エピローグ
黒竜魔王討伐が終わり、半月程、経った春の晴れた朝。
騎士団見習い達の正騎士試験が行われた。
まずは午前中に剣技の試験が行われる。試験官はローゼン騎士団長と近衛騎士シリウス・レイモンド。ルイス・シャルマン。
そして、今回はディオン皇太子殿下も立ち会われるとの事。
勿論、剣技を教えてきたグリザスも、教養を教えて来たゴイル副団長も剣技の試験に立ち会って、見習い達が良い成績を出して合格するように、祈っていた。
ただ、例年だとせいぜい、3人が合格すれば良い方だと言われている騎士団正騎士試験。
かなりレベルは高い物が求められる。
シリウスやルイスが、一人一人と相手をし、ローゼン騎士団長がそれを見学しながら、後で二人と相談をして点数をつけるのだ。
クロードを始め、20名は皆、緊張の面持ちで試験が始まるのを待っていた。
ディオン皇太子が皆に向かって。
「お前達は、闇竜退治を始め、アマルゼの呪い、黒竜魔王討伐で見事な働きを見せてくれた。全員、即合格にしても良い位だ。騎士団に大事なのは腕もそうだが、何事にも動じぬ心だ。だが、規則は規則。一人一人の力量もある程度の基準に達していなければならない。今日はお前達の個人の力量を、俺の目にしっかりと見せてくれ。」
「「「はいっ」」」
皆、元気よく返事をする。
ローゼン騎士団長が、全員に向かって。
「それでは剣技の試験を始める。まずはクロード・ラッセル。前へ。」
クロードが模造剣を手に、前に進み出る。
相手をするのは、シリウス・レイモンド近衛騎士だ。
互いに構えて、打ち合いを始める。
だんだんと早くなる剣の打ち合いに皆、思わず見とれてしまった。
クロードの剣を受け損ねたシリウスの頬、ギリギリに模造剣を掠らせれば、シリウスも踏み込み、鋭い突きを入れ、クロードは身を捻って上手く避ける。
再び続く激しい剣の攻防。
近衛騎士の中で1~2位を争う、シリウス・レイモンドと対等な攻防に、グリザスも
腕を上げたなクロードと思い、とても嬉しかった。
ローゼン騎士団長が、二人に向かって。
「そこまでだ。見事だ。クロード。点数をつけるまでもない。剣技の試験は合格だ。」
「ありがとうございます。」
続いて、ジャック・アイルノーツ。
彼は近衛騎士ルイス・シャルマンが相手をしたのだが、ルイスも凄腕であるにも関わらず、こちらも見事な剣の攻防を見せた。
グリザスは思う。
将来、クロードが空席になる騎士団長の座を争うとしたら、勿論、近衛騎士シリウスとルイスも強敵だが、このジャック・アイルノーツが一番のライバルになるのではないかと。
彼は頭の回転が速い。いざという時に的確な指示をクロードより早く出せる強みがある。
クロードはクロードで聖剣を持つ程、腕が立ち、魔族にも顔が聞いて、友達も多い。
全てに万能な人間はなかなかいない。まぁクロードは魔族だが。
続いて、ギルバートやカイルも、剣技の試験を受けたのだが、
ある程度のレベルは行っているんだろうが、シリウスやルイスには叶わない。
全ての見習い達の剣技の試験が終わって、即合格を言い渡したのは結局、クロードとジャックだけだった。
それを見ていたディオン皇太子は、楽し気にグリザスに話しかける。
「今年度は剣技のレベルが高い。例年はもっと酷い物だと聞いている。グリザス、お前の指導がよかったのか?お前を剣技の指導官に迎えてよかった。」
「いえ、俺などは、大した事は…でも…」
「でもなんだ?」
「このような、生きがいを俺に与えてくれた事をディオン皇太子殿下と、聖女リーゼティリアには感謝しております。」
「ん…お前が幸せならそれでいい。」
