフフッ。こんなところで三十二年……バカなりに培って来た、知識を!!
発揮してやるぜ〜〜!!
大人の特権だな!!ハハッ!
一度目のオレ、勉強してくれていてナイスだ!!
よし、なら夜の時間はある程度削れそうだな。
それと早朝の新聞配達とかもありか?
夜は学生は補導されちゃうからな。
何時までだっけ?
まあ、学校終わりの十七時から二十時くらいまでならいけるか?
とりあえずこの辺りの地形や店は把握してんだ!
場所もわかるし、あとは飛び込みでお願いするのみ!
あつ〜い熱意をこめりゃあ、人が少ないこの地域じゃあ、簡単に採用される!
完璧すぎるな。うん。
何にも分からなかった子供の頃とは違い、辛い人生経験を経て、苦難を乗り越えてきたオレには、なんてこともない問題だ!!
ズキッ……!!
「いってぇっ…!!」
な、なんだ……?
いきなり頭痛が……。
苦難を乗り越えて……。あれ…?
そういえば、乗り越えたことあったっけ……。
なんか頭がぐちゃぐちゃするな。
まだ過去に戻ったばかりだから、頭の整理が追いついてないのか?
しっかり寝て休んだのにな。
まあ、いいか。
とりあえず、当分の方向性は決まったわけだ。
あとは、実際に行動に移すのみだな。
─────────────[回想]
昔から、行動に移すのは苦手だった。
自分のした事が正しいと思い込んで育って来たから。
他人に指摘されるのは嫌いだったから、こうした方がいいよ。なんて職場の上司に言われると、腹が立った。
でも、自分がミスをしてしまったことに対しては、怒られること自体、不快ではなく、それは認めていた。
実際にオレが悪かったのだから。
大人に成長したなぁ。と、自分の中では思ってた。
でも、実際には自分に足りないことを教えてもらえる機会を、与えてもらえていたことに気づけていなかったんだ。
"怒られる"ってことは、自分のことを気にかけてもらっている。ということ。
そう理解するまでは、何年もかかった。
でも、理解していても……。
そこに"理不尽"が上乗せされると、納得はいかなかった。
殺したくなるほど、憎く。
聞いていられないほど、胸が張り裂けそうに悲鳴を上げた。
そして、一人で泣いた。
いや……違うな。
頼る事はしなかった。
迷惑をかけて、負担にさせたくなかったから。
そもそも、話せそうな人が多くなかったし。
だから、耐えた。耐えて。耐えて。耐えて。
次第に心の中は真っ黒になっていった。
そうして、一人で泣くしかなくなっていた。
誰にも分からない、分かるはずもない。
言わなければ、人の気持ちなんて分からないのだから。
言うことの大切さを、オレは教えてもらえた。
オレの、最愛の人に。
そう、木陰雛子さんに。




