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ゴブリンの巣

 一行の進み道は、荒れ果てた状態が続いた。田畑は荒れ果て、家々は朽ちているものが多かった。やがて川が近くをせせらぎとなって道の近くに現れたり、また遠ざかったりした。町を囲む山々の一つを彼らは登りつつあった。


 雨がようやく止んだため、屋根が落ちた廃屋を整理してからさらに一泊し、彼らは廃道を逸れた。かれらを誘うのは、細い獣道だけだった。


 その道を奥へと進むと、木の上、木の陰から、ホーホーと動物の鳴き声が聞こえた。


「猿か?」ルギドが独り言のように呟いた。


「いや、猿を真似ているゴブリンだろう。巣は近いはずだ。」答えたのはクーだった。「全て殺すなよ」


「一匹を生け捕りにするんだな」


「たのむ」クーは、以前から使っている杖を握りながら、静かに何か集中しているようだった。



 すると、ひゅんと一本の矢が木陰から飛んできた。タルティウは、既に気配を察していたのか、剣を抜き放ってその矢に向って剣を振り上げたが、その前に矢は突然空中で止まってしまい、そのまま地面に落ちてしまった。


「軽い防壁を張りました」クーは静かに言った。


「ありがとう」タルティウは、剣を鞘に収めた。「こういう時はだいたい、あちこちに罠が仕掛けてある。あわてふためいて、走りだそうものなら、罠の餌食だ。」そうしてルギドに目配せをした。


「はいはい、じゃあ俺が先頭で露払いをいたしますよ」と槍で地面を突きながら先頭を進んだ。


 すると、突然、地面に一本の大きな丸太が落ちてきたり、蔓で編まれた網が上空に向って飛び上がったり、地面に大きな穴が開いたりした。


「ゴブリンもなかなかやるねぇ、あの未熟な連中め、侮ってられないわ」ガウェインは、つぎから次へと仕掛けられた罠にあきれかえりつつも、次から次へと矢を放った。そのたび木陰のどこかで悲鳴が聞こえた。


 あらかた打ち終えると「レベニオ、矢よ戻れ」と唱えた、しかし生憎というか、クーが張り巡らした防壁に当たって、地面に落ちてしまった。


「そっか・・・こうなるか・・・」ガウェインは、がっくりと肩を落とした、「クー、なんとかならない?」


「あとで、矢に防壁を抜ける刻印を打とう、できるのはそれくらいだな」クーは、地面に落ちた矢を見た。「刻印に耐えればだが。まぁ、いずれにしろ拾わないとそれもできない」


「拾えるの?」


「それは大丈夫だ。」


「ふうん」ガウェインが、腰を落として矢を拾おうとしたその時、地面からいきなり槍が飛び出し、彼女の頬を掠めた。「ひゃっ」


「ガウェイン!!」ルギドは一声あげると、槍をその地面に突き立てた、地面の中から悲鳴が響いた。槍を引き抜くと、赤黒い血が滴った。


「大丈夫か?」タルティウは、そっとガウェインの肩に手を当てた。

「うん、でも悔しい」ガウェインは、そう言いながら矢を拾った、「あいつら許さない」

「ガウェイン、この薬を傷に塗れ」クーがマントの内ポケットから一つの瓶を差し出した。「やつらの武器だ、毒が塗ってあるかもしれない」


「ありがとう」ガウェインは、矢を拾い終わると、それを矢筒に入れてから、瓶を受け取り、薬を頬に塗った。薬指に自分の赤い血がついた。


「ここは、やつらの縄張りだ、油断するな」タルティウは、未だ怒りの表情を隠せないガウェインに言った。


「分っている、油断した私のせいよ」そして瓶をクーに返した、「ありがとう」


 そして、一行は洞窟の入り口に辿り付いた。その周囲には、ゴブリン達が、手に手に剣や山刀、石斧を持って待ち構えていた、弓矢を持っている者も弓を引いていた。ゴブリンには製鉄の技術はないが、人から奪ったそれらの鉄器を使う術は知っているのだろうとタルティウは彼らが持っている武器を見てそう思った。いずれにしろ、狩人達にしてみれば、彼らの存在は稚児に等しい。


「ここが、アルゲンタム ドラコの洞窟か・・・」ゴブリン達が目に入らないように、タルティウは言い、剣を抜いた。剣が光りその光が刃先に集約される。


 それと同時に、ゴブリン達が一斉に彼らに襲い掛かった。矢が放たれ、ゴブリン達は一斉に狩人を目指して駆け出した。タルティウは、素早く剣を横になぎ払った。その瞬間、風が起こり木々は枝を揺らし木の葉が宙に舞った、その木の葉の間を、赤黒い血が飛沫となって飛び散ち、宙を飛ぶ矢は折れた。


