84完 桃香のお弁当
◆◇◆
柚子香ちゃんの病気が良くなったことで、桃香も変わった。
桃香が朝からイマイチ高に登校するようになったのだ。
以前は、桃香は病院に見舞いに毎日行っていたが、行かなくても大丈夫になったから。
同じ病気で苦しむ子供を助けるという人生の目標が見つかった柚子香ちゃんは、もう桃香に慰めてもらわなくてもいい。
柚子香ちゃんの治療費は全部、俺が出してやることになって、桃香はもうパパ活なんぞやらなくて良くなったし。俺としては本当に満足のいく結果だ。
俺は桃香を補正してやらないと不公平だと思っていたが、じいちゃんも同じ考えだった。
じいちゃんは氷室さんに命じて、俺をテストさせていた。クソジジイと思ったが、深い考えがあったようなので、許す。
桃香の家族にお金を出してやるのは、他の子は不公平に思うかと心配だったのだが……
千紘姉さんは褒めてくれた。
「桃香さんに難病の妹がいたなんて……本当にいいことをしたわね、幸斗」
麿莉奈も納得。
「桃香さんの抱えている事情が重すぎやわー 桃香さんが不利すぎなので、これでようやく公平なゲームになるというものです。桃香さんが幸斗さんを好きすぎになってしまって困ったものやけど、ウチも頑張ります」
教室では、桃香と麿莉奈が俺を取り合いにするようになった。
昼休みになると――
「ゆきとー あたし、弁当作って来たんだ。食べてくれよー」
前の席の桃香がすかさず俺の席を向いて、弁当箱を渡してくる。
「ウチのお弁当を食べて下さいね、幸斗さん」
左の席の麿莉奈も風呂敷包みを差し出してくる。
「あはは、3人で食べようよ」
「じゃあ、席をくっつけましょう」
俺たちは3人の机の向きを変えてくっつける。
期せずして、お弁当課題バトルが実現しているような状況。
教室の男子どもは、俺が美少女2人にちやほやされるという、ますます受け入れがたい現実を突き付けられている。
俺がいないものとして完全に無視するか、教室の外で昼飯を食べるようになった。
「へへへ、さあどれから食べる?」
桃香が弁当箱の蓋を開ける。
唐揚げ、卵焼き、ほうれん草のおひたし、筑前煮、ごはん。普通のお弁当といった感じである。
「冷凍食品ばっかりやないですか」
すかさず麿莉奈が姑みたいに厳しくディスる。
「うっせー あたしの料理は実戦的なんだ。没落令嬢の遊びと違うんだよ。でも卵焼きは、あたしが作ったんだぜ」
桃香は強気で麿莉奈に言い返している。
桃香は仕事が大変な母親の代わりに家事をしてきたのだ。余裕がなかったんだから、手抜きとディスられる筋合いはない。
俺は桃香の弁当が冷凍食品ばっかりでも全然ダメじゃない。桃香が早起きして、俺のために作ってくれたのがうれしい。
「じゃあ、卵焼きを食べたいな」
「よーし。ゆきとー はい、あーん」
桃香が箸で卵焼きを摘まんで、口に入れてくれる。
もぐもぐ。
やわらかい。砂糖多めの甘い味付け。
「うまい」
「よかったー どんどん食べさすぞ。次はどれがいい?」
桃香が、ぱああっと明るい顔をする。
「待って待って。次はウチのを食べてほしいです。あーんして下さい」
麿莉奈が卵焼きを摘まんで差し出してくる。
まさか俺がSランク美少女2人に順番に食べさせてもらえるなんて……
ぱく
醤油と出汁がよく効いていて、味わい深い。
「うまい」
「幸斗さん、どっちの方がおいしいですか」
麿莉奈は自信まんまん。シェフに特訓してもらってたんだもんね。
「……」
桃香はじっと俺の顔を見ている。負けているんじゃないかと心配なのだ。
「どっちもおいしい。ほんとほんと」
「まじ? やったー」
「もう幸斗さんたら」
麿莉奈は不満気。
「勝敗をつけがたいというのは本当だよ。甘いのと、醤油味と違っているしね」
「どっちがお好みなんですか、幸斗さん。甘いのがいいならそうしますよ」
「うーん。どっちも好きだ」
優柔不断な答えをしてしまう。
だって本当なんだもん。
お嫁様バトルロワイヤルは、5人の女の子がスタートラインにようやく着いたばかり。
俺は桃香の抱えていた事情に向き合うことで、桃香のことを知ることができた。女の子と向き合うって、怖いこともあるし、大変だったりする。でも今の俺はかつてない充実感がある。
これからどんな楽しいことがあるのかね。女の子たちを競わせるのは悪いんだけど、俺はバトルロワイヤルがとっても楽しくなってきた。
単行本一冊分の文字数をお読みいただきありがとうございます。
何度も書き直したので、ちゃんと書けているか心配です。
読者様からご評価をいただきますと、今後の投稿に向けて気合が補充されます。
なにとぞよろしくお願いいたします。




