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氷の青龍

 一行は、夏の盛りだというのに冬服を着て。洞窟中に入った。天井まで高い大きな穴だ。ドラゴンが住むのに充分な大きさがある。クーが先頭に立ち、杖の先に明かりを灯して行く先を照らした。


 湿った岩肌、騒ぐコウモリ達、足下にはその糞がうずたかく積もっている。最後尾をやや離れて歩くフェルはクーの明かりの恩恵を余り受けず。何度かそれを踏みつけた。


 未だ外気の影響がある間、空気が熱い上に湿気の多い洞窟を歩き続けるものだから、誰もが汗だくになっていたが、緊張感からか、手の甲で額の汗を拭いながらも、一言も発せずに闇の中を進んだ。


 やがて、空気が湿り気のある冷たいものに変わってくると、寒さが彼らの顔をなで始めた。彼らの行く手にはゴブリンの子が見せた氷筍が現れ始めた。最初は小さいものだったが、奥に進むにつれてそれは大きくなり、やがて人の背丈ほどになり、寒さも増していった。


 奥へ進むほど中は、どんどんと広くなり、クーの灯りは、洞窟内の壁や天井にさえ届かなくなった。足下は、全て氷で覆われるようになっていた。息は白く凝り手がかじかみ、足下から冷気が体を伝って上がってくる。


「さぶっ」ルギドが、思わず言葉を吐いた。


「あんたの頭、素っ裸だものね。」ガウェインが、思わず言う。


「しずかに」タルティウは、振り返って小声で二人に注意をした。


 洞窟の最深部には達していないが、クーの明かりがやがて巨大な氷の塊を照らした。その近くには、弱り切っているゴブリンの子が丸くなっている。


 透明な氷である。しかも綺麗な四角錐の氷だ。その中に、体を丸めたドラゴンが息絶えているようだった。鏡で見たとおりに、大きな槍が胸部の脇に突き刺さっている。目も口も閉じている。まるで寝て居るようにも見え、凶暴さのかけらも見当たらない。


 だれもが、息を呑んでそれを見つめていた。


「まるで生きているようだ」ルギドが、つぶやおた。


「クー、どう思う?」タルティウが魔法師に訊いた。


「まて、いま調べる」クーは杖の明かりを消した。しかし、周囲は暗闇とはならなかった。周囲から青白い光が降り注いでいるからだった。


「綺麗・・・」思わずガウェインが呟いた、「お星様に囲まれているみたい」


クーは、青白い照り返しに輝く氷塊に杖を向けた。「命を探れ、プロベ ビタ」

すると、杖の先に青白い明かりの球体が集い、それがぐるぐると杖の周りを回ってから、氷塊に飛び、その周囲を回り始めた。


「こいつ・・・」クーは、思わず眉間に皺を溜めた。その瞬間青い光の球が突然破裂した。


「生きているよ」突然若々しい声が、洞窟内に響いた。「昔、君たちの仲間が彼女に深い傷を負わせてね、こうやって氷漬けにすることでようやく命を繋いでいるんだ」


「だれだ!」タルティウが叫んだ。クーの杖に再び明かりが戻った。


 氷漬けの龍の陰から、痩せた一人の男が裸のまま姿を現わした、いやー男ともいえない、誰の目にも性別を判別し難い容姿をそれは持っていた。この冷気の漂う暗がりの中で、それは、白い息を吐きながら、狩人達をなめるように見つめた。黒い縦長の瞳孔を持つ金色の眼球が左右にゆっくり動く。白銀の長い髪が顔に掛かり、それを細く白い指で掻き上げた。

 

