洞窟の中
クーは、ゴブリンの子が洞窟の中に入ってゆくのを見届けると、マントの中に手を入れ、一枚の掌サイズの鏡を取り出してから、皆に来るようにと手で招いた。フェルは、そこには行かず、突っ立ったっままだった。
フェル以外のメンバーはクーの周りによりそい、地面にある石に立てかけられた鏡をのぞき込むように顔を寄せ合った。
「猿が見ている洞窟の中になる」クーは、暗い壁面が映っている鏡を指しながら説明をした。「やつらの目は私達より夜目に強いから、実際に我々が中に入ったときよりも、こちらの方がよく見えているはずだ」
「途中で殺されたりしないか?」ルギドが不安そうに言った。
「さあね」クーは、ルギドをじろっと見た。「そういうものが居れば、先に分って居た方がいいだろう」
「あ、ああ、その為の猿だものな」
鏡の中の景色は、ゴブリンの子の夜目が余程良いのか、余り暗くならないまま奥に進んでゆく
「壁が光ってない?」ガウェインが鏡を指した。確かに、洞窟内の壁面や床がほのかに光っているように見える。
「冷光虫や冷光コケだろう・・・」クーが答えた。「冷光虫は洞窟内で、光を発して寄ってきた虫を捕まえ、冷光コケは水分に含まれるわずかな栄養を糧にして育ち、やはり光で虫をおびき寄せて胞子を虫に運ばせる」
「詳しいのね」
「狩人としての常識だ。」クーは、冷たく答えた。「この先、氷穴になってゆくぞ」
彼の言う通り、鏡には氷筍が映り込んできた。そしてゴブリンの子の息が白く凝った。
「寒そうだわ」ガウェインは、鏡から冷気が飛び出しそうな気分になった。
鏡の映像の進みが遅くなった。
「ゴブリンの子は、そろそろ限界かしら?」
「未だ行ける」クーは、じっと鏡を見つめた。
周囲は、さらに氷で覆われてゆく。氷筍はさらに大きくなる。ゴブリンの子は、ゆっくりとだが、前進を続けていた。
そして唐突に、一つの大きな氷塊がゴブリンの子の前進を阻んだ。
「これは・・・」思わずタルティウが声をあげた。
「なによ、これ、もう死んでいるじゃん」ガウェインも声をあげた。
氷の中には、一匹のドラゴンが閉じ込められていた。しかもその胸の脇には、巨大な槍が突き刺さっていた。それはドラゴンの心臓に達しているように思われた。
「誰が始末をしたんだ?」思わずタルティウは、フェルを探した。気配が薄く視界に入っても、何故か気がつかない存在を、目でじっくり探した。彼は離れた所で、木の幹に寄りかかりじっとしていた。「フェル来てくれ」と彼に声をかけると、フェルは、ふらりふらりと彼らの傍まで歩いてきた。
「これを見てくれ」とタルティウは、鏡を指した、「氷の青龍が何故かもう死んでいる、記録師に情報は来ていないのか?」
「もし退治されているのなら、私達は此処に来ていないと思いますが」フェルは、鏡を覗いた。「あるいは、入れ違いだったかもしれません。または放浪狩人の手による可能性もあります」
「放浪狩人か・・・あいつら楽しみの為に魔獣を殺しているからな。しかし、確認の為に、入るしかないだろう」タルティウは、じっと鏡を見つめてから、洞窟の入り口に顔を向けた。「死骸の確認も、仕事の内だ。報酬は減るが、仕方有るまい」
クーは、鏡を仕舞い込んだ。その時、鏡に動く者が映ったことを、誰も目にしなかった。




