廃屋の魔法師
町の外れで、石造りの廃屋をクーは見つけた。天井はほとんど無く、崩れかけた壁に囲まれた、いくつかの部屋が残っている。床には、壊れた木製の家具が、バラバラになって散乱している。
壁のあちこちには、「無能」、「落伍者」、「くず」、「死ね」などあらゆる罵詈雑言が書き込まれている。
-町から追い出された、「抗い者」がここに住んでいたのだろうーとクーは、考えた。どんな町にでも、希に天命師によって約束された人生を歩めない者が出る。そういう者は、迫害されるのが常だ。そのため町を捨てて旅に出て、「世捨て人」となる者も居るが、住み慣れた町を捨てきれない者もいる。
この家屋の様子では、そういう奴が、長い間いじめられつづけて自害したか、暴行にあって殺されたのかもなと彼は想像した。えてしてあることだ。
彼は、壁に囲まれた場所で腰を下ろすと、エルピテオの杖を取り出した。握りしめると、自分の中にある力が吸い込まれてゆくような感覚がする。その力に抗いながら彼は、口を小さくあけて、呪文を唱えた。
「スパチウム ムラス」
すると、見えない壁が彼の周りに広がった。その状態で、いくつかの危険な攻撃技を繰り出すつもりだった。
しかし、その途端、彼の周りが火炎に覆われた。
-何だ!ここで攻撃を?-と思い、壁の力をさらに強めた。だが火炎はなかなか、収まらなず、火力が増す一方だった。彼は、精神力ーアニムスを杖が望むままに与え続けた。
すると、かれの求めに応じるかのように防壁はさらに強さを増し。火炎を完全に留め続けた。
やがて、火炎は収まったが、万が一を考えクーは防壁を展開したままにして、その場でじっと周りの気配を感じ取ろうとした。
足音が、近づいてきた。クーは、杖を握りしめ攻撃に移る体勢を整えた。杖が、凶暴な力を発動するためのアニムスの供給をしきりに望んだ。
「全くどうしたんだか、炎がはじかれたみたいだが」突然声がした。
その声に聞き覚えがったクーは、防壁を解除して姿を男の前に現わした。杖ががっかりしたように感じた。
「あれ、クー。なんでこんな所にいる?」ルギドであった。
「なんでだと?、危険な技を使うなら、周りを確認しろ。危うく丸焼きにされる所だった」クーは、怒りを抑えながら言った。
「すまん、すまん。」ルギドは、光り輝く頭をさすりながら謝った。「よもやこんな所に誰かいるとは、思いもしなかった」
「そんな軽率な行動をとっていると、いずれ仲間を殺す事になるぞ」クーは、もう杖の威力を確かめるの止めようと思った。すくなくとも、かなりの防御力もありそうだったからだ。そして、ルギドの脇を通って来た道を戻ろうとした。
「おい、帰るのか?」
「ああ、丸焼きにされるのはごめんだ」クーは、ゆっくりした足取りを止めることなく静かに答えた。
「悪かったよ。」ルギドは、まだ頭を撫でていた。「それより、いま俺の技が止められたのは、お前の魔法のせいか?」
「当たり前だ、そうでもしなかったら、骨になっていた。」
「そうか、止められる程度か」ルギドは、息を吐き。腕組みをした。「意外と威力に欠けるな」
「おい・・・」クーは、足を止めた。「本気で俺を丸焼きにしたいのか?」
「いや、そういう意味ではなくて、鍛冶屋の親父は、この炎は何人といえども止める事はできないと、豪語していたんでね。さっき槍を受け取ったばかりなので、性能を試してみたかったんだよ」ルギドは、槍をクーに突き出してみせた。
「そう思うなら、あとはお前のアニムスが足りないのだろうよ」クーは、そう言うと、廃屋を指した。「この廃屋の壁を見てから考えろよ」そして、ぷいっとまた歩き始めた。
「壁だって?」ルギドは、クーの背と廃屋を交互に見てから、下手にクーを引き留めても、怒られそうだったので、廃屋の壁に向った。
そして、壁をじっとみて、思わずどきりとした。積み上げられた石の表面が、ガラスのように光沢を帯びていたからだった。強い熱は表面だけを一瞬にして溶かし、そしてルギドの技が止まってから固まったのだろう。そっと大きくぶあつい掌を壁に当てるた。まだ熱いが触れない程では無く、そしてつるつるとしていた。
「これを・・・やつは受けたのか?」自分の槍の能力に惚れ惚れする以上に、クーの能力の高さに恐怖のようなものを覚えた。そんな奴を怒らせてしまった。
そんなクーは、何時ものようにゆっくりと町への道を歩いていたが、やがて大きくため息を付くと、路傍に座り込んでしまった。既に廃屋は遠く、ルギドの目の届かない場所だった。
「店主の言った通りだな」彼は、エルピテオを指先でつまみ、じっとそれを見た、「おれのアニムスが尽きてしまそうになるまで、吸い上げやがった」
彼は、そのまま仰向けに寝そべった。太陽が熱い、ゆっくりとその強い光のエネルギーが自身の中に取り込まれるような感覚に満たされた。