「ようこそ、私たちの住まいへ」にやりと笑い、細く青白い舌をぺろっとそれは出した。「あなた達は、狩人のようだね。私の妻を殺しにきたのかな?それとも私をかな?」


「その竜をだ。どけ、異形のもの」タルティウは、すっと剣を抜いた。「未だ生きているなら、殺さねばならん」


「殺させないよ。死ぬのはあなた方だ。」それは、素手のまま彼らにゆっくりと近づいて来た。


「どけ、私達が狩るのは魔獣だけだ」タルティウは、剣の切っ先をそれに向けた


「あれも、また魔獣なのですよ。」後ろでクーが静かに言った。「ドラゴンは全て雌です。雄は人の形に似ています。そして生まれると間もなく雌の体に取り込まれるのですよ

雄は、雌の中で成長し、雌の中にある卵を受精させるのですよ」そんな事を知らないのかとでも言いそうな口ぶりだった。


「ご名答」それは、明るい声で言った。「そう私は、あなた方が狩る対象の生き物なんだよ。」


と言った瞬間、それはいきなりタルティウに接近すると、右手でタルティウの剣先を握り左手で彼女の胸を突いた。彼女は、剣を振り上げるいとまさえ無かった。


「うぐっ」思わず彼女は、うめき声をあげた。それが放った拳により、息が全て吐き出されたのだった。

 そこにルギドの槍がそれの腹を突いた。しかし槍の矛先は、それの腹に突き刺さらず、腹の表面で止まってしまった。ガウェインは、一歩下がり弓を引くとそれの眉間に向って、矢を放った。矢はそれに当たる寸前に大きな音を立てて砕け散った。クーは杖の光量を上げた。それが眩しいのか、それは思わず後ろに飛びすさった、


「流石、黄金級。」それは自分の左手をみながら言った。「いいメイルを付けている。シルシルバかな?本当なら、心臓をえぐりだせたのに、残念。でも肋骨くらいは折れたでしょ」


タルティウはそれが飛び退いくと同時に、膝を地面に突いて、剣を地面に突き立てていた。「くそっ」とあえぎながら悪態をついた。自然と彼女の周りを3人が囲むような体勢を取った。


「なんだあいつは」ルギドが、槍を構えた状態で言った。「矛先がまるで岩にでも当たったかのようだった」


「私の矢も破壊された」ガウェインが、矢でそれを狙いながら行った。「見た目より手強そうだわ」


「大丈夫か?立てるか」クーが、明かりを強く灯しながら、そっとタルティウに話しかけた。


「ぬかった」タルティウは、なんども深呼吸をした、「あいつの言うとおり、肋骨を折られた。シルシルバの防御のおかげでもこの様だ」そうして、立ち上がった。


「気を引き締めなければ、さて、やろうか・・・」タルティウが剣を構えると、3人はさっと散った。「あれが妻というなら人質にするまでだ」


 タルティウは、前に出た。そして剣を斜めに構えた。


「そんななまくらで、ぼくは殺せないよ」それは、軽くリズミカルに跳ねていた。


「ふん!」タルティウは、剣を振った、すると龍が閉じ込められた氷の一部が白い飛沫を飛ばし、ドラゴンの雄もまた、後ろに吹き飛ばされた。


「ひゃぁぁぁ」とそれは、地面に足から落ちると、そのまま後ろに滑るように体を持っていかれたが、すぐさま前かがみになり指を地面に突き立てて止まり、足の親指の先で地面を強く蹴った。

 その間に、ガウェインの矢が立て続けに飛んだ、それは龍が閉じ込められた氷に突き刺さり、爆発した。「くそ、矢が勿体無い」ガウェインが叫ぶが、思ったより氷に穴が穿たれない。「硬い!!」と更に矢をつがえた。


「俺がやる」とルギドが駆け出す。


「やらせるか」それも、また地面を強く蹴った。そしてルギドに接近する寸前で、タルティウがそれの前に立ちはだかった。


「今度は鎧がない足を貰ってやる」それの動きは、目にもとまらないほどだったが、タルティウは、剣を何もないような場所に向って突いた。しかしそこに彼女は手応えを感じた。ドンとそれはタルティウの剣によって突き飛ばされ、ごろごろと後ろ向きに転がった。

 ルギドは、氷に辿り付きガウェインの矢が空けた穴に向って槍を突いた。じゅーーーっと大きな音がして、槍が突き刺さった部分から湯気が上がった。ルギドは、槍に体重を乗せ更に深く槍を氷に潜り込ませる。


