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37 氷室さんのコスプレ

「一体どんなコスプレなんですか?」

「氷室さんにぴったりのを選んであげたのになあ」

 俺は涼しい顔で、お寿司をぱくつく。


「幸斗先輩、ゴチになってまーす」

 藍が体育会系らしく御礼を言ってくる。普段は「先輩は変態」と上下関係をないがしろにしているのに。ご馳走の時はちゃっかりしている。


「俺が準備したわけじゃないけど、どんどん食べたらいいんじゃない」

 お寿司とかは食べきれなさそうなくらい並んでいる。


「毎日こんなご馳走が食べられるなんて、やっぱりバトルロワイヤルに参加して良かったです」

 藍は参加が食べ物目当てという口ぶりだ。


「俺は詳しい説明は聞かされてないけど、みんなでセレブ生活を送らせてもらえるんだろうね」

 タワマン最上階に住んでて、カップラーメン食わされるとかはないだろう。俺はラーメン好きだから食べたいんだけど。


 氷室さんのことだから、女の子たちにご馳走を食わせて、「幸斗様と結婚したら毎食こんなご馳走を食べられますよ」と言う。そして競争をどんどん煽(あお)る。


 バトルロワイヤルなんてバカげたことに付き合わせて申し訳ないから、せめてみんな美味しいものを食べてもらいたいと思う。


「氷室さんを連れてきたぜ」

 背後で桃香の声。


「いやー 止めてー」

 悲鳴がする。


 振り返れば桃香が氷室さんの手を引っ張り、ニーナちゃんが氷室さんの背を押して来る。


 氷室さんはSMの女王様のコスプレ。

 黒いレザーのクロスビキニ。胸元がボイーンとなっている。想定よりもデケェで俺はびっくり。


 下半身は黒のTバック。後ろを向いたらお尻がほとんど丸見えになる代物だ。

 そして黒レザーのニーソックス。絶対領域が艶(なまめ)かしい。赤いピンヒールがカツカツと音を立てる。


「すてきー」

 千紘姉さんが歓声を上げる。


「こんなのアラサーが着ていい服じゃないわよっ」

 氷室さんはキレ気味。


「全然OKですよ。むしろアラサーくらいがちょうどいい感じなんで。ほんとイメージにぴったりです」

 俺は満足。

 氷室さんは俺と女の子たちに女王様として君臨して、苦痛を与えて来る人だからね。


「ほらほら、鞭を持って」

「ロウソクもですー」

 桃香とニーナちゃんが小道具を渡す。ロウソクに火はついていない。


 鞭を右手、ロウソクを左手に持った氷室さんは放心状態。


「写真撮っとこっと」

 桃香がスマホをかざす。


「いいですね。いざとなったらネットにバラまいて、氷室さんの社会生命を抹殺してやりましょう」

 藍もテーブルに置いていたスマホを手にする。


 女王様コスプレで弾けちゃってる氷室さんの写真が流出したら、弁護士としての信用は失墜しそうだね。


「こ、こら、止めなさいっ」

 氷室さんがハッとする。鞭を振るって、桃香らを追いかける。


「へへ、1枚撮っちゃったもんね」

「消しなさい。絶対に」


「やだねー」

 桃香が体操服で逃げ回る。

 氷室さんはピンヒールなので、とても歩きにくい。


「ええい。もうこうなったら――私を女王様とお呼びっ」

 氷室さんは立ち止まって開き直る。

 鞭をピシィッとフローリングに叩きつけた。


「あはは、そうそう、堂々としていた方がいいですよ。流出しても、むしろ女王様にしばいて欲しいドMの客が寄ってきます」

 俺は楽しい気分。

 コスプレパーティー最高。


「うう……でもやっぱり流出はさせないで。流出させたら、あなたたちに生まれて来ない方が良かったと思えるくらいの苦痛を与えてあげるから」

 氷室さんは演技なのか本気なのかわからないセリフを吐く。


「Tバックってすごいわぁ……ウチなんか目じゃない感じ」

 麿莉奈が氷室さんの後ろ姿を見て赤面している。

 バニーガールなんてお尻が布で全部隠れているからね。お尻丸出しのTバックとは比較にならない。


「氷室さんは身を挺して、俺たちにコスプレとはこういう物を言うんだと教えてくれているんだ」

「は、はい。ウチも頑張ります」

 麿莉奈は素直に頷く。


 いずれもっと過激なコスプレに挑戦しないといけないと思ってくれたようだ。氷室さんにみんなのお手本になってもらいたいという俺の願いが叶(かな)った。


「ふっ アラサーでこれは痛いですよ」

 藍は冷ややかに鼻で笑っている。


「かわいそうだから、本人には言わないであげて」

 千紘姉さんはやさしいから氷室さんを気遣っている。


 氷室さんのおかげでコスプレパーティーは大盛り上がり。さすがは司会者に選ばれただけのことはあると、みんなを納得させてくれた。


 俺はご馳走をいっぱい食べたし、ノンアルコールカクテルを美味しくいただいた。


 みんなで食べながら、おしゃべりしたので、すっかり打ち解け合った感じ。

 緊張感に溢(あふ)れていたバトルロワイヤル初日だけど、無事にパーティーが終わって、俺は心底ホッとした。

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