第四話 特別に、百倍でお返しします
王宮の春のガーデンパーティー。
国王陛下と王妃様がお出ましになる、年に一度の華やかな席。
ダリウス殿下は私を両陛下に紹介すると言って、ずっと腕を組んで離してくれなかった。
「アメリー嬢、話は聞いておるぞ。サングリアの」
「まあ陛下、お恥ずかしい……」
「ふふ、未来の王妃ならそれくらいでないと。わたくしも見たかったわ」
王妃様が扇の陰でころころと笑う。
そこへ、ピンクのドレスが割り込んできた。
「アメリー様ぁ、ごきげんよう」
ロザリンド様の手には、紅茶のカップ。
周囲には国王陛下、王妃様、宰相閣下、騎士団長、各国の大使。
――まさか。
この面子の前で?
ロザリンド様はにっこり笑って、陛下と王妃様の死角になるように立ち位置を調整しながら、カップをほんの少し傾けた。
ぽた、ぽた。
「きゃっ!酷いですわアメリー様!陛下の御前で、わたしに紅茶をかけるなんて!?」
庭園が凍りつく。
私の右腕はダリウス殿下と組まれている。
左手は、王妃様にいただいたばかりのお菓子の皿を持っている。
どう見ても、紅茶をかけられる体勢ではない。
「……ロザリンド嬢」
国王陛下が口を開いた。
「アメリー嬢は、ずっとわしの目の前で、わしと話しておったが?」
「え……あ……へ、陛下、それは、その、死角でしたでしょう?いくらでもかけれますわ!心理的に……!」
心理的に紅茶をかけた。
新しい。
私はそっと、ダリウス殿下を見上げた。
「殿下。さすがに両陛下の御前ですので、今回は我慢を――」
「いや」
殿下は私の腕をほどき、にっこり笑った。
「父上。ヴァルモン家の家訓、ご存じですね?」
「うむ。許そう」
国王陛下は髭を撫で、重々しく頷く。
許されてしまった。
私はお菓子の皿を近くにいた給仕に預け、すぐそばのテーブルに歩み寄る。
そこには、シャンパンを冷やすための銀の大きなワインクーラーが置いてあった。
中身はたっぷりの氷水。
シャンパンのボトルが三本。
ボトルを丁寧に抜いて、テーブルに並べる。
これは王家のシャンパンなので、もったいない。
そして、クーラーを両手で持ち上げた。
「二滴の十倍は二十滴。ですがロザリンド様、今回は陛下の御前での虚偽ですので」
「ま、待って、待ってください、それ、氷――」
「特別に、百倍でお返しします」
ざっばぁぁぁぁぁん!!
「ひゃあああああああっっ!!」
氷水と氷のかけらが、ピンクブロンドの上で盛大に弾けた。
春の陽射しに、氷の粒がきらきらと光る。
ロザリンド様は芝生の上に座り込み、頭のてっぺんに氷をひとかけら乗せたまま、ぶるぶると震えていた。
静まり返る庭園。
王妃様が、扇で顔を隠して肩を震わせ始めた。
騎士団長が咳払いでごまかそうとして失敗し、隣国の大使が小さく拍手をしている。
「さて」
ダリウス殿下が、一歩前へ出るころには先ほどまでの笑みは消えていた。
「ロザリンド・フェアリーベル。国王陛下の御前での虚偽の訴え。王太子の婚約者への冤罪。見過ごすわけにはいかない」
「ち、違うんです!わたし、何もしてないのに……!」
「そうだな。君は何もされていないのに、されたと言い続けてきた」
殿下が視線を向けた先に、マリアンヌが。
そして、その後ろにはエミリー様とカトリーヌ様も。
「過去の件についても、改めて聞き取りをした。すると、ずいぶん多くの者が『実は見ていた』と名乗り出てきた。サングリアの夜会以来、皆、自分の目を信じてもいいと思えたらしい」
マリアンヌが、私を見て小さく微笑む。
ロザリンド様は、今度こそ本当に泣き崩れた。
自分の涙が、誰の心も動かさないことに気づいたのだろう。
ブックマーク、★★★★★、リアクション
よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ





