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68/203

68 ストーカーと戦う2

「ゆきとさんは逃げてくださいっ――」

 ニーナちゃんが叫ぶ。


「ニーナちゃんを守らなくちゃ」

 休憩所の横は濠だ。逃げ道がない。俺が立ち塞がるしかニーナちゃんを守る方法はないのだ。

 

「殺す、殺す、殺す」

 須藤がうわ言のように呟いて、ナイフを構えたままじりじりと間合いを詰めてくる。


「ニーナちゃんは濠に飛び込んで逃げてよっ」

 俺は須藤に対峙したまま叫ぶ。


「わたしは泳げないのです」

 ニーナちゃんから残念な返事がある。


 どうする……どうする……

 こうなったらやるっきゃないか。


 俺は右手を後ろのポケットに突っ込んだ。


「死ねやっ」

 須藤がダッシュして、右手を突き出してくる。


「ゆきとさんっ――」

 ニーナちゃんの悲鳴。


 俺は須藤のナイフの尖端(せんたん)に全集中していた。右にスライドしてかわすが――ナイフは俺の心臓に刺さる――


 咄嗟(とっさ)に体をひねった。ナイフの尖端が俺の左腕をかすめて行く。

 

 須藤とすれ違いざまに、俺はポケットから引き抜いた右手を振り回す。

 右手には収縮式のスタンガンを握っている。ポケットに収まる10センチサイズだけど、親指のスイッチを押すとシャフトが伸びて――須藤の左肩に触れる。


 須藤が、びくんっと痙攣(けいれん)する。


 電圧は気絶させるほどじゃないけど、かなりの衝撃を与えるという。

 護身用として氷室さんに持たされていたけど、使う場面があるとは思わなかった。


 スタンガンを使う状況だと、俺の体も傷つけられる可能性が高い。金持ちケンカせずで、逃げ回るつもりだった。ニーナちゃんを守るため、やむをえずやった。


 須藤はつんのめって、ずざざざっと前のめりに倒れ込む。


「ニーナちゃん、今のうちに逃げよう」

 振り返って叫んだ。


「は、はい」

 ニーナちゃんが俺の方に駆けてくる。


「くうう……殺してやる、殺してやる」

 須藤はよろよろと起き上がり、俺の方を向いてうめいている。


 俺は右手にスタンガンを構えたまま、左手でニーナちゃんの右手を握って走る。リュックやマンガの入った手提げ袋の回収は後回しだ。


 時折、振り返って、須藤を警戒する。須藤は俺たちを追って駆け出した。


 遠くからファンファンファンというパトカーのサイレンが聞こえてくる。俺たちはサイレンの方向に向かって走った。


 俺たちは古城公園の外堀の橋でパトカーを待ち構え、通報したのが俺たちだと訴えた。


 須藤はパトカーを見て反転し、逃走を図る。


 パトカーが須藤を追いかける。須藤に近づいたところで、警官が何人も飛び出して行って須藤を取り押さえた。


 須藤は手錠を掛けられてパトカーに連行されていく。

 他にも続々とパトカーが応援に駆け付けてくる。大変な騒ぎになった。


 俺たちは現場で聴取を受けた後、パトカーに乗せられて警察署でも事情を聞かれることになった。


 俺はスタンガンを食らわせてやったけど、須藤が先にナイフで襲ってきたので正当防衛であることを主張する。ニーナちゃんが俺をずっと弁護してくれていた。


 途中で氷室さんに電話を入れたら、氷室さんが県警の上層部に話を付けてくれた。途端に警察官の愛想が良くなって、俺たちは何も悪くないということになる。


 とはいえ、事情聴取から解放されて警察署を出たのは夜8時を過ぎてからだった。須藤のせいで大変な迷惑を被(こうむ)ってしまった。だが、須藤は少年院行きになると聞かされて一安心だ。


 以前から、ニーナちゃんにストーカー行為を続けて、警察から警告を受けていたにも関わらず、暴行を働こうとしたんだから当然だね。


 警察署にリムジンに迎えに来てもらった。リムジン内のソファーに座った俺の右腕にニーナちゃんが抱き着いている。


「ゆきとさん、守ってくれてありがとうございます。ううう……」

 涙声で感謝を伝えてくる。


「当たり前だよ」

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