12
あの情けない状態の朝から日が暮れて、目を覚ました俺は夜陰に乗じて町を後にすることにした。
「暗視」系のスキルがあるわけではないが。魔力感知と「盗賊」による補助暗視があるため他人よりは大分有利だからだ。
そして俺は市街地を抜け、ロッククラブが多く棲息するという山道を、書いて貰った地図を信じて隠れつつ渡った。
「なんだ?あんまり敵がいないな…」
まぁ、前情報によると此処のボスMOB、スチールクラブはある事情によって乱獲の対象らしい。
ならばそれまでの道にもMOBが少ないのは当然か。
楽で結構だが夜とはいえPCに出会わないか心配だな…ってまるで犯罪者か俺は。
そして結局俺は誰かに見つかることもなく、サンダーさん達の教えてくれた坑道の入り口にたどり着く。
照明はもちろん用意してあるのだが、敵の目標になりやすいことや、瞬間的な把握さえ出来ればあとは補助暗視と魔力感知ででどうにかなることを考えると、俺は自分のELの光りを利用する事を考えついた。
結構強い光が出せるからな、これ。
個人的には気に入ってるのだがリアルだと「イカみたい」「いっそスポンサーつけたら?」だのと評判が悪かったりする。
それはさておき、坑道の中である。
俺の見通しはちょっと甘かったかも知れない。
そのくらい魔力が方々に渦巻いて、生体反応と思しきものと渾然としていた。
「これは不味いかな…」
時々光りながら進んでいくと、天井に張り付くスライムやら蝙蝠の群れやら、罠状態になった落盤候補地や落とし穴候補地やらが行く手を阻む。
スライムは核を一撃で打ち抜けば倒せるし、蝙蝠の群れも球形に変形指せたエアシールドに籠もれば向こうは手出しできない。
あとは魔力位置を頼りに一匹づつ射落としていくだけである。
罠に関しては…もう避けるか遠くから作動させていくしかない。
そうして坑道内部を移動していくと、ふと地下深くから魔力の迸りのような物を感じた。
サンダーさんのソナーとも大分違う、魔力の…いや、魔力ですらない何かの力が閃いたような印象だった。
それに集中し、油断していたのが不味かった。
ズッ、と自分の体力が「喰われる」のが分かる。
転がって身をかわすと、果たせるかな千切れた人間の上半身を戯画化した様な、半透明の存在がそこに浮いていた。
『ゴースト:戦闘中』
俺は体勢故に弓を射ることもできず、転がった姿勢のままエアスラッシュを放った。
ファイアボルトでも良いのだが、坑道で火は爆発の危険もあると思ったからだ。
そして風の刃は半透明の存在に当たると、それはたやすく霧散して宙に消えた。
思ったより体力はないらしい。
だが、あの気配の無さは不味い。周りに渦巻く魔力を考えると常に気を張っていないと気づけない。
大体、地下の気配が気になる。
あれは一体何だったのか…
幸い、破魔矢も鏑矢もゴーストに効果があった。
といっても、一撃で倒す程ではなく、動きを止めるような物だったが。
それより危険なのが小鬼地獄の短弓である。
手に持っていた弓が引っかかったのでスイッチに出した瞬間ゴーストに触れたのだが、瞬間ゴーストが吸い込まれて無くなったのだ。
どういう原理か分からないが、一撃で倒せるなら超したことはない。
俺はすっかり装備を短弓に切り替え、ゴーストを直接叩くという妙な戦法に移行していた。
『ゾンビ:警戒中』
で、出てきたのがこいつである。
これも短弓で直接叩けば即死するのかな?と思わなくもないが、一匹といえど近寄るには危険である。
とりあえず矢を、と短弓を引き絞り、魔力を込めた一射を当てると――
『レギオンゾンビ:暴走中』
なんかボコボコと再生する巨大な肉塊になって襲いかかってきた!!
何mもある肉塊が廊下を一杯にふくれあがり、山ほどの顔が俺に向かって怨嗟の声を上げる。
足の速さはゾンビの時より少し早いくらいだが、どうしろというのだこんなもの!
