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20 妻の手料理

 俺は麿莉奈に海老フライをあーんしてもらって、もぐもぐしながら話す。


「しっかし、麿莉奈に弁当を食べさせてもらうなんて……氷室さんに、抜け駆けだって、怒られないのかな?」


「怒られたって構いませんわー ウチをお嫁様候補にするのは、おじい様の遺言です。失格にはできないはずですよ」

 麿莉奈は開き直っている。没落令嬢ゆえにか結構たくましい。


「……氷室さんは俺の行動をずっと監視してたんだよな。全く気づかなかったんだけど、どうやって……この教室に隠しカメラでもあんのかなぁ。今も見られてるかもよ」


 俺としてはちょっと心配。いつの間にか、氷室さんは俺のお嫁様候補を見つけ出すため徹底的な調査をしていた。


 そして氷室さんはバトルロワイヤルの司会者なんてバカげた役割をきっちり遂行するつもりみたい。麿莉奈は失格にはならないまでも、何かのペナルティを課されるかもしれない。


 あれ……俺が麿莉奈を心配している……女の子が怒られたら可哀そうってだけだよ。

 

「氷室さんは離婚訴訟のプロやから。探偵を雇って、夫の浮気現場を押さえるノウハウを使ったんじゃないでしょうか。幸斗さんの持ち物に盗聴器を仕掛けたり、屋外だとドローンで空撮してたんでしょうね」

 麿莉奈が氷室さんのやり口を推理する。


「ううう……ほんとにそんな感じだ」

 俺がちょっとでも心が動いた女子を突き止められてしまった。プライバシーゼロにされて、恥ずかしいことこの上ない。


「幸斗さん、次はどれにしはりますか?」

 麿莉奈自身は何も食べず、俺に食べさせる係に徹している。


「じゃあ、揚(あ)げ出汁(だし)豆腐を」

「はい、あーん」

 

 ぱくっ


「おいしい。ほんとに料理がうまいよね。誰かに習ったの?」

「ウチの家のシェフですよ。ウチはどこに嫁いでもいいように躾(しつ)けられて来ましたから」


「本格的だな。不思議なのは、お金持ちの家だったら、自分で料理を作らなくてもいいんじゃない? シェフに作ってもらえばいいじゃん」


「でも男性は、妻の手料理が食べたいものでしょう?」

 麿莉奈はさらりと「妻」を口にするから、ドキッとしてしまう。


「……まあ、そうね」

 男は誰だって、女性が愛情を込めて作ってくれた料理を食べたいと思うよ。たとえ美味しくなくたっていい。美味しいなら、最高。


「ウチは、こうして男の人のためにお弁当を作るのは初めてです。上手くできているか、不安でした。本当に大丈夫ですよね?」

「俺の反応で、嘘じゃないってわかると思うんだけど」


「幸斗さんはやさしいから、おいしくないのに、おいしいふりして下さってるんじゃないかと思っちゃいます」


「麿莉奈って、スペック高いのに、謙虚だよね」

「幸斗さんはウチの主人にならはる方やもん。料理が気に入ってもらえるか、ものすごくドキドキしてたまりません」


 麿莉奈はこのお弁当に人生を賭けるくらいの意気込みでいたっぽい。俺が「マズい」って言ったら、バトルロワイヤル敗北に直結しそうだもんな。大変だよ。


 まじで料理がおいしい上に、俺をご主人様扱いして持ち上げてくれるのは気持ちがいい。


 俺はお弁当をありがたく食べさせてもらった。全部食べきれそうだったが、麿莉奈の分が無くなるのは悪い。8割くらい食べて、残りは麿莉奈に食べてもらうことにする。


「ご馳走様。おいしかったよ」

「うれしいわー こんなので良かったら、また作ってきますね」


 勝負弁当だったというのに、麿莉奈は気軽な感じで今後も作ってくれるという。本当に料理が得意なんだな。


 胃袋を掴(つか)まれてしまった。

 正直、俺の麿莉奈に対する好感度がとても上がっている。

没落令嬢の話が続いたので、次回は後輩キャラを登場させます。

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