第一話「立波 相哉──②前編」
※この物語はフィクションです。
目を開けると目の前の世界は真っ白だった。
夢の中にでも舞い込んだみたいに、頭の中がフワフワしてるような感覚だ。
──[現在]──
「うっ、眩しぃ……」
「ココは…?
どこだ……?」
意識がハッキリとしたボクは、目を覚ました。
「えっ?」
「なんで…これ」
目が覚めたオレの視界に映ったのは、学校の教室だった。
「タテナミー
何か言ったかー?」
黒板の前で振り返る教師から声をかけられると、反射的に言葉が出ていた。
「へっ!?
あ、やっ……な、何でもないです!!」
オレは、あまりの驚きに動揺して勢いよく椅子から立ち上がっていた。
クラスの生徒から一斉に視線が集まり、恥ずかしくなったオレは、すぐに椅子に座り直した。
「す、すみません……」
クラスの生徒がクスクスと笑う中、オレは必死に考えていた。
(なんで……
そんなことってあるのか?)
(オレは……
今年で三十二だった。ハズだ。)
何が起きた?
まさか夢?
いやいや、この感覚は夢じゃない。
声も出せるし、感触もある。
夢ならこんな鮮明に物の感覚を感じれるわけ……
まてよ、タイムスリップした?
そんな漫画みたいなことがあり得るのか!?
「マジかよ……」
思わず溢れる言葉に、いまだに何が起きてるのか理解が追いついていなかった。
オレは夢だと思いながらも、ただ、その場で時間が過ぎるのを待つしかなかった。
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昼休みになり、オレは一人で屋上に来ていた。
昨日は、あれ……何してたんだっけ。
確か、新作の執筆をしてて……
アイデアが浮かばないから、夜中に散歩に出たんだっけ?
歩いてる途中に、なんか明るい光が見えて……
それで……
うーん……その後のことが思い出せない。
確かに三十二歳だったハズなのに
今、オレは中学校の制服を着ている。
おかしい。
ピチピチの肌やヒゲだって無い。
トイレの鏡で確認したけど、見た時は驚いた。
なんせ、本当にあの頃の自分に若返ってたからな。
うーん。ここでいくら考えてもなぁ〜。
夢だとしたら、目が覚めるまで待つしかない、か。
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そうしてオレは、曖昧な記憶を元に学校での一日を終え、自宅に帰ろうとしていた。
「──って!」
「この時代のオレは
一人暮らしじゃないんだったぁぁぁ──!!」
そうだった!
てっきり今の自宅に帰ろうとしていたけど、夢とはいえ、中学生の時に一人暮らしはしてなかったもんな。
なら……実家に帰ることになるのか。
久しぶりだな。
しばらく親の顔は見てなかったし。
色々と迷惑をかけて来たっけ。
いや、それは今もか。
オレの通っている中学──
『菊池原中学校』からは、自転車で二十五分くらいかかる距離だ。
遠い。
三十二歳の運動をしてこなかったおじさんにとって、この距離をチャリで走行するのはかなりキツかった。
「……ハァ……ハァ…!
三十五分くらいかかったか!?」
「……あれ、あんまり疲れ…てない?」
体が若いからか?
まぁいい。
一階建の平屋。見た目もボロい一軒家がオレの実家だ。
何度も見た、見慣れた風景。
懐かしい。
昔は………この家が、嫌いだった。
「ただいま〜〜」
玄関の扉を開け、廊下を進み、横目でゴチャゴチャした荷物が散らかっている──部屋とは呼べないリビングを見ると、電気は付いていなかった。
母さんはまだ仕事中か。
兄貴は……部活だっけ。
オレはそのまま、ある部屋に入っていった。
そう。たった一部屋。
この空間に布団は敷いたまま。それの三分の一を占めている。
三つの布団があり、荷物が置かれ、勉強する場所もない勉強机の上に、カバンをそのまま置いた。
そう……。
ウチの親は、オレが生まれたすぐ後に離婚していた。
別居も済んでいて、赤ん坊だったオレは、母方の実家で育児を受けた。
家族はじいちゃん、ばあちゃん、母と兄、オレを含めた五人で暮らしていた。
実家の部屋はあまりなく、一部屋でオレと母と兄が一緒に過ごしていた。
思春期だったオレは、それが凄く居心地が悪くて
成長するにつれ、自分がしたいことが出来ないストレスに頭を悩ませた。
「はぁ……懐かしいな。
昔は小説を書くことも自由に出来なかったっけ」
「恥ずかしくて、親や兄貴に知られたくなかったからな」
「それに、クラスのみんなにも……はは」
だから、学校でも
家でも小説を書くことが出来なかったんだ。
当時は携帯やパソコンも持ってなかったから、親が仕事でいない時に、隠れて作文用紙にコソコソと書いてたっけ。
家が貧乏だったから、お小遣いはほぼなかったし。
好きなものも買えない。
お願いしたことはあったけど、母親の疲れていく顔を見ていたら、次第に何も言えなくなっていった。
だから、周りの生徒が羨ましかった。
自慢している生徒を見るたびに。嫉妬した。
なんで、なんでオマエばっかり。
なんでオレは……なんで。って。
でも、仕方ないんだって
必死に理解しようとする自分もいた。
それでも、日に日に周りの目を気にするようになっていった。
じゃないと……
クラスで、孤立してしまうと思ったから。
今思うと……あの頃に知りたかったことなんて、大人になってから気付くんだよなぁ。
そんなの、どうでもよかった。って
人に合わせるのは疲れる。
人に好かれようとするのも疲れる。
嫌われたくないよな。みんな自分が好きなんだ。
分かるよ。その気持ち。
でも、嫌われたっていいじゃん?
嫌われたんなら、こっちも嫌ってりゃあいいんだよ。
ソイツらとは価値観も違うし、関わらなければソレでいんだからさ。
本当に大事なのは、自分のことを見てくれる人。
自分のことを理解してくれる人。
そんな人を好きになって、大切にしたらいい。
たったそれだけだった。
今にして思うと、それだけの簡単なことだったんだよな。
まあ……
どこで、いつ出会うかは、分からないけど。
そんな大切な人を、たった一人でも。
少なくたっていい。
本当に信頼できる人を……
あの頃、選ぶことが出来てたなら……
今と違った未来も、あったのかもな。
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「んん〜〜、よく寝たなぁ〜〜」
ッて!!オイィィィ!!
夢じゃないのかよォォォ!!?
「マジか……」
え?
こういうのって、一日寝たら戻ったりする展開じゃないの……?
「夢じゃないって、マジぃ〜〜?」
こうして───
三十二歳。売れない作家。
立波相哉は、中学時代からやり直しを体験するのだった。