とりあえず逃げるぞー!
ズルズルと追い来るレギオンゾンビはきっと今まで吸収したゴーストとゾンビが融合したものなのだろう。ほんと一体何作ったんだ俺。
そして現実逃避する頭とうらはらに脚は落とし穴を避けた所で、俺は振り返って杖を引っ張り出す。
風は威力不足!火は酸欠になる!もうこの方法で倒すしかない!
次いでゾンビが落とし穴に懸かると、巨大な肉の一部が引っかかってゾンビの動きが止まり、魔力の流れがしっかり把握出来だした。
「セルフエナジー・エンチャント!マジックリヴィジョン!」
思考を加速し身体を光らせながら、俺は杖先を魔力に包み肉塊の中のゴースト一体一体の中心を狙って杖を突き入れ、時に叩き付けていく。
すると最初は巨大だったゾンビも、亡霊達が破壊されるにつれて縮み。最後には穴底の普通のゾンビになった。
そして最後にゾンビの魔力の一番濃い所を狙って杖で打ち据えると、ゾンビはぐしゃりと崩れて光りに消えた。
なんだよ、この杖強いじゃん!
しかし、世の中どんな落とし穴があるかわからないものだ、とつくづく思うのだった。
ええ、本当にそう思います。
落ちました。落とし穴。
もう発光と暗視補助はともかく魔力探知ではどうにもならないくらいに魔力が濃くなってます。
出てくる敵はアンデット系ばっかりだったし、多分かなり下層に来たのでしょう。
それはいいんだけどね。
「何お前」
転がり落ちた先の広間に、素で人がいました。
いや、エアシールドで衝撃吸収してなきゃ死ぬくらい落ちたんですけど。
「ええっと、ブレイドです」
「ふーん。俺ソード。なに?デュラハン狙い?」
何今ソードって言った!?
このゲームの伝説の半分くらいそのものの!?
ていうか私が一目惚れしたダガーの材料を作った!?
っていうかそれ以前になんか異様に禍々しい鎧姿に兜無しで既にデュラハンみたいなんですけど!?
「…なんかあわててる?パイ喰う?」
そういうと彼はインベントリから黄色いパイを取り出して差し出してきた。
そうなるともう受け取って食べるしかない。
あまくておいしー。
とかそういう問題じゃなくてですね。
「あ、ありがとうございます、落ち着きました。というかですね」
「うん」
「あなたもなんでこんな所に居るんですか?」
なんかそっけ無くて妙に取っつきづらい。精悍な顔で無表情で、全てが当たり前、みたいな泰然としすぎた感がある。
なんでって言われても、みたいな顔をされたってこっちも困るじゃないか。
「デュラハンを倒したから、その主の龍を倒そうと思ったんだけど、その封印が解けなくってさ」
彼はなんてことの内容に後ろを見返す。
すると巨大な骨と複雑なテントが組み合わさったような物体が闇の奥に見える。
「力技で解こうとしてたら反射ダメージで死に戻り続けてた」
大体一発で死ぬんだよなー、とか気軽に言う。
が、そんな事以上に恐ろしいのは奥の封印と呼ばれる物体である。
――アホのような大量の刀傷が付いていた。
「…もしかして、あの回数斬りつけては死に戻ったんですか?」
俺がおそるおそる尋ねると彼はさらに気楽に答える。
「いや、今日は一回切っても死ななかったから休んで回復したらもう一発行く気。だから数ほど死んでないよ」
そういう問題じゃない。
……というかこの人が発する気配…もしかして……
あの巨大な気配を感じた頃の時刻を告げると、果たして彼は頷いた。
「へぇ、そういうのわかるんだ。じゃあこの封印も分かる?」
あ、なんか迂闊な事言っちゃって凄い無茶振りされそう。
歴戦の鎧の戦士にがっしと捕まれて何とも言えないテント?の前に座らされると、その異様さがよく分かる。
――これ、魔力がほとんど外に出てない。
「これ……」
「うん、やっぱり叩いて壊す?」
破片は使い物になるらしいからもってっていいよ?
