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ムレスズメ  作者: リンネ カエル/霖廻 蛙
売れない作家のリトライ
4/38

第三話「売れない小説家と苦悩」


この物語はフィクションです。

物語内の内容が事実とは限りません。

(だいたいは作者の想像ですので、鵜呑みにしないように。)




        ──[過去]──




「小説家なんて、数ある人の中の……

 ほんの一握りしかなれねぇのよ」


 若い頃、執筆時代に知り合った売れない作家から聞いた言葉だ。



 彼は、一日中暗い部屋の中でタバコを吹かしながら、ライトスタンドだけ点灯させた

 ──机の上にある原稿用紙に小説を書いていた。


 体は痩せて、髪はボサボサ、後ろ髪はゴムで束ねて、丸メガネをかける面長な顎には、まばらにチョンチョンと生えたヒゲの剃り残しがあった。


 

「え……でも、出版社から声がかかれば

 本は出せるんじゃないんですか?」


「それか、持ち込みするとか」



「そりゃあ、持ち込みが一番はえ〜だろうよ?」


「だがな、才能がなけりゃ……

 原稿にササッと目を通されて、その後は相手にされやしねぇ」


「ネット小説なんてもんはもっとヒデェぞ〜

 賞を取ったからって、小説家になれるとは限らなねぇからな」


「どういうことですか?」


「賞を取れたなら

 作家デビューじゃないっすか!」



「確かにデビューはできるわな。」

「だがな〜、ジャンルにもよるが……

 芥○賞なんて有名なもんなら、多少知名度もあるし

 興味を引いて買うヤツもいるかもな」


「そこからファンがつきゃあ〜売れっ子作家の仲間入りだ」


「だが、面白くなければファンはつかねぇ」


「ファンがつかなきゃあ〜

 仮にデビュー作が売れようと……

 次の本は売れねぇ」



「どうしてですか?」



「少しは自分(テメェ)で考えろよォ〜」


 手に持つタバコを灰皿にトン、トン。と当てる彼は、ボクに聞いてきた。



「たくっ、いいか?

 本と電子の違いはなんだと思う?」



「え、えっと。

 ……買いやすさですか?」


「後は、形として手元にあるかどうかですかね?」



「ちげぇよ、形式的な話じゃねぇ。

 いいか、本の小説はな、ファンがつきやすいんだ。 "作者の"ファンが!だ」


「だが、電子だとどうだ?

 客層も形がある本という形式も違うとどうなる?」



 どうなるんだろう。

 ネット小説なんてやったことないから分かんないな……。



「……ファンはな、作者じゃなく

 ───"作品に"つくんだよ」



「そもそも、金を払って形あるものと

 無料で読めて好き放題評価され、

 見終われば用済みのもんと比べるのがおかしいっちゅーこった。」



「その違いが何か問題があるんですか?

 売れれば人気になれるじゃないですか?」



「だからオメーはアマちゃんなんだよ。

 ──"博打"だよ、博打〜」



「博打?」


「そうだ」


「今じゃ小説といっても──

 ジャンルも様々、形式も様々。

 素人だってネットを使えば

 ラクに小説を書ける時代になってき始めてる。」


「これがどういうことか分かるか?」


「いえ……ただ、たくさんの作品が公開されますよね?

 それって凄いことなんじゃ……」



「バカがっ……審査する側は、編集者と世間。

 そのどっちもになってるっつー事だ」


「世間からの評価が仮に良くても

 それは所詮……ネットの中の"一部としての評価"だ」


「世に出てみりゃ〜

 世間様から評価が低い作品なんて山ほどある。

 何でもかんでも売れるもんじゃねぇんだよ。」



「まぁ、当たり前だわな。

 素人が書いて、素人が評価した内容だからだ」


「中にゃあ、面白ェもんもあるが〜

 流されやすいんだよ。人の意見ってのはよ」



「でも、そういうもんじゃ……?

 誰だってはじめは素人じゃないですか。」


「それは間違ってねぇよ?

 ただぁ………それを良くするための編集が

 無能しかいねぇから問題なんだよ。」


「いいか、よく覚えとけよソウヤ。

 世に出すっつーことは、金を払ってまで買わせるってことだ。」

「それなのに、良い加減な指示と訂正だけさせて

 後は漫画家や作家にほったらかし」



「そんなバカな事あるか?

 おかしいだろ!」



 灰皿に押し当てる回数が増える度に、部屋の中は煙で濁っていくのが分かった。

 この人の熱量は、聞いていて自分の中の何かが動いたような気がしたから。



「ちゃんと、面白くさせてから売れよッ!!」



「原作があるからそのままでいい?

