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ムレスズメ  作者: リンネ カエル/霖廻 蛙
売れない作家のリトライ
2/38

第一話「立波 相哉──②前編」


※この物語はフィクションです。




 目を開けると目の前の世界は真っ白だった。

 夢の中にでも舞い込んだみたいに、頭の中がフワフワしてるような感覚だ。



        ──[現在]──



「うっ、眩しぃ……」


「ココは…?

 どこだ……?」


 意識がハッキリとしたボクは、目を覚ました。



「えっ?」

「なんで…これ」


 目が覚めたオレの視界に映ったのは、学校の教室だった。



「タテナミー

 何か言ったかー?」


 黒板の前で振り返る教師から声をかけられると、反射的に言葉が出ていた。



「へっ!?

 あ、やっ……な、何でもないです!!」



 オレは、あまりの驚きに動揺して勢いよく椅子から立ち上がっていた。

 クラスの生徒から一斉に視線が集まり、恥ずかしくなったオレは、すぐに椅子に座り直した。



「す、すみません……」


 クラスの生徒がクスクスと笑う中、オレは必死に考えていた。



(なんで……

 そんなことってあるのか?)


(オレは……

 今年で三十二だった。ハズだ。)



 何が起きた?

 まさか夢?

 いやいや、この感覚は夢じゃない。

 声も出せるし、感触もある。

 夢ならこんな鮮明に物の感覚を感じれるわけ……


 まてよ、タイムスリップした?

 そんな漫画みたいなことがあり得るのか!?



「マジかよ……」



 思わず溢れる言葉に、いまだに何が起きてるのか理解が追いついていなかった。

 オレは夢だと思いながらも、ただ、その場で時間が過ぎるのを待つしかなかった。



─────────────────────────



 昼休みになり、オレは一人で屋上に来ていた。


 昨日は、あれ……何してたんだっけ。

 確か、新作の執筆をしてて……

 アイデアが浮かばないから、夜中に散歩に出たんだっけ?


 歩いてる途中に、なんか明るい光が見えて……

 それで……


 うーん……その後のことが思い出せない。



 確かに三十二歳だったハズなのに


 今、オレは中学校の制服を着ている。

 おかしい。


 ピチピチの肌やヒゲだって無い。

 トイレの鏡で確認したけど、見た時は驚いた。

 なんせ、本当にあの頃の自分に若返ってたからな。


 うーん。ここでいくら考えてもなぁ〜。

 夢だとしたら、目が覚めるまで待つしかない、か。



─────────────────────────

─────────────────────────



 そうしてオレは、曖昧な記憶を元に学校での一日を終え、自宅に帰ろうとしていた。



「──って!」

「この時代のオレは

 一人暮らしじゃないんだったぁぁぁ──!!」



 そうだった!

 てっきり今の自宅に帰ろうとしていたけど、夢とはいえ、中学生の時に一人暮らしはしてなかったもんな。

 なら……実家に帰ることになるのか。


 久しぶりだな。

 しばらく親の顔は見てなかったし。

 色々と迷惑をかけて来たっけ。

 いや、それは今もか。


 オレの通っている中学──

菊池原(きくちはら)中学校』からは、自転車で二十五分くらいかかる距離だ。


 遠い。

 三十二歳の運動をしてこなかったおじさんにとって、この距離をチャリで走行するのはかなりキツかった。



「……ハァ……ハァ…!

 三十五分くらいかかったか!?」


「……あれ、あんまり疲れ…てない?」


 体が若いからか?


 まぁいい。

 一階建の平屋。見た目もボロい一軒家がオレの実家だ。

 何度も見た、見慣れた風景。

 懐かしい。

 昔は………この家が、嫌いだった。



「ただいま〜〜」



 玄関の扉を開け、廊下を進み、横目でゴチャゴチャした荷物が散らかっている──部屋とは呼べないリビングを見ると、電気は付いていなかった。

 

 母さんはまだ仕事中か。

 兄貴は……部活だっけ。


 オレはそのまま、ある部屋に入っていった。


 そう。たった一部屋。

 この空間に布団は敷いたまま。それの三分の一を占めている。

 三つの布団があり、荷物が置かれ、勉強する場所もない勉強机の上に、カバンをそのまま置いた。


 そう……。

 ウチの親は、オレが生まれたすぐ後に離婚していた。

 別居も済んでいて、赤ん坊だったオレは、母方の実家で育児を受けた。

 家族はじいちゃん、ばあちゃん、母と兄、オレを含めた五人で暮らしていた。

 実家の部屋はあまりなく、一部屋でオレと母と兄が一緒に過ごしていた。


 思春期だったオレは、それが凄く居心地が悪くて

 成長するにつれ、自分がしたいことが出来ないストレスに頭を悩ませた。



「はぁ……懐かしいな。

 昔は小説を書くことも自由に出来なかったっけ」


「恥ずかしくて、親や兄貴に知られたくなかったからな」

「それに、クラスのみんなにも……はは」



 だから、学校でも

 家でも小説を書くことが出来なかったんだ。


 当時は携帯やパソコンも持ってなかったから、親が仕事でいない時に、隠れて作文用紙にコソコソと書いてたっけ。


 家が貧乏だったから、お小遣いはほぼなかったし。

 好きなものも買えない。

 お願いしたことはあったけど、母親の疲れていく顔を見ていたら、次第に何も言えなくなっていった。


 だから、周りの生徒が羨ましかった。

 自慢している生徒を見るたびに。嫉妬した。

 なんで、なんでオマエばっかり。

 なんでオレは……なんで。って。


 でも、仕方ないんだって

 必死に理解しようとする自分もいた。



 それでも、日に日に周りの目を気にするようになっていった。

 じゃないと……

 クラスで、孤立してしまうと思ったから。


 今思うと……あの頃に知りたかったことなんて、大人になってから気付くんだよなぁ。

 そんなの、どうでもよかった。って


 人に合わせるのは疲れる。

 人に好かれようとするのも疲れる。


 嫌われたくないよな。みんな自分が好きなんだ。

 分かるよ。その気持ち。


 でも、嫌われたっていいじゃん?

 嫌われたんなら、こっちも嫌ってりゃあいいんだよ。

 ソイツらとは価値観も違うし、関わらなければソレでいんだからさ。


 本当に大事なのは、自分のことを見てくれる人。

 自分のことを理解してくれる人。

 そんな人を好きになって、大切にしたらいい。


 たったそれだけだった。


 今にして思うと、それだけの簡単なことだったんだよな。


 まあ……

 どこで、いつ出会うかは、分からないけど。

 


 そんな大切な人を、たった一人でも。

 少なくたっていい。

 本当に信頼できる人を……

 あの頃、選ぶことが出来てたなら……



 今と違った未来も、あったのかもな。



─────────────────────────



「んん〜〜、よく寝たなぁ〜〜」



 ッて!!オイィィィ!!

 夢じゃないのかよォォォ!!?



「マジか……」



 え?


 こういうのって、一日寝たら戻ったりする展開じゃないの……?



「夢じゃないって、マジぃ〜〜?」



 こうして───

 三十二歳。売れない作家。

 立波(たてなみ)相哉(そうや)は、中学時代からやり直しを体験するのだった。



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