そう言うと、ディオン皇太子は、ローゼン騎士団長達の方へ歩いて行ってしまった。
クロードやギルバート、カイルがやって来て。
クロードが、
「皇太子殿下、何だって?」
「俺が幸せならそれでいいと言っていた。後、俺を剣技の指導官に迎えてよかったと言って下さった。有難い事だ。」
「ディオン皇太子殿下はいい方なんだよね。ルディーンへのストーカー行為がなければ…」
ギルバートがため息をついて。
「有名だから…ディオン皇太子殿下が男の愛人を囲っているって…」
カイルも思い出すように。
「あっちこっちで騒いでいるのを目撃されているからなぁ…。本当に破天荒の勇者だよな。
男の愛人。」
グリザスが3人に向かって。
「俺にとっては本当に恩人なのだが…ディオン皇太子殿下の事はともかく。午後から、一般常識の試験だ。皆、共に頑張ろう。」
グリザスも受ける一般常識の試験。
忙しい中、皆と一緒に一生懸命勉強してきた。
ここは頑張らないと。
いつも勉強を学んでいる騎士団の教室で、見習い達20名とグリザスは席に着く。
ゴイル副団長が皆に向かって。
「これまでの勉学の成果をしっかりと出して、皆、合格をしてくれ。いいな。」
「「「はいっ」」」
助手として働いているリンドノールが、テスト用紙を配る。
そして、筆記試験が始まった。
皆、カリカリと羽ペンを走らせる。
グリザスも必死だった。字は綺麗に書けるようになった。
一般常識も、この国の歴史も、色々と学んだ。
ここで成果を出さないと…。教えてくれたゴイル副団長に申し訳ない。
そして、共に学んだクロードや騎士団見習い達にも。
時間が来て、試験が終了した。リンドノールがテスト用紙を回収していった。
ゴイル副団長が採点する事になっている。その結果は夕方だ。
夕方に王宮の庭で皆、集められて発表があるという事で、
ドキドキしながら、グリザスはクロードと共に、部屋で過ごした。
「クロード、テストの出来はどうだった?」
「うん。まぁ…ゴイル副団長が大事な所は、念を押して教えてくれたから…」
「ああ…俺も頑張ったが、凄く心配だ。」
「グリザスさんは、例え、駄目でも今の立場は変わらないから。ね?」
剣技の指導官という立場は変わらないだろうが、それでも…
ちゃんと一般常識の試験を合格したかった。
そして、夕方…
王宮の庭に皆、集合する。
夕陽で空が赤く染まって綺麗だった。
ローゼン騎士団長とゴイル副団長。
そして、ディオン皇太子の3人が見習い達の前に立ち、グリザスもディオン皇太子の横に立つ。剣技の指導官だからだ。
皆、緊張した面持ちで発表を待つ。
ローゼン騎士団長が口を開く。
「今年度の合格者は、全員合格とする。剣技のレベルも我が騎士団が求めるレベルに全員が達している。一般常識も全員合格ラインだ。後、先程、皇太子殿下がおっしゃっていた通り、騎士として重要な何事にも動じない、その行動力が全員に備わっている事がここ最近のお前達の行動で証明させている。従って20名全員を、マディニア王国騎士団の正騎士と今日を持って認定する。」
「やったーーー。」
「ヤッホー。」
「嬉しいっーー。」
全員が大喜びした。
クロードがグリザスに抱き着いて。
「俺、正騎士になったんだーー。」
ギルバートとカイルも、グリザスに抱き着いて来る。
「有難うございましたーー。グリザス指導官。」
「おかげ様で合格しましたーー。」
他の連中もゴイル副団長やグリザスに抱き着いてくる。
ゴイル副団長は皆にもみくちゃにされながら。
「お前らの頑張りが実った。俺は嬉しいぞーー。」
皆、大喜びする中、グリザスはふと思った。
俺の一般常識の結果はどうだったんだろう?????