「このやろう!」それは、地面を蹴って大きく飛び上がり、氷の上に飛び乗った。すぐさまルギドは槍を抜き飛び退いた。それは、さっとルギドの前に移動し、拳を突き出した。至近距離では、槍は不利である。ルギドが辛うじて拳を避けて、居る間にクーは明かりを発し続けている杖を氷筍に突き刺し、新たにエルピテオに持ち替え、呪文を唱えていた。


 ガウェインの矢が再び宙を舞い、ルギドが空けた穴に矢を放り込んだ。低い爆発音、思わずそれは、悲鳴を上げた。「やめろ!!」そして、爆発のあった場所に駆け寄る、まだまだ氷は吹き飛んでいない、しかし明らかに嵌入がそこを中心に広がっていた。


「これでおわりだ」とクーがエルピテオを氷塊に向けた。


激しい爆発が起きて、蒸気が洞窟に満たされた。視界が失われる中。ガウェインの悲鳴が、ルギドが悶絶する声が、クーの雄叫びが、タルティウの咳き込む声が響いた。


更に何度も何度も、誰かの悲鳴が視界が失われた中で続いた。


「デスシスコ ネビュラ。視界よ戻れ」断末魔の様にクーが叫んだ。すると、視界が唐突に開けた。氷は砕け、槍が刺さった竜が目を瞬いていた。


そして、竜の連れ合いは、タルティウを何度も殴りつけていた。彼女はその度に口から血の混じった唾を飛ばしていた。


クーがそれに向って、杖を向けた時に、床に這いつくばっていたガウェインも矢をそれに向けていた。そして同時に二つの武器がそれにぶつかった。


それは、吹き飛ばされて岩壁に激突した。しかし、死んではいない。


それが、また襲ってくるまでの間に、各自手持ちの回復薬を口にすると、四方に散った。

各自の体力が戻り、傷口が塞がった。


ルギドは、竜に突進すると突き刺さった槍を掴んだ。

「こいつの槍を押し込むぞ」と大声で、叫んだ。


「やるがいい・・・」竜は、静かに言った。「氷漬けのまま生きながらえるのも辛い」


「いやだ」それは、よろよろっと立ち上がりながら、首を横に振った、「お前と別れることなんてできない。もとより結ばれた時から、われらは二人で一つの命、お前がいない世界では俺はいきられない」


「生きろ、たとえ一人になろうとも、私の旦那なそんな弱虫でないぞ。これは餞別だ」と竜は、突然自ら槍を深々と心臓に導いた。大きく開いた口から、赤い球が吹き出した血と伴に飛び出した。「受け取れ・・・」


それは、両手に赤い球を受け取ると、命が失われてゆく竜をじっと見め、そしてその球を口に放り混み、飲み込んだ。


そして竜の瞳から光が消えた。


「竜は始末した。脱出するぞ」タルティウが叫んだ。


「逃がさん!」それは、出口に向って駆け出した狩人達を追い抜き、出口側で大きく両手を広げた。


「ここで、多くの狩人達を屠ってきたが、お前達は、楽に殺さない」それの両手の爪は伸び、かぎ爪状のものと変わった。皮膚もどこかぬめぬめとした感じから、小さい銀色の鱗に覆われていた。


 3人は一斉に武器を振りかざし、ガウェインは矢を放った。全てそいつに命中したが、それは何一つ傷を負っていなかった。


「強い・・・」クーは、エルピテオをそれに向けた、「皆、氷の後ろに隠れろ」


3人は一斉にクーの背後にある、氷筍の後ろに走った。フェルは、それの眼中にすらないようで、それより出口に近いところで傍観していたが、よほどの事がありそうだと、彼もまた物陰に隠れた。


いきなり巨大な炎が、空気を焦がした。自分自身を守るためだろう、クーは同時に防壁も張った。その炎は、こころの中で10を数える程続いた。天井から溶けた氷柱が何本も落下した。


後に残っているのは、骨だけだろうと思われた、


しかし、それは、そこに立っていた。


「では、私の番だね」と言い終わらないうちに、それはクーを突き飛ばして倒していた。そして、鋭い爪がクーの両腕に食い込むと、クーの杖が地面に落ちた。


 フェルは物陰から、息を殺して死闘を見ていた。クーの防壁の影響が彼の周りにも影響を受けたのか、記録師全てに与えられる防護服のおかげなのか、彼は火傷を負うことは無かった。


