13
「ああああああああ!!!」
払暁の空に骨の龍が舞い、ハリボテの竜が舞う。
地上何百mだろう、そのまま2匹の竜は明けの雲にむかって飛び上がっていく。
ソードさんはと言えば…ちゃっかりマルクさんの首の上に仁王立ちしていた。
そして遠き山から顔を出す太陽の前で、二匹とオマケつきの戦いが始まった。
最初の戦いはブレス、光を打ち出すマルクさんに対し、黒い炎のウィッカーのブレスがお互いに打ち合い、私たちを掠めていく。
「ひぃぃい!」
こんな状況でもソードさんは一切体勢を崩さず、むしろ斬りかかる隙を狙っている。
一体何なんだあの人!
次いで絡みあうようなドッグファイトの中、なにかしろと言われてもこんな無茶な状況で何が出来るっていうんだ!
その時である。横腹を取られて炎が俺を襲い、俺は思わず思考加速を全開にした。
「マジックリヴィジョン!」
そういやお前の魔力は扱いまくったんだよ!いくらでも弄くりまわしてやれるんだ!
そしてその魔力を釣り上げて別の呪文を唱えながら返す。
「ファイアボルテクス!」
赤く変換されたブレスがウィッカーの翼を少し焼いた。
意外と出来ることあるじゃん!
と、思っていた次の瞬間である。
「うおぉぉぉおおお!!」
ソードさんは飛んでいた。いや跳んでいた。
斬りつけた剣が胴体に食い込み、もう一方の剣が首元を狙う。
防御を全く考えない特攻精神に、ウィッカーも驚いたのか錐もみで引き離しに懸かった。
「のわぁああああ!!」
そして引き剥がされたソードさんが飛び落ちるのを急降下したマルクさんが爪で引っかけ、両者は再び距離を取った。
『勇ましいな!使徒よ!』
「ソードだ!」
『往くぞソード!』
そしてマルクさんは反転してウィッカーと再び交差した。
もうこっちは完全にほったらかしです。
この暴風の中、弓で狙いを付けようとしても当たるもんじゃなさそうだしブレスを弾くくらいしかできることはない。
それにしたって、俺をずらしてブレスを吐かれれば出来る事ではないのだ。
――ってまてよ、ウィッカーはマルクさんのこと光明龍って言ってたじゃん。で、わたし光の御子じゃん?じゃあもしかしたら…
「セルフエナジー・エンチャント!!」
ありったけの魔力をマルクさんに掛けた。いや、ねじ込んだ。
次の瞬間、俺は骨に引っかかっていなければ吹っ飛んでいただろう。
ボン、という爆音と共に骨龍の身体は光を纏って邪竜に飛び掛かった。
『おのれ!巫女の力か!』
『ハハハハハ!光りが溢れよるわ!』
ウィッカーの言う事も無視し、笑うマルクさんは光を吹き付けながら横を駆け抜ける。
こんどはソードさんの斬りつけが入ったようだ。ウィッカーの片翼が少し鈍っている!
しかしこのエンチャントも長く持ちそうにない。
自分の加速した思考によって強化された精神力でも、消費は莫大だ。
そして両者が上を鳥に上空に飛び上がる最中にそれは起きた。
よろめき、落ちた。
どんどん明るくなっていくペールブルーの非現実的な浮遊感の中。
遙か東には太陽が見えた。
――そして俺の中の加速した思考は一つの答えをだした。
「そのまま飛び上がれぇーーー!!!」
きっと心は伝わったのだろう、そのままマルクさんは上昇し、しかしウィッカーの決定的な上を取れない。
そう、此処で俺の成す事は一つ。
――矢を番え、撃つ。
天を駆け回っている時ならいざ知らず、今は直線で落ちているのだ。
なにより、あんな魔力の濃い物相手に遠くから外せるはずがない。そして――
バァン!!
残った魔力のありったけを振り絞り込めた轟音の一撃が、過たずウィッカーの傷ついた羽根を打ち抜き、次の瞬間もう一方の羽根が上からのブレスに焼き切られる。
そして錐もみに落ちるウィッカーの上に誰かが見えた。
ソードさん。アンタまで落ちる事はないだろ。
いや、あれがトドメになるのかも知れないが。
そして、俺たちは、2人と1匹は…暁の山岳に流星となった。
「あれ?」
俺は何もない空間で口を開いた。
普通は死に戻れば町のゲートから出てくる筈だ。
しかし、ここには何もない。速度バグで世界の隙間に落ちたというわけでもないだろうに…
『よくやってくれたな。勇ましき巫女』
と、そんな俺の脳裏にマルクさんの声が響く。
『今なら間に合う故、血肉を蘇らせておこう。あとは自分で何とかするが良い』
ああ、蘇生ってこのゲームだとこんな感じなんだー。
ていうかそこじゃない。
「あとは自分で何とかってなにをだよ!!」
次の瞬間、俺は山岳のど真ん中で目を覚ました。
なるほど、この先の生還は自力でやれ、と。
投げやがったな!