ゴイル副団長に聞きたくても、今は皆、大騒ぎの最中なので聞くことが出来ない。
おおおおおいーーー。俺の結果は????( 一一)…
一人、冷静に皆の喜ぶ様子を見ていたローゼン騎士団長がグリザスに向かって叫んだ。
「グリザス。お前も一般常識は合格していたから、安心するがいい。」
「ああ、知らせてくれて有難う。騎士団長。」
ディオン皇太子が、大騒ぎする皆の中に突進していって、
「お前達、これからこのマディニア王国の為に、期待しているぞーー。」
皆を抱き締めて、もみくちゃにした
「「「はいっ」」」
夕陽の中、皆、喜びで、大騒ぎしているのであった。
そして、数日後…
元見習い達は、騎士団見習い寮から引っ越しをしていた。
王宮の庭にある別の寮に移動するか、それとも、近隣の家に住むか、それは自由である。
そして、クロードとグリザスは、住む家が決まっていた。
そう、以前、二人で住みたいなと思って見ていた、あの白い屋敷である。
それなりの広い庭があり、二階建てで、素敵な屋敷だった。
売りに出ていたのだが、クロードの姉のサルダーニャがクロードの話を聞いて、あっさりと買ってくれて。
クロードを甘やかしすぎだろう。と思えるのだが、
どうも、財産分けの一種みたいで。第一魔国の魔王は凄い金持ちらしい。
前の黒竜魔王の宝物を沢山持っていると言っていた。
ミリオンがファルナードを連れて手伝いに来てくれた。ルディーンも手伝いに来てくれた。
ギルバートやカイルは自分達の引っ越しがあるので、手伝いに来れない。
ミリオンが魔法陣を発動させて、そこから荷物を新居に搬送する。
クロードもグリザスも大した荷物も無いのだが、あの木目の美しいグリザスお気に入りのテーブルは貰える事になり、それを魔法陣で搬送した。
新居は部屋が1階に4つ、2階に2つある。西洋風のお洒落な屋敷だ。
リビングは広く出来ており、友達が来てもこれなら、困らない。
荷物を転移し終わり、買っておいたリビングのソファで、一息つきながら、ミリオンが二人に向かって。
「良かったな。本当に…。後は結婚式だけだな。」
グリザスはソファの場所の奥に別に置いた木目が美しいテーブルを雑巾で拭きながら。
「男同士で、結婚式を挙げる必要はあるのか?お前達は式を挙げるのか?」
ファルナードはクロードが用意した冷たいお茶を飲みながら。
「俺とミリオンは式を挙げるつもりはないが…。お前達は挙げた方がいいのではないか?
知り合いが多いだろう?きちっと報告をした方がいい。」
クロードはソファに腰かけて。
「俺も式を挙げたいと思っているんだけど…グリザスさんが嫌がるんだよね。」
ルディーンが頷いて。
「男性同士のカップルはなかなか教会で式を挙げませんからねぇ。」
グリザスはふとかつて思い描いた夢を語ってみる。
「この家で、同期の騎士達と後、親しい人だけを呼んで、祝いの席を設けてくれたらそれでいい。
小さなケーキを用意して、いや、皆で食べられる大きなケーキがいいか…。それで、
祝って貰えたら俺は嬉しい。」
クロードは賛成したように。
「確かに。それがいいかもしれないな…。俺も、同期の騎士達や親しい人達で祝って貰えたら幸せだから。」
ミリオンが嬉しそうに。
「それなら、俺やファルナードも呼んでくれよな。」
クロードが、えええ?って言って。
「ファルナードはともかく、ミリオン、呼ぶの??やだなー。」
「何でお前、俺に対しては冷たいんだ?今日だって手伝ってやっただろう?」
「冗談だよ。冗談。俺もグリザスさんも、ミリオンの事、一番の友達だと思っているから。ね?グリザスさん。」
グリザスは頷いて。
「そうだな。ミリオンには本当に世話になった。是非、ファルナードと二人で祝いに来てくれ。」
ファルナードは、甘えるようにミリオンに寄りかかって。
「勿論、伺わせて貰おう。」
ミリオンはご機嫌よく、ファルナードを抱き寄せながら。
「やっと一番の友達認定、貰ったぜ。愛しいファルナードと共に祝ってやるからな。」
ルディーンがお茶を飲みながら。
「俺も来ていいんですかね?」
クロードがえええ?って声を出して。
「来てくれないんだ。ルディーンも友達だよね。」
「まぁ、ここにいる皆さんに、縛り上げられて拉致された事もありますけれど?
