↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/7

第四話 特別に、百倍でお返しします

 王宮の春のガーデンパーティー。

 国王陛下と王妃様がお出ましになる、年に一度の華やかな席。

 ダリウス殿下は私を両陛下に紹介すると言って、ずっと腕を組んで離してくれなかった。


「アメリー嬢、話は聞いておるぞ。サングリアの」

「まあ陛下、お恥ずかしい……」

「ふふ、未来の王妃ならそれくらいでないと。わたくしも見たかったわ」


 王妃様が扇の陰でころころと笑う。

 そこへ、ピンクのドレスが割り込んできた。


「アメリー様ぁ、ごきげんよう」


 ロザリンド様の手には、紅茶のカップ。

 周囲には国王陛下、王妃様、宰相閣下、騎士団長、各国の大使。


 ――まさか。


 この面子の前で?


 ロザリンド様はにっこり笑って、陛下と王妃様の死角になるように立ち位置を調整しながら、カップをほんの少し傾けた。


 ぽた、ぽた。


「きゃっ!酷いですわアメリー様!陛下の御前で、わたしに紅茶をかけるなんて!?」


 庭園が凍りつく。

 私の右腕はダリウス殿下と組まれている。

 左手は、王妃様にいただいたばかりのお菓子の皿を持っている。

 どう見ても、紅茶をかけられる体勢ではない。


「……ロザリンド嬢」


 国王陛下が口を開いた。


「アメリー嬢は、ずっとわしの目の前で、わしと話しておったが?」

「え……あ……へ、陛下、それは、その、死角でしたでしょう?いくらでもかけれますわ!心理的に……!」


 心理的に紅茶をかけた。


 新しい。

 私はそっと、ダリウス殿下を見上げた。


「殿下。さすがに両陛下の御前ですので、今回は我慢を――」

「いや」


 殿下は私の腕をほどき、にっこり笑った。


「父上。ヴァルモン家の家訓、ご存じですね?」

「うむ。許そう」


 国王陛下は髭を撫で、重々しく頷く。


 許されてしまった。

 私はお菓子の皿を近くにいた給仕に預け、すぐそばのテーブルに歩み寄る。

 そこには、シャンパンを冷やすための銀の大きなワインクーラーが置いてあった。


 中身はたっぷりの氷水。

 シャンパンのボトルが三本。


 ボトルを丁寧に抜いて、テーブルに並べる。

 これは王家のシャンパンなので、もったいない。

 そして、クーラーを両手で持ち上げた。


「二滴の十倍は二十滴。ですがロザリンド様、今回は陛下の御前での虚偽ですので」

「ま、待って、待ってください、それ、氷――」

「特別に、百倍でお返しします」


 ざっばぁぁぁぁぁん!!


「ひゃあああああああっっ!!」


 氷水と氷のかけらが、ピンクブロンドの上で盛大に弾けた。


 春の陽射しに、氷の粒がきらきらと光る。

 ロザリンド様は芝生の上に座り込み、頭のてっぺんに氷をひとかけら乗せたまま、ぶるぶると震えていた。


 静まり返る庭園。

 王妃様が、扇で顔を隠して肩を震わせ始めた。

 騎士団長が咳払いでごまかそうとして失敗し、隣国の大使が小さく拍手をしている。


「さて」


 ダリウス殿下が、一歩前へ出るころには先ほどまでの笑みは消えていた。


「ロザリンド・フェアリーベル。国王陛下の御前での虚偽の訴え。王太子の婚約者への冤罪。見過ごすわけにはいかない」

「ち、違うんです!わたし、何もしてないのに……!」

「そうだな。君は何もされていないのに、されたと言い続けてきた」


 殿下が視線を向けた先に、マリアンヌが。

 そして、その後ろにはエミリー様とカトリーヌ様も。


「過去の件についても、改めて聞き取りをした。すると、ずいぶん多くの者が『実は見ていた』と名乗り出てきた。サングリアの夜会以来、皆、自分の目を信じてもいいと思えたらしい」


 マリアンヌが、私を見て小さく微笑む。


 ロザリンド様は、今度こそ本当に泣き崩れた。

 自分の涙が、誰の心も動かさないことに気づいたのだろう。

ブックマーク、★★★★★、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『無華の花嫁』発売中
無華の花嫁
~華の加護なき無能な少女は、黒薔薇の殿下に愛される~
和風シンデレラ/異能恋愛/黒薔薇の殿下/虐げられ令嬢/救済&溺愛
本作品の文章・タイトル・設定等の無断転載、無断複製、生成AIへの入力および学習利用を禁じます。
― 新着の感想 ―
アイスバケツチャレンジだっけ?あったねー
心理的に紅茶をかけた。 大爆笑wwww
以前見かけた痴漢冤罪の記事で、物理的で不可能距離を指摘された際の抗弁が精神的な痴漢というのを見かけて宇宙猫になったの思い出しました
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。