 地面には、首のないゴブリン、胴の真ん中で半分になったゴブリン達が、転がっていた。動いているものはいない。瞬殺とでもいうべき動作だった。


「さて、中に入るか」タルティウは、剣を振り鞘に収めた。「クー、明かりを頼む」


クーは、古い杖を手にして一行の先頭に出ると、洞窟の中を照らした。すると悲鳴のような声がしてそれが奥の方へとかけてゆくのが彼らに分った。


「狭い洞窟の中では、私は不利だなぁ」ガウェインが、ぼやいて、弓を背負い短刀を手にした。


「自然の洞窟を更に広げているようだ」タルティウは、鑿の跡が残る岩肌を撫でた。「やつら、どうやって知恵を付けているんだ?」


「戦いを通じて、我々と関わりともったためだと聞いた事がある」クーが静かに言った、「昔の様に簡単に駆除はできないだろうな」


クーの明かりが、奥の闇を切り裂く度に、悲鳴が起き、奥に向って逃げる足音が聞こえた。


「来る。伏せて」とガウェインの叫びが洞窟の中で響いた、彼女はナイフを鞘に素早く戻すと。背にてを伸ばし、片手で弓を掴み、もう一方の手は腰に点けた矢筒から矢を抜いていた。そして、彼女自身も含めて全員素早く腹ばいになった、


 その上を何十本もの矢が通り過ぎた。ガウェインは、次の矢が番えられる前に、素早く身を起こし、片膝を付いた姿勢で、弓を引き、矢を放った。


 矢は炎の固まりとなって洞窟の奥に吸い込まれ、そこで大きな火球となって、辺りを焦がした。洞窟の壁が赤い炎の色で一瞬染まった。その中に、ゴブリンの影が映ったのを、ルギドが見つけた。


「後ろ!」ルギドは、大きな体から信じられない程の敏捷さで立ち上がると、伏せったままのフェルの背中を踏んづけ、矢を放ったばかりで無防備な状態のガウェインに切りつけようとしているゴブリンを槍で突き刺した。槍の穂先はゴブリンの背中を突き抜け、槍を抜くと、わらわらとゴブリンの集団が迫っていた。


「横穴に潜んでいたみたいだな」ルギドの槍は、たった一本であるにも関わらず、まるでそこに槍襖でもあるかのように、襲ってくるゴブリン達を途切れること無く突き刺しては、抜き、そして別のゴブリンを突き刺していた。


槍は、血に塗れ。ゴブリンの死骸が、幾重にも積み重なった。


 クーが、周りをより強く照らすと、確かに、洞窟には横穴が掘られていた。前へ前へと進もうとする気持ちのせいで見逃してしまったのだろうと、タルティウは苦々しく思った。


 奥には、ガウェインの炎の矢で焼け死んだゴブリン達が、嫌な匂いを発して倒れていた。どれも既に事切れている。


「一匹残らず焼き肉にしていないだろうな」ルギドが不安そうに、ガウェインに言った。

「これでも火力は抑えたのだけど・・・」ガウェインは、小さい声で言った。


「子供の巣は最深部にあるはずだ」クーは、先頭を歩きながら答えた。「全滅はしていないだろう」


彼らが前進すると、大きな騒ぎが奥から聞こえてきた。すると、手に手に棍棒などを持ったゴブリン達が統率されるでもなく、ただただ恐怖に駆られたように、襲いかかってきた。


 クーは、光量を上げ、そこでひるんだゴブリンを、ルギドの槍や、タルティウの剣が非情に襲い掛かった。


 ゴブリンは、ほとんどが雌かまだ若い雄だった。それを踏みつけ、さらに奥に向うと、丸太を紐で繋ぎとめてある、扉のようなものがあった。


 ルギドがそれを手でむんずと掴み横に放ると、中に穴があり、ゴブリンの子が身を寄せ合っていた。


「元気そうなもの、一匹あればいい」クーは、その穴に身をかがめて入ると、怯えた目を見開き、震えるゴブリンの子の中から一匹の首筋を掴んで、穴から出た。


 そして、杖の先を洞窟に向けた。「増えすぎるやつらは、始末すべきだ」と言うと。杖の先から青白い炎が、発せられ。子供のゴブリンの悲鳴が響き渡った。


 クーが捕まえた、ゴブリンの子の目は、悲しみから怒り、憎しみに変わっていた。


「こいつを持ってくれ」クーは、ルギドに頼んだ。ルギドはゴブリンの両方の二の腕をしっかり握り、ぶら下げるようにしてクーから奪い取るように受け取った。ゴブリンの子は、大声でわめき、暴れ大きく口を開いて、ルギドの腕を噛もうとした。


「まさに獣だな」ルギドは苦笑いをした。


「これで、大人しくなる」とクーはマントの裏側から、ひとつの金属の首輪を取り出すと、それをゴブリンの子の首に装着した。その途端、ゴブリンの子は大人しくなってしまった。


「これで偵察猿を手にしたな」ルギドが、ほっとして手を放した。ゴブリンの子は、洞窟の床にへたり込んだ。


「此処での目的は果たした。さぁ青龍のいる洞窟に行こう」タルティウは、皆を促した。

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