今更落下思い出してタマがヒュンってなったよコラァ!
とりあえず当面の問題を整理しておこう。
現在地は正確な位置は不明。だけど遙か向こうにアインブルクの城壁がちらっと見えるので、北の山岳地帯のど真ん中なのだろう。
次の問題は弓である。
ありったけの魔力に耐えかねたのか、『生きた森の弓』はぼっきり半分に折れてしまっている。
目に見える魔力も無く、完全に死んでしまったようだ。
ここから先、撃つと微妙に何が起こるか分からない例の短弓しか弓がない。
あともう一つは問題といえるのかどうか分からないが、ソードさんが居ないこと。
どこか遠くに落ちたのだろうが、あの人の場合は探しても無駄な気がする。
どうせどこかに勝手に行ってしまったのだろうし…
で、最後の問題。
現在すぐ側に、山岳地帯ボスMOB、スチールクラブがいます。
『スチールクラブ:警戒中』
突然襲ってこないのはアレだろう。
こっちの方が突然降ってきて即死したと思ったら復活したからだろう。
見回せば周りには飛び散ったであろう俺の血の名残があるあたり俺だって関わるには引く。
でも。
『スチールクラブ:戦闘中』
まぁ、だからって見逃してはくれませんよねー。
地面を引っかき回す轟音と共に3mの鉄塊が大地を薙ぐ。逃げて逃げ切れる速さではない。
俺はかろうじて身を翻して避けるが、次いで振り回される鋏に弾かれ、数mを転がった。
「いってぇ……」
だが苦痛の声が漏れるのは元気な証拠。翻すために浮いていて助かった。
しかしなんなんだあの蟹、反応が良すぎる。
身体を転がして体勢を立て直しながら、咄嗟に蟹類の弱点を重い出してファイアピラーを使おうとする。
しかしその瞬間に全身を包む魔力が足りない事を知覚し、全身から冷や汗が出た。
――魔力までは回復してなかったのかよ!
そんなことを考えている間に巨蟹は次の突進を敢行している。
あの反応の良さだ、余裕を持って避ければこっちに手痛い反撃を残すだろう。
ギリギリで避けなければ!
そして次の突進を避けた瞬間――
蟹は高速で回転した。
腹を軸に手足を広げ、独楽の様に手当たり次第を打ち払う動きで俺の横腹を打ち払った。
転げ回った俺を凄まじい衝撃が襲い、吐瀉物がこみあげて口から飛び出す。
そもそも、弓の戦闘距離でもないのにボスと戦おうというのが無茶なのだ。
半ば心の悲鳴に近い言い訳を考えながら、それでもむりやり思考を加速させる。
だって、避けるしかないのだから。
避ける、避ける、避ける。
相手の動きは幸いにも、あとは挟もうとしてくるか手を広げて突っ込んでくる程度たったので、回避はなんとか続いている。
途中、関節にダガーを打ち込むことも考えたが、あいつの反応速度でそれをやるにはこちらの危険が大きすぎるだろう。
途中で弓矢を取り出すことには成功したが、あいつの装甲を抜けるとは思わない。
そもそもこの足下が安定しない状況で瞬時に狙いを定めろ、という方が無理なのだ。
何か対抗策は…対抗策は……!
インベントリを高速で認識しながら対抗策を探す。
が、益体もない素材アイテムばかりで――素材アイテム?
次の瞬間、俺の手にはあのときソードさんから貰ったウィッカーの皮膜があった。
コイツの魔力なら、今の私にも扱える!
「マジックリヴィジョン!」
叫びながら矢の先に皮膜を巻き付けていると、弓と矢が共鳴するように魔力を同調させ始めた。
そうか、大雑把に言って闇の魔力に属する物だから纏めて使えるのか。
そして次の瞬間、避けようの無い突進の前に、俺は巨蟹の腹目掛けて渾身の闇の魔力を混め、今初めて魔法一覧に出現していた魔法を叫んだ。
「デッドブレイズボルテクス!」
耳を聾する轟音が矢のみならず弓までも融かしていく。
それは、ウィッカーの炎と同じものだった。全てを包み、蟹の突進すら覆し、俺すら渦中に飲み込む。
だが不思議と俺にはなんの痛みもない。緑の光りに包まれた身体は炎の中でただじっと残心 を取っていた。
対ドラゴン戦なのにあーっさり終わっちゃいました




