36 コスプレパーティー
◆◇◆
ウォークインクローゼットの中。
氷室さんが、ハンガーに吊るされたコスプレ衣装を見ながら顔をしかめている。
アラサー女性がアニメキャラのコスプレなんかありえないって思っているのだろう。
「氷室さんには俺が選んであげますよ。これです。これを着てください」
俺はハンガーに吊るされた衣装を氷室さんの前に差し出す。
「こっこれはっ!? 嫌です、こんなのっ」
氷室さんは顔を真っ赤にして拒絶。
「絶対似合いますよっ バトルロワイヤル司会者にはお手本を示してもらわないといけません。氷室さんがこれを着てこそ、女の子たちは勝負の厳しさを思い知って、ますます頑張るというものですよ!」
俺は有無を言わさない。
「くうぅ…………」
氷室さんはハンガーを受け取って、苦渋の表情を浮かべる。
だが、やがて諦めたみたいで、ハンガーを持ってとぼとぼと出て行った。どこかの空き室ででも着替えてくれるんだろう。
俺はどれにしようかね。
男用のコスプレ衣装もいろいろある。
王様服……ハーレム王みたいで調子に乗っていると思われそうだ。これは、ないな。
魔王様……王様と同様。女の子にご奉仕させてる悪者な感じがしてしまう。
戦士の鎧……かっこいいけど、ニーナちゃんとペアになる感じだ。ニーナちゃんを贔屓していると思われそう。
女の子に気を遣ってばかりの俺は、次々とコスプレ衣装を却下していく。
ドラキュラ……
世界観が他の女の子と被らない。ファンタジーのモンスターだからニーナちゃんと被るといえば被るけどさ。ドラキュラはハイファンタジー系モンスターというよりは、ローファンタジー系モンスターというイメージがある。
藍あたりに突っ込まれたら、そう言い訳する。
よし。俺はこれにしよう。
俺はウォークインクローゼットの中で着替えることにした。ハンガーには見本の写真がついている。写真のとおり着ればいい。
ドラキュラは基本的に普通の服と作りが同じだから、着るのは簡単。
学生服を脱いで、白い長袖シャツ、黒いスーツのズボンに着替える。赤いチョッキを着て、首に白いスカーフを巻く。黒いマントを羽織る。襟の高さが耳くらいまである。襟の色は赤色で、ドラキュラが吸う女性の血を思わせる。黒い革靴を履いて完成だ。
鏡の前に立つ。
うーん、微妙。
ヨーロッパ人が着たら、かっこいいんだろうけどさ。俺は貧弱な男ですからね。
まあいっか……俺はしょせんどれを着ても大差ないでしょ。
俺がちょっと笑える姿であってこそ、女の子たちは気が休まるというものだろう。初日から過酷な目に遭わせちゃったからな。
パーティで主役の俺が不在だからな。しょぼい姿でも、早く行ってあげた方が喜ばれるというものだろう。
色々言い訳を考えて、俺はパーティーエリアの方に歩いて行く。
丸テーブルがいくつもあって、お寿司、サンドイッチ、ピザとかが置かれている。立食パーティー形式だ。
コスプレ姿の女の子たちは、小皿にお寿司を載せてわいわいやっている。飲み物にはノンアルコールカクテルもある。
バニーガールの麿莉奈が俺に気づいて振り返る。
「幸斗さん、すてきやわー」
お世辞じゃない感じで言ってくれる。
「わー ゆきとさん、かっこいいのです」
ビキニアーマーのニーナちゃんが目を輝かせている。
「いいねぇゆきとー それ何のコスプレ?」
体操服ブルマの桃香がもぐもぐしながら聞いてくる。何かわかなんないけど、褒めてくれてる。
「ドラキュラなんだけどね」
「女の子を毒牙にかけようという幸斗先輩らしいです。不穏分子は斬り捨てていいですか?」
新選組隊士の藍が嫌味を言ってくる。
う……言われてみれば、そう思われても仕方ない。
「ち、違うよ。真祖のドラキュラって強くて、厨二心をくすぐるから、それだけだよ」
俺は意味不明な言い訳をしてしまう。
「幸斗、かっこいいわぁ。スーツが似合うなんて大きくなったわね」
セーラー服姿の千紘姉さんが褒めてくれるのはうれしい。ワニの着ぐるみの下はセーラー服だったようだ。
「待ってましたよ、幸斗さん。さあ一緒に食べましょう」
麿莉奈が小皿と割り箸を渡してくれる。
「ありがとう。腹減ったから、いっぱい食べるぜ」
俺は早速お寿司に箸を伸ばす。
ドラキュラはお寿司を食べない気がするけどね。
「氷室さんがなかなか来ませんね」
麿莉奈が振り返るが、氷室さんの姿はない。
「うーん。俺が選んだコスプレが過激過ぎたかな。自分の姿を鏡で見てへたり込んでるかも」
俺の見立てでは、氷室さんのスーツの下には推定Fカップの巨乳が隠れているんだよね。
抜群のスタイルを活かして欲しいんだけど。
「連れてくるです」
ニーナちゃんがとたとた奥の方へ走っていく。
「あたしも行くぜ」
桃香も続く。嫌がる氷室さんを引きずって来るつもりだ。