 ガウェインが、すぐさま物陰から矢を連射するが、それの硬い鱗にはじき返される、しかし多少の注意を向ける事ができた。その間に、ルギドとタルティウは、氷筍の間を伝ってそれとの間を詰め始めた。


ー誰も、氷の青龍の報告はできていないのよーフェルの頭の中で、女性の声が蘇った。


 クーの腕が一本もぎ取られた。悲鳴が洞窟内に響いた。それでもクーの目と残された腕が、杖を求めて地面をさまよった。


ー勇気ってなんだろうねーそう言っていた、友人は死んでしまった。


 タルティウと、ルギドが同時にそれに向って襲いかかった、ガウェインが矢を放った。矢は、自分の意思があるように方向をでたらめに変えながら、塊のようになった戦いの中に向って進んでいた。


 それは、クーの肩を掴んでいた手を放し、剣と槍を同時に受けた、激しい火花が散った後で、タルティウとルギドは後ろに飛びすさった。クーは地面に倒れたまま、のこる腕が地面を探っていた。ガウェインの矢は、それの目をひとつ射貫いていた。


 それは、自ら目から矢を引き抜いた。矢じりには目玉が刺さったままだった。


 タルティウとルギドは、もう一度突進をした。その瞬間、それはにやりと笑みを見せた。


 そして二人の剣と槍が向ってきたとき、それを中心にして爆発のようなものが起きた。

ー自爆?ーフェル、一瞬そう思った。


 しかし、違っていた。地面にはタルティウとルギドが、血まみれになって倒れていた。二人の全身にそれの鱗が、大量に突き刺さってた。そんな状態でも二人は、懸命に立ち上がろうともがいていた。それを援護するように、ガウェインの矢が立て続けにそれに射かけられた。体を守るべき鱗を失ったそれの体に、矢が一本刺さったが、それ以外は全てそれの握り拳の中にあった。タルティウとルギドは、その隙に回復薬を飲んだが、足はよろめいていた。


 どさっと音がしてガウェインが、倒れた。彼女の喉を鱗の一枚が綺麗にかき切っていた。彼女の命が出血とともに失われてゆくのが、フェルにも分った。


 鱗は、ふたたびタルティウとルギドにも向っていった。小さい刃物が一斉に二人に襲い掛かる。二人は辛うじて両腕を盾のようにしてそれを防いだが、二人とも両腕は血まみれとなった。


 3人を襲った小さい鱗は、宙を舞うと、ふたたびそれの皮膚に戻っていった。腕を傷つけられた二人は、血で柄が滑っていたが、タルティウは再び剣を振りかぶり、それに呼応するよういルギドも槍を構えた。


 タルティウの剣が赤くなり、そして徐々に白く輝き始めた、ルギドの槍の穂先も同様だった。


 声はかけなかった、目だけの合図で二人は同時に今できうる最高の技を繰り出した。剣は輝く炎となり、槍の先からは火の玉が飛び出してそれに向った。タルティウは、その火の玉を追う脱兎の様に残された体力の全てを使って疾走した。


 再びそれの鱗が飛び出した、それはタルティウもルギドも襲わなかった。しかし、それの前で集まり大きな盾となって空中に浮かんだ。


 ルギドの火の玉が、盾にぶつかり炎ははじき返された。はじかれたその炎をかいくぐりもせず、タルティウの剣がそれの首を狙って降り落とされた。しかし、鱗の群れは素早く移動してその剣を受け止めた。渾身の一撃であったが、柄を握る血で濡れた手は、その盾をさらに押すことは出来なかった。ふっと力が抜けた瞬間、それは、手を伸ばし剣の刃を掴んだ。じゅっとそれの皮膚が焦げた。


 同時に、タルティウの剣からボルケーノの刻印をはじめ、いくつもの刻印の素がぱらぱらと地面に落ちた。剣は、普通の名剣となり、唖然とした彼女の顔にそれの拳がたたき込まれた。


