プレゼントは俺だ…( 一一)
雪が溶けて季節は春になった。
鎮魂祭の準備も忙しく、王宮の庭から魔族達の転移魔法で、機材を国境へ運ぶ様子が頻繁に目撃されるようになった。
そんなとある日の事、グリザスはクロードと痴話喧嘩をしてしまった。
いつも一緒に寝ているベットでとある休日の朝、クロードが。
「もっともっとグリザスさんを俺で一杯にしたい。その鎧の中まで俺で一杯に…」
と朝から鎧をまさぐり、エロい事をしてこようとした。
グリザスは身の危険を感じて。
「頼みから…俺を壊さないで欲しい。鎧の中は骨しかない…俺は死霊なのだ。」
そう言うと、ベットから飛び起きて、部屋から飛び出した。
俺は優しいクロードが好きだ…。
どうしてそんな事を言うのだろう。鎧を壊されたら俺は…。たまらなく怖かった。
オロオロと廊下をうろついていると、ギルバートが声をかけてくれた。
「どうしたんです?クロードと喧嘩でもしましたか?」
「クロードは時々、過激に俺を求めて来る…どうしたらよいか解らない。」
ギルバートは困ったように。
「男性同士の恋愛ってよく解らないけど、クロードは不安なんじゃないかな。
本当に愛されているのだろうか?って…」
廊下を通りかかったカイルが近づいて来て、
「解る解る。きっと不安なんだよ。グリザスさんから愛情を示したら、安心するんじゃないかな。」
グリザスは二人の言葉に。
「俺は十分、愛してるって伝えているし、愛情は示しているんだが。」
「足りないと思いますっーー。」
二人揃って言葉を返された。
そして、ギルバートの部屋に連れて行かれて。
ギルバートが真顔で。
「もし、クロードがグリザスさんに愛想をつかしてしまったら、寂しいでしょう?」
あああ…クロードに捨てられたら俺は生きてはいけない。死霊であるから正確には生きてはいないんだが…。
カイルがグリザスの手を両手で握り締めて。
「だから、ここは プレゼントは俺だ。作戦で行くんです。」
「何だ?そのプレゼントは 俺だ 作戦って…」
カイルが説明をする。
「この国は未婚の女性は、男性に性的な事を望むのはふしだらとされて。もし、それがバレれば、将来の嫁の貰い手はいなくなります。だから、男性が自分の身体にリボンを着けて、
プレゼントは 俺だ っていう事をアピールするお遊びの風習があるんですよ。女性がやったら本気にして飛び掛かる男性が出る可能性が高いので。」
ギルバートも頷いて。
「チョコレートのごとく、俺を食べて下さい ってアピールすると、女性は。
まぁ 可愛い って喜ぶって言う、ちょっとしたお遊びなんですけどね。
まぁグリザスさんはもう、飛び掛かられていますので、クロードに プレゼントは俺だ アピールをして、喜ばせてやったらどうです?」
知らなかったぞ。そんな風習があるなんて…
「やってみる価値はありそうだな。」
「そうと決まったら、リボンを買ってきて、つけてあげますよ。」
二人はノリノリで、部屋にグリザスを残したまま、買い物に出かけてしまった。
グリザスは、自分の部屋に戻りにくく、ギルバートの部屋でぼんやり過ごしていた。
クロードは今、どうしているだろう。何だか顔を合わせづらい…。
しばらくすると、二人が戻って来て、グリザスにリボンをつけてくれた。
腰にリボンを一つ、たすき掛けにリボンを一つ。腰のリボンは右側で花状の形にして結び、
たすき掛けのリボンは肩で花状にして結ぶ。
何故かピンクのリボンだ。
ギルバートとカイルは満足そうに。
「可愛く出来上がりましたよー。」
「さっそく、クロードにアピールして下さいよ。」
二人に廊下へ連れ出される。クロードの部屋をノックすれば、本人の応じる声がした。
「どうぞ。」
二人に部屋へ押し込まれて、グリザスは真正面からクロードと顔を突き合わす。
クロードは驚いているようだ。
「グリザスさん??その格好は一体全体。」
「クロード…。プレゼントは俺だ…。俺を食べて欲しい。」
「へ???今朝の事を気にしているんですか?」
「逃げてしまってすまん。でも…俺の中身は骨だ。乱暴にしないで欲しい。」
クロードはぎゅっと抱きしめてくれた。
「俺の方こそ、不安な気持ちにさせてしまってごめんなさい。なんだか、グリザスさんを前にすると、どうしよもなく、俺で一杯にしたくなる。もっともっと一杯に…。身体の隅々まで俺で満たしたい。」
「俺はクロードの物だ。魂の欠片から、この身体の全てが。どうしようもなく、クロードの事が好きだ。」
「ああ、嬉しいな…。あ、リボンしてきたって事は解いていいのかな?」
ギルバートとカイルがニヤニヤして。
「解くためのリボンだよーー。」
「解いて食べちゃいなよ。クロード。」
クロードがアハハと嬉しそうに笑って。
「そうだね。解いて食べるのってとても美味しいそうだ。そうだ。この 俺はプレゼント。騎士団長に教えてあげようか。」
ギルバートがおったまげたように。
「ええええ?大丈夫なのか?あのお堅そうな騎士団長に。」
カイルも真っ青になって。
「プライド高そうだし…。大丈夫かな。」
クロードはいたずらっ子のように。
「こういうのが流行っているんですよってね。フローラにやってみたら喜びますよーー。って言えば、やるかもしれない。騎士団長の場合、ブランド物のチョコレートって感じだよね。
金色のリボンを結んだら、さらに豪華に見えるかもしれない。」
グリザスは思う。
俺はどんなチョコレートに見えるんだろうか…何だか死霊の黒騎士なんて、いかにも硬そうで、食べられそうもないチョコレートだぞ。
という訳で、金色のリボンを買ってから、
転移鏡を使って、騎士団長の家に皆で押しかける事にした。
今日は日曜日という事で、ローゼンは自宅で新聞を読んだり、月曜の国政会議の資料を見たりして、自室にいた。
ローゼンの屋敷の誰もいない部屋に転移すると。ローゼンの部屋のドアをノックする。
「入っていいぞ。」
そして入ってきたメンバーに驚いたように、ソファで新聞を読んでいたローゼンは。
「何だ?クロード、グリザス…それから…」
ギルバートとカイルの名前までは知らないようだ。
ギルバートが自己紹介をする。
「ギルバート・コンソル伯爵令息です。」
カイルも続けて。
「カイル・セバスティーノ男爵令息です。」
ローゼンはグリザスの姿をじいいっと見つめて来て。
「で?なんだ?そのピンクのリボン姿は??グリザス。」
クロードが金色のリボンを手に。
「騎士団長。プレゼントは俺だ です。」
ギルバートも頷いて。
「流行りに遅れてはいけません。最近、プレゼントは俺だ が流行っているのです。」
カイルもローゼンに向かって。
「ですから、今日