一応、友達ですかね…。」
グリザスもソファに腰かけながら。
「ルディーンも友だから、是非とも来てほしい。」
「グリザスさんに言われたら来ない訳にはいかないでしょう。」
クロードは嬉しそうに。
「有難う。ルディーン。それにしても招待客に悩むよね。皇太子殿下、呼ばないとひがむかな。」
ルディーンが紙を持ってきて、
「ここに書きだしてみれば良いのでは?俺が書いてあげますから、名前を。」
クロードが思い浮かべるように。
「それじゃ、まずはミリオン、ファルナード、ルディーン。義兄上のゾイドリンゲン、姉のサルダーニャ。シルバ、ロッド。同期の騎士19人。フォルダン公爵、フローラ、ローゼン騎士団長、ユリシーズ、アイリーンも呼ばないとマズイかな。複雑だけど。ゴイル副団長、リンドノール。そして、ディオン皇太子殿下、聖女リーゼティリア、フィーネ。ねぇ。セシリア皇太子妃様は呼んだ方がいいのかな?あ、後、モリスディンさんも呼ばないと。グリザスさんの友達だよね。」
ミリオンが考え込むように。
「セシリア様は呼んだ方がいいかもしれないな…。」
グリザスも頷いて。
「確かに呼んだ方がいいと俺も思う。」
ルディーンが皆の名前を書き込んで。
「それじゃ、クロード、グリザスさん。この人達に招待状をね。素敵な祝いの席にしてくださいよ。」
クロードが礼を言う。
「有難う。ルディーン。」
グリザスも。
「有難う。」
ああ、やっと皆に祝って貰えて、結婚出来るのだ。
何て俺は幸せなのだろう…。
マディニア王国に戻って来て良かった。
グリザスは愛しのクロードの手を握り、友達と共に幸せの春を満喫した。
そして…何日か経った春の日差しが暖かい日。
白い二人の新居の屋敷で、皆を招待して、結婚の祝いの席を設けた。
ディオン皇太子殿下はセシリア皇太子妃と共に来て、祝いのお金を沢山くれた。
「クロード。グリザス。結婚、おめでとう。これからも二人して、我がマディニア王国騎士団を盛り上げていってくれ。」
セシリア皇太子妃も。
「この度はおめでとうございます。二人で幸せな家庭を築いて下さいね。」
聖女リーゼティリアは、祝い金の他に、手作りの聖女のお守りをくれて。
「ああ、こんな日が来るなんて。良かったですわ。グリザス様。どうか、幸せになって下さいね。クロード、よろしくお願いしますね。グリザス様を…。」
フィーネは絵をプレゼントしてくれた。
ブーケを被った怪しげな死霊の騎士の花嫁と、目が点のクロードが手を繋いで、
空には虹が描かれている。
「おめでとうございます。本当によかったですっ。早く赤ちゃんできるといいですね。」
おおおおおいいーーー。俺は死霊である前に男だ男っ。どうやって赤ちゃん作るんだ???
次に来たのが、ゾイドリンゲンとサルダーニャ、ロッドとシルバの魔界の魔王達だった。
サルダーニャの王配のゾイドリンゲンは、クロードとグリザスをそれぞれ抱き締めて。
「おめでとう。よかったな。幸せになれよ。困った事があったら、いつでも相談しろ。」
サルダーニャも嬉しそうに微笑んで。
「この度はめでたいのう。弟がまさか男と婚姻するとは思わなんだが、幸せそうでよかった。」
ロッドもシルバも、それぞれ、祝いの言葉を述べてくれた。
他の客達も続々と訪問し、皆、祝いをくれて。
フローラは泣いて喜んでくれた。
「本当に良かったわ。グリザス様、色々あったけど、幸せになって下さいませ。」
ローゼン騎士団長もユリシーズも、おめでとうと、とても、喜んで祝ってくれたが、
アイリーンは複雑なのか。
「おめでとう。」
と一言言っただけだった。そりゃそうだ。婚約破棄された相手の結婚式なのだから。
内心面白くないのだろう。
クロードはアイリーンに。
「本当にごめん…。でも、祝いに来てくれたアイリーンには感謝するよ。アイリーンも幸せになれよ。」
「言われなくても幸せになるわよ。」
そして、騎士団の同期達がはやし立てる中、ケーキ入刀が行われて。
何もかも幸せだった。
グリザス・サーロッド、マディニア王国へ200年ぶりに、帰国してから半年。
今日、クロードの花嫁になったのだが、本当にとんでもない事になってしまった。
ああ…死霊としては異例の生き方であろう…
だが、俺は…クロードと出会った事、良き友に出会った事を感謝したい。
そして、今、とても幸せだ。
皆にはやし立てられる中、クロードが鎧の口元にキスをしてくれた。
グリザスはうっとりと幸せを嚙みしめた。
春の風が窓から花びらを伴って入り込み、二人の幸せを祝うかのように、優しく包み込むのであった。
終わりました。読んで下さった方、有難うございました。
グリザス・サーロッドと言う黒騎士に出会えたことは私の中でとても幸せな経験でした。
本当に有難うございました。