 ふざけんなッ!」


 叫ぶ度にタバコを吸う彼は、さっきよりも早めに息を吐いていた。



「より面白くなるならな。

 オレァ、自分の作品の改変だってしたっていい!

 改変しないで売れないなら

 ソレは面白くなかったって結果になっちまうだろ?」



「それは……自分(テメェ)を否定されてんのと

 ………同じになっちまう。」



「オレはそんなんで後悔したくねぇ。

 だから、少しでも意見を出さねぇ編集とは話さねぇし、担当を変えさせる」


「だがなぁソウヤ。

 ソレは思うだけで、実際には行われない。

 どれだけ経っても、おんなじだ。」



「評価だけを鵜呑みにして、

 人気があるから話題性もつく。っつー勘違いしやがる汚ねぇ大人どもが、作家に機会と夢を与えちまう。」


「その先に待つ作家はどうなるか分かるか?」



「い、いえ。」



「実験台にしてんのさ、アイツらは!!

 世間での評価が良かったから、きっとこの作品も万人受けするだろうってな!」


「そうして、いざ出版されてデビューしたとしようか

 だが、面白くなけりゃあ売れねぇ。

 そもそも、知名度もねぇから買うヤツも少ねぇ。

 買わねぇからその作品の面白さも伝わらねぇ。

 だから、結局話題にすらならねぇ……」


「それはな、作者にファンがついてねぇからだよ。

 ネットのファンなんてのは、その作品が見れれば良いんだよ」

「後の作品なんて興味はねぇ。

 それが面白くなければ尚更だ」



「そんな作家ばっかりだ。

 どこの出版社で、どのイラストレーターや漫画家に当たるかも分かんねぇ、ガチャ」

「新人漫画家の練習台に付き合わされることだってザラじゃねぇだろう。」


「まあ、真相はオレも知らねぇがな。

 周りや知り合いを見ていりゃあ分かんだよ。」



「作家は使い捨て。

 作品が売れなきゃあ、次の人気作を出させないと書籍は出せない」


「出せても売れるかは博打だ。

 そんな世界なんだよ。ここは……」



「………。」


 ボクは何も言えなかった。

 その言葉の真相が本当なのかは分からないけど。

 信憑性や納得できることがあったから。



「そうやってな

 辞めていく新人作家をオレは何人も見て来た」


「毎月数百人単位で新人作家が蔓延る時代になって

 どれだけの奴らが挫折していくと思う?」


「何万人の中から、自分じゃなくて選ばれた奴らが

 いざ本を出しました。でも売れませんでした。

 気持ちがへこたれたので辞めます。だぁ〜?」


「ふざけてんのかよ。

 反吐が出るぜ。こちとら必死にやってんだよ。

 その一握りを掴めたオマエらが……。」



「なんで……諦めんだよ。」



「………。」


 そんな世界に、ボクは足を踏み入れてるんだよな。

 でも、後戻りは出来ない。

 ここが、ボクのやりたい事なんだ。



「だからよぉ〜

 小説家を名乗るくれぇの人気作家になるにゃあ」


「何度も、何度も、何度も、何度だって書き続けて、オレは凄いんだぞ!

 オレの書く作品は面白ェんだぞって!!」


「目に止めることさえしなかった

 世間や編集(バカ)どもに教えてやんのさッ!!

 ハハッ!!」

 


「………。」



「………なんだ?

 まさか、怖気付いたのか?」



「いや……」



「バカ野郎が……。

 オメーは諦めんなよ。ソウヤ。」


 ボクはその言葉を聞く前から力強く拳を握っていた。



「………いえ!!

 ありがとうございますッ!!」


「絶対ッ!

 絶対に小説家になって見せますッ!!」



 その時。ボクはそう強く誓った。



─────────────────────────



    ──[立波相哉 三十二歳]──



 あの日から、もう何年経つ……?



「……クソッ!!

 ……ダメだッ!!」


「こんなんじゃ……面白くないッ…ぃ…。

 ………うぅ…うぅう。」



 オレは誓っただろ……。

 あの日──


 猫柳(ねこやなぎ)さんに……。

 そして、(ヒナ)ちゃんにも……。



 ボクは……。


「オレはぁぁぁッ──!!!」



 ドンッ!!と、机を叩いた衝撃でペンが折れると、机の下に真っ黒なインクが滴り落ちていた。



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