 タルティウは、鼻血を出してがくっと膝を突いた。その瞬間、ルギドの槍がそれに向ってくりだされた。しかしそれは、体を大きく反らせて、穂先を交わすと。すっと穂先を握った。


「できの悪い使い手を持った槍も可哀想に」と呟くと、槍は地面に落ち。タルティウの剣と同様に、刻印が地面に散らばった。ルギドは、そのときにそれが放った蹴りを腹部に食らい、思わず身をくねらせて地面でうめいた。


 それは、それら落ちた刻印を集め。口に入れては飲み込んだ。そのとき、タルティウは近くにあったクーの杖を掴むと、クーの残された腕の指先に投げた。


 彼らは、戦うのが運命(さだめ)だ。こういう状況は今までも見てきた。しかし、そこまでして、戦いに駆り立てられるのは何故だろう。フェルは、ぼんやりと彼らの戦いを見続けた。使命?名誉?自尊心


 クーは、杖を握り、何かを叫んだ。


 何が起きたのか、フェルは自分でも分らない。分っているのは、気がついた時、そこにあるのは、バラバラになった死体ばかりだということだ。闇が支配する洞窟の中で、クーの明かりを照らしていた杖は既に沈黙し。今ある明かりは洞窟の壁面から発せられる青白い明かりだけだ。その明かりに照らされて惨状が見えていた。


 しかし、その真ん中に、それは平然と立っていた。傷ひとつない。


 フェルは、自分もまた、動かない四肢を感じていた。両腕と、両足が無いようだった。遠近感も無い、どちらかの目が潰れたのだろうか、そして何も聞こえない、命の終焉が近い。


 それは、周りを一度見回し、ゆっくりと、血と肉片が広がる地面を踏みつけてフェルの横を去って行った。


 意識が遠のく中で、かつてタルティウのものだった肉片の中に広がった、シルシルバが弱い光を発したのを彼は見た。それは、まるで自意識を持っているかのように、ずるずると血の海を移動して、フェルの傍にやってくると、彼の上に覆い被さった。


 シルシルバの銀の糸がほつれ、沢山の糸が彼を中心に広がってゆく、そして方々に散っている肉片を絡め取っては、フェルの壊れた組織に繋ぎとめる動作を繰り返した。

 

 多くの血を失ったフェルは、意識を失い、心臓が止まった。しかし、シルシルバの糸は彼の心臓にまとわりつき、心臓を肺を動かした。糸は、広がって居る血を吸い上げては心臓に送り、誰のかさえ分らなくなった肉片をどんどん縫い込んでは彼に結合してゆく


 意識の無いまま、フェルは体を取り戻していた。糸は、彼の中で増殖し、まるで銀色の縫合糸のように、体の表面のありとあらゆる場所に、縫い目ができていた。


 彼は、やがて目を開けた。青白い明かりを浴びながら、上体を起こし。周りを見渡す。そこにあるものは、散らばった命の残滓。


 じっと手を見る。左右対称ではない掌がそこにあった。見慣れた自分の細く頼りない指では無い。その指でさえ、妙に太さのバランスが取れていない。女性のような親指に、太い小指。まるで親指と小指を逆にしたようだ。


「報告しないと」彼は、呟いて、立ち上がった。するとどこからか、小鳥が飛んできて、彼の肩に止まった。「帰らなければ」


 出口の方に向って歩き出すと、小さい手が彼の手をそっと掴んだ。見れば、そこにゴブリンの子が寂しそうな目をして彼を見上げていた。


「そうか・・・生きていたのか」彼もまた、その小さい手を握り返した。「行こうか」


-姿が変わってしまった事は、手を見ても分る。町に帰っても、皆は私を受け入れてくれるだろうか?-フェルの心に不安がよぎる。


-いや、そもそも誰が私達、記録師を人と見てくれただろうか、今更なんだ。行こう、報告すべき責務がある以上、勇気を持って帰ろう-



まずは、プロローグの終わりとなります。

しかし物語が膨れると収拾が付かなくなるし、他にも

あれこれ書いているし・・・気が向いたら続きを書きます


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