19 あーんして下さい
男子どもがザワザワしている。
「御池さんと幸斗って、どういう関係?」
「幸斗に弱みを握られて、脅迫されているのか?」
「今、幸斗をボコってやるから大丈夫だよ」
男子どもは俺を悪人に決めつけて、無茶苦茶なことを言っている。
「ウチは、一言でいえば……幸斗さんの許嫁やわ」
麿莉奈が顔を赤くさせて、ぽつり。
「何だって――!?」
「バカなあああ」
男子どもが呻きまくる。
いや、それ、省略しすぎだから。麿莉奈はお嫁様候補5人のうちの1人。でもそれを説明したらさらに炎上しちゃうか。
「幸斗さん、お掛け下さい」
麿莉奈は男子が喚いているのを完全無視。
「う、うん」
俺はおとなしく座ることにした。
麿莉奈も座って風呂敷包みを広げようとする。
「孤児院がどういうことだよ!?」
「てめー、説明しろっ」
ものすごい敵意を向けられているが、麿莉奈を見習って無視することにする。
麿莉奈は三段重ねの重箱を一段ずつ、俺の席に並べていく。机に全部乗り切らなくて、一段は麿莉奈の机に置かれる。
お節料理みたいだけど、パスタやローストビーフなどの洋食もある。
「すごいな、これ全部、麿莉奈が作ったの?」
「はい。全部召し上がって下さるとうれしいんやけど」
「さすがに、こんなには食べられないかもしれない」
「では、ウチは残り物をいただきますので。幸斗さんは召し上がりたいものをおっしゃって下さい。ウチが箸で摘んで、お口に入れて差し上げますから」
麿莉奈が「あーんして」をやってくれるってことだ。
没落令嬢とはいえ、京都の名家のお嬢様が俺にご奉仕をしてくれるという。俺は超絶大金持ちになったけど、そんなことまでされていいの!?
「ふざけんなああああああああ」
男子が吠えている。
「これは悪夢だ。早く醒めてくれ」
「おかしいぞ。夢って気づいたら醒めるものなのに、なかなか醒めない」
麿莉奈は箸箱から塗り箸を取り出す。
「幸斗さん、まずはどれにしはりますか?」
「いいのかな」
「さあさあ」
「じゃあ、ローストビーフを」
俺はローストビーフを食べたことがない。テレビとかで見たことはある憧れの食べ物だ。
麿莉奈が箸を伸ばしてローストビーフを一切れつまむ。
「はい、あーんして下さい」
俺の口元に突き出してくれる。
男子どもの視線が向けられている。かなり恥ずかしい。
だが、やってやる――
「あーん」
口の中にローストビーフが入ってくる。
ソースの味わいが広がる。
もぐもぐ。
肉がやわらかい!
「うまい!」
大きな声を出してしまった。
「良かったぁ」
麿莉奈が、ぱあっと笑顔になる。
「めちゃくちゃうまいよ、ほんとに」
「うれしい。作った甲斐がありましたわ」
「麿莉奈は料理上手だね。でもこんなに作るのは、すごく時間がかかったんじゃ?」
「昨日の夕方から夜遅くまで仕込みですわ。あと、今朝は3時に起きました」
「うわ、あんまり寝てないじゃん。悪いな」
「幸斗さんに喜んでもらいたいなあって頑張っちゃいました、ふふ」
バカップル状態の俺たち。二人の世界を創りつつある。
男子が絶望感溢れる表情を向けてくれている。
ククク。
肩を落として、1人、また1人と去って行った。




