66 ストーカー
願わくば、イマイチ高の生徒、できれば同級生にニーナちゃんと手をつないでいるところを見せびらかしたいところ。
俺は周囲をキョロキョロする。イマイチ高生はいないかな……
ん……
150メートルくらい後方に、半袖Tシャツの学生ズボン姿の男子の姿がある。メガネを掛けた小太りの男だ。離れているのでよく見えないが、同級生男子ではなさそうである。この辺には他にも学ランの高校はあるから、他校の生徒かもしれない。
ちっ つまらない。
俺は内心で舌打ちして、前を向き直す。
「ゆきとさんは、1学年上の素敵な彼氏さんなんのです。でもって、わたしはゆきとさんの彼女なのです。きゃー」
ニーナちゃんが悶えている。
「俺と手をつないで、そんなに喜んでもらえるんだね」
「うれしすぎるです。でも、わたしはゆきとさんの彼女に見えるんでしょうか。わたしは背が低いので、ゆきとさんの妹だと思われるんじゃ……」
ニーナちゃんは小学生に見える子だから、心配しているみたいだ。
「はは、ニーナちゃんは髪の毛が銀色だから、兄妹には見えないでしょ」
「そ、それはそうなのです。良かったのです」
ニーナちゃんと手をつないだまま公園の中を突き進んでいき、内堀にたどり着いた。
内堀にかかる橋を渡っていくと、本丸である。内堀のそばには屋根のある休憩所があって、堀の水の中に設置された噴水を眺めることができる。
「ちょっと座って行こうか?」
「はいです」
俺たちは休憩所の椅子に並んで座る。俺はリュックと手提げ袋を置いて、やれやれと一息つく。
お濠の水面に日没間際の赤い太陽が映っている。噴水から直径10メートルくらいの円の形に水が飛ばされて、波紋が揺れている。お濠には鴨が泳いでいるし、なかなか風情のある光景だ。
もう6時近いので、本丸の方には人影が見当たらない。
「夕焼けがきれいだね」
俺は西の空を眺めて呟く。
「ゆきとさんと美しい景色が見られて、しあわせなのです」
ニーナちゃんは日本語がちょっとたどたどしくて、表現がオーバーなとこがある。でもそれがかわゆい。
「俺もしあわせだよ」
気軽に女の子とデートっぽいことができているなんて信じられない。しかもニーナちゃんというイマイチ高きっての美少女で、性格も良い子と一緒だなんて。
他の生徒に見せびらかせないのが残念だな……最近の俺はちょっと調子に乗りすぎかもしれないが、ニーナちゃんを独り占めしているってのはものすごく自慢したいんだよね。
ほんとに誰か回りにいないかな。
改めて俺は周囲を見渡す。
橋を渡ってこっちに来る人間がいる。さっき見かけた学生服のメガネ男子だ。
1人で本丸の方に来て、何するつもりだろう……?
「ひっ」
ニーナちゃんが突然俺にしがみついてきた。
「ど、どうしたの?」
「ストーカーなのです」
ニーナちゃんが男の方を指さしている。
「ええっ!?」
俺はびっくりして男の方を見返す。
男はずんずんこっちの休憩所の方に向かって来る。
「同じクラスの須藤蚊太郎なのです。うちのお店によくやって来て、わたしにしつこく話しかけてくるからお父さんが出入り禁止にして、警察に相談して近づかないように警告してもらったですけど……」
ニーナちゃんが困り果てた声を出している。
「なんだって!? 早く言ってくれれば良かったのに」
俺はニーナちゃんがストーキングされているなんて知らなかった。
ニーナちゃんのお父さんのレストランで、俺は皿洗いのバイトをしていた。ずっと厨房の奥の方で皿を洗ってたから、客席の方で起きていたことはわからなかった。
察するに須藤って奴は4月にニーナちゃんと同級生になって、一目惚れ。ニーナちゃんの親がやっているレストランに行ったりして、ウエイトレスのニーナちゃんにつきまとっていたんだ。
ヤバい気配が漂ってきた。




