第五話 十倍どころじゃ、済みませんわよ
後日。
フェアリーベル伯爵家は責任を取って、領地の一部を返上。
ロザリンド様は、北の果ての修道院へ送られた。
聞くところによると、そこはワインも紅茶も禁止で、飲み物は白湯のみ。
こぼしても染みにならないので、大変合理的な環境だそうだ。
マリアンヌたち三人の名誉は、正式に回復された。
元婚約者のヘンリー様は、マリアンヌの家の門前で土下座して復縁を願ったらしい。
マリアンヌは門を開けて、にっこり笑い、グラスの水を一杯、ヘンリー様の頭にかけたそうだ。
「アメリー様みたいに十倍はできませんでしたけど。一倍でも、とってもスカッとしましたわ!」
その後、彼女は隣国の穏やかな伯爵令息に見初められ、今はとても幸せそうにしている。
そしてユリウス殿下は、一度だけ私のもとを訪ねてきた。
「アメリー……俺が間違っていた。やり直せないだろうか」
私は黙って、テーブルの上の水差しを見ると、ユリウス殿下は、すごい速さで帰っていった。
心の中で舌打ちをする。
本当に残念でならない。
現在は地方の視察任務で、ちゃんと自分の目で物事を見る訓練をしているらしい。
是非ともがんばっていただきたい。
「アメリー」
王宮の庭園で、ダリウス殿下が私の隣に腰を下ろす。
「ひとつ聞いておきたい。もし私が浮気をしたら、君はどうする?」
私は少し考えてから、にっこり微笑む。
「そうですね。まず、サングリアを用意いたします」
「……十倍か」
「浮気は重罪ですので、百倍ですわ。王宮の裏の湖が、ちょうどよい水深かと」
殿下は吹き出した。
最近、この方はよく笑う。
宮廷の皆様は「王太子殿下が笑うようになった」と、少し怯えているくらいだ。
「では、浮気をしなかったら?」
「え?」
「恩は十倍で返すんだろう?私が生涯、君だけを大切にしたら、それは何倍で返ってくる?」
「そんなの……っ」
私は顔が熱くなるのを感じながら、殿下の肩にこてんと頭を預けた。
「……十倍どころじゃ、済みませんわよ」
「それは楽しみだ」
殿下は私の手を取り、指先にそっと口づけた。
どうせ冤罪で捨てられるなら、せめて盛大に。
そう思ってぶちまけたサングリアの飛沫が、まさかこんな幸せまで連れてくるなんて。
人生、我慢しないほうがうまくいくこともあるらしい。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
数年前「倍返しだ!!」というフレーズが流行りましたね。
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