ガウェインとルギド
「ねぇ、なんか食べに行こうよ」ガウェインは、大きな図体をしたルギドを風よけにして歩きながら、声を掛けた。
「ああ、そうだな。昼抜きだったからな、軽く食べるか」ルギドは、頷いた。「しかし、どこに入ったら良いものやら」
「任せなさいって」とガウェインは、ポケットからまるめた小冊子を取り出した。「じゃーん、ロシュの名店ガイド。どうだ!」
「一体、いつ何処で、そんなものを手に入れたんだ?」ルギドは、不思議そうに言った。
「あんたら、戦い馬鹿は、魔獣駆除依頼所で駆除方法について盛り上がっていたけど、あそこは、あちこちから狩人が来るから、街の案内もやっているのよ。で、これはご自由にお持ちくださいって棚に置いてあったから持ってきたの」
「そうだったのか?長い間狩人をやっていたけど、初めて知った」ルギドは、感心して言った。「じゃあ、お前に任せるよ」
「素直な、ルギドってなんか、可愛い」ガウェインは、ルギドの後ろで、小冊子をめくっていたが、やがて「よし決めた猪料理にしよう」と叫んだ。
「肉か、持久力が付きそうだが、夕飯までにこなれるかな」ルギドは不安そうに言った。
「沢山たべなきゃいいんだって」ガウェインはパンとルギドの背中を叩いた。
やがて二人は、『バンズのお店』と書かれた店の中に入って行った。昼が過ぎていたので、店内は空席ばかりで、一人の女性が食事をしていた。
女性は、二人を振り返ると「お好きな席にどうぞ」と言うと、席を立ち厨房の方に「マスターお客さん」と声を掛けてから前の席に戻って食事を再開した。
するとすぐに男性がやってきて、「ご注文は?」と訊いてきた。エプロン姿で、そのエプロンも汚れが目立つところを見れば、ここの亭主で、調理人だろうと思われた。
「軽く食事をしたいのですけど」ルギドが、訊いた。
すると、男性はテーブルの上に置いてあった、メニューを取り上げて二人の前に広げて見せた。「今の時間はランチメニューだけとなっていますが、よろしければ、単品でも作りますよ」と笑みを浮かべた
「俺は、日替わりで、パンは要らない。」ルギドは、あっさりと決めた。しかし、ガウェインは、メニュー表とにらめっこを続けた挙げ句に「猪肉のコンフィ、猪のカツレツ、猪のロースト、猪のシチュー」と続けざまに言い放った。
「お客様、それは多いと思いますけど?」と男は、慇懃に言ったが、ガウェインは首を横に振った。「いえ食べます。ここに来た以上は、絶対食べます!」
そんな訳で、大男の前には小さな料理がぽつんと置かれ、小さく痩せ気味の女性の前には、テーブルいっぱいの料理がどんと置かれる格好になった。
ルギドは、ナイフとフォークで定食を小さく切りながら、大きな口に小さい料理を何度も口に運び入れた。
それに対して、ガウェインは、まるでかぶりつく勢いで、目の前の料理を次々と平らげて行った。
結果的に、テーブルの上には、綺麗に空になったお皿だけが並んだ。
「痩せの大食いって言葉があるけど、よくまぁ、小さい体でそんなに食えるなぁ」
「ううん、大食いっていうか、食べるのが好きなんだよね」ガウェインは、口の周りを拭いた。「あと料理を作るのも好きだし」
「そういや、旅の間のお前の料理は旨いからなぁ、ずっと旅を続けたい気持ちだよ」
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいよ。もし、天命師に射手の運命を指示されなかったら、私は料理人になったんじゃないかって思う時があるよ。うちは、料理屋をやっていたしね。射手の修行に通って居たときも、お店を手伝うのが好きだったよ。可能なら人生を狂わせてもいいから射手を辞めて料理人になりたいとも思ってた」
「そんな事をすれば、人生を狂わせるだけでは済まないぞ、天命師が予言した運命に逆らえば、死ぬほどの辛い思いをした挙げ句、地獄に落ちるぞ」
「分っている、分っているから。こうして射手を続けているし、それなりにちゃんと、修行を積んでいまや金鷲を頂いているんだ。」
「ならいい、ガウェイン、俺は自分の人生に迷いがあるやつとは、組みたくはないと思っている。俺たちの仕事は、常に協力して目の前にある難敵と戦わなければならない。自分を信じるからこそ、仲間も信じられるんだ」
そうとも、自分に与えられた生き方は変えるべきではないのだ。ルギドは自分の心に向って言った。すると、昔のいやな記憶が、思い出されてきた。
もっと若い頃、彼は天命師の予言した運命のまま、槍の修行を続けていた。ある一人旅の最中に、槍の穂が傷み、その修理を道中で見つけた鍛冶屋に頼んだことがあった。
鍛冶屋は老いていたので、仕事ははかどらなかった。そのため彼は鍛冶屋で寝泊まりをするようになり、一刻でも早く修理をしたかった彼は、鍛冶屋を手伝う事にした。その日々がなんと楽しかったことかと思う。
赤く燃えたぎる鉄を叩き、飛び散る火花。それにどれほど感動したことか、鍛冶やの親父も、俺には鍛冶職人の天賦の才があるようだとも言ったものだ。
もし槍の使い手にならなければ、鍛冶屋になっていたかもと思う。しかし、鍛冶屋で長逗留して、自分の人生を疑いそうになったとき、ゴブリンに襲われた。
俺は、鍛冶屋を守り切れなかった。自分の人生を疑った報いだと、ルギドはその時考えた。
しかし、そのことは、誰にも語ったことはない、ふと定められた人生が自分と同じようにしっくりこない思いをしている人間が他にもいるんだなと、彼は初めて知った。それも目の前に。
「どうしたの、とつぜんだまりこくって」ガウェインは、声を掛けた。
「いや、腹一杯になって眠くなってきた。」ルギドは、目をぱちくりさせた。
「じゃあ次の店に行こうよ、冬の衣装を探さないとタルティウに怒られる」ガウェインは、すくっと立ち上がった。




