13 千紘姉さんとデートで手をつなぐ
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6月6日土曜日
今日は課題デートの初回。千紘姉さんとのデートだ。
朝9時過ぎに俺たちはタワマンのエントランスを出る。
千紘姉さんは白いワンピース姿。俺は青い半袖シャツに、ジーンズという適当な服装。
雨が強く降っている。
千紘姉さんが傘を差して俺にくっついてくる。女性用の水色の傘で相合傘だ。
千紘姉さんからシャンプーのいい香りがする。朝シャワーを浴びたのだ。俺とデートだから身だしなみを整えようということなのかな。
多分、何も起こらないと思うけど、ドキドキするな。
「幸斗、雨の日にごめんね」
千紘姉さんがなぜか謝る。
「梅雨だし。しょうがないよ」
俺は千紘姉さんとずっと相合傘ができてうれしいんだけどね。いつも雨の日は女の子たちと相合傘してるけど、100メートル交代だから。
天気予報では明日の日曜日も雨。どっちも同じなら今日行こうということになった。俺は楽しみにしていたからね。
右手で傘を握る千紘姉さんが歩き出すので、俺は右側に並んで歩く。
俺がデート童貞であるように、千紘姉さんはデート処女だ。いや、千紘姉さんは真正処女なんだが……
2人ともデートってものを経験したことがない。そもそも俺たちは児童養護施設育ちだから金がなかった。ゲーセンで遊んだりとか普通の高校生がやるようなことをあまり経験していない。
千紘姉さんにデートの行き先の希望を聞かれて、俺は「姉さんと高校生の普通のデートがしたい」と答えた。俺たちにとっては普通が特別なんだよね。
「普通って何かなぁ」
千紘姉さんはちょっと困ってたから、俺たちはやってみたいことを言い合った。
だから今日のデートプランは千紘姉さんが考えたというよりは2人で決めたものだ。
俺としては千紘姉さんにサプライズをもらうよりも、一緒にやれることの方がうれしい。
最初に向かうのは今岡駅裏のショッピングモール。映画を見るのだ。
大粒の雨が滴ってくる。風も時々吹くから、相合傘では俺たち2人をカバーしきれてない。
「雨、強いね。車を出してもらえば良かったかなぁ」
「俺は大丈夫。普通のデートをするんだから、リムジンで行くとかありえないよ」
ショッピングモールまで15分ほどだしな。大して濡れはしない。
「私、今日、楽しみにしてたのよ」
「本当に? 俺なんかとデートに行くのが?」
「だって今日は幸斗を独り占めできるんでしょ。いつも五等分だけど」
おおおおお――
俺は感激。千紘姉さんは課題デートをめんどくさいと思わず、とても前向きに捉えてくれていた。
千紘姉さんは他の子に勝ちを譲ろうとしている節があったから、デートも乗り気じゃないかもと心配だったのだ。
でも今日は千紘姉さんも一緒に楽しむ気まんまん。
「うんうん、今日は俺を独り占めだよ」
調子に乗って言ってしまった。
「ねえ、幸斗。手、つなごっか?」
千紘姉さんが傘を左手に持ち替えて、右手を俺に差し出してくる。
「いいね」
俺は左手で握る。千紘姉さんの手はあったかい。
手をつないで相合傘だなんて、本当に恋人とデートするみたいだ。
先日から女の子たちと相合傘をしているけど、手はつないでいない。
「幸斗と手をつなぐのって久しぶりよね。昔はよくつないでいたと思うけど」
「小学校低学年の頃だよね。千紘姉さんが手をつないで散歩に連れて行ってくれていたのをなんとなく覚えている」
幼い俺は千紘姉さんに守ってもらって、とても安心していたよ。
「懐かしいわぁ また幸斗と手をつなげるなんて夢みたい」
「姉さんは大げさだな」
「だって、幸斗がだんだん大きくなって、もうすぐ私の元を飛び立っていくんだなって思ってたから」
「ないない。俺はずっと千紘姉さんと一緒がいい」
「ふふ、甘えんぼね。でもうれしいわ」
千紘姉さんは俺に甘えられるのを嫌がらない。
俺は千紘姉さんには遠慮なく甘えられる。
千紘姉さんが俺の手をぎゅっと握る。千紘姉さんが俺を求めてくれているんだ。俺は感激して握り返す。
手を繋ぐのっていいね。会話を交わさなくてもお互いを意識してるってコミュニケーションできてしまう。
ぎゅっ ぎゅっ
ぎゅうっ ぎゅうっ
俺たちは手を握り返す遊びをしながら歩いた。