といって明らかにサンダーさんの服と同じ布?が手渡される。
ああ、なんか凄い物貰っちゃってるよねこれ…
こんな禍々しい魔力でのものを……
「あれ?」
「ん?なんか気付いた?」
「いや…この布、魔力凄いですよね」
「そうなんだ?」
彼には分からないだろうが、布からはゴーストなどよりよほど禍々しい怨念が出ている。
「でも、この封印?全体からはほとんど魔力が出てないんです」
「ふむ」
「それが多分反射の原因で、所々魔力が出てる所があるから、そこを辿っていけばもしかしたら封印が解けるか…も……」
あ、言っちゃった。
「頑張って解いてくれ」
その覇気はサンダーさん「なんか」とは比べ物にならなかった。
「ウォームアップセンス」
まず俺は自分の魔力感知を強化する。
同時に思考も加速させていき、盗賊の罠解除道具にもセルフエナジー・エンチャントを掛ける。
「マジックリヴィジョン」
そして封印から噴出する魔力の端を摘んではほどき、時に暴れるそれにダメージを受けながら俺は淡々と封印を解いていく。
加速していく演算の中で身体は緑に輝き、世界はどんどんゆっくりになっていく。
絡みつく魔力のの繊細さは度を増していくが、今の俺には丸見えだ。
「開け、開け、開け、開け。開け!」
そしてピンセットと指先が魔力を引き剥がしては毛糸玉のように丸めていく。
思えばこの封印はキャベツの葉脈のような形をしていたように思う。
つまり最後の封印は…
「この背骨みたいなのだ!引き抜くぞ!」
バラバラと砕けていく皮膜?と木材?の間から突き出す一本の背骨の様な物。
これが封印の最後の要だ、と叫んだ瞬間、その背骨はソードによって豪速で引き抜かれていた。
長い、長い。何処までもソードは遠慮なく引き抜く。
長さは20mはあるだろうか、どしゃり、と音がして20mに渡る背骨のような物が地に落ちる。
そしてその先端を見やれば…龍の顔の様な骨が繋がっていた。
『――なぜ封印を解いた』
そして骨の龍はじゃらりと身体を持ち上げ、頭に響く声を出す。よく見れば東洋龍的な小さな手足があった。
「封印されたものを倒すためだ」
両手に剣を構えたソードが堂々と言い放つ。これが主の龍なのだろうか?
『…大地の使徒と光の巫女か。ならばそれも道理か――」
そして、俺はソードを制して言葉を続けさせた。
この龍の魔力は禍々しくない、むしろ神々しい神気とも呼べる物だ。
『ふむ、巫女は分かる様だな。先に言っておこう。我が封印していた物は――』
メリメリ、と周囲に散らばった皮膜?と木材?が集まって行く。
その中央には――俺が引き抜いた魔力の固まり!いつのまに!?
『あちらの贄の固まり。供物の偽邪龍。「ウィッカー」だ』
パン、と軽い音がして、玉になっていた魔力が弾けた。
そして現れたのは…木や布、骨や皮でできた15mほどのハリボテの竜だった。
『ひさしいな光明竜「マルク」。その血肉を贄に我を封じたというのに、破る愚か者が現れて残念だったな?』
「どうせ倒すから関係ないし」
いやいやいやいや、会話に割ってはいる所じゃないだろ!これイベント進行中だろ!?
『だ、そうだ』
くつくつとわらって骨の竜はハリボテの竜を見やる。
ソードは剣を振り直して、具合を確かめていた。
『その鎧…我が僕を倒すに飽きたらず、そこまでの大言壮語……最早死の他はないなぁ』
「なぁに、死ぬだけなら死ぬだけさ」
『はぁっはっはっはっは!掴まれ!使徒に巫女!ヤツごと「跳ぶ」ぞ!』
え!?参戦確定!?
こうなったらやけくそだ、弓を引き出しマルクさんの肋骨にしがみつく。
『今度はその骨すら残らず滅ぼしてくれる!』
と、同時に世界がびゅんと暗転した。
全作主人公登場
次回、龍vs疑竜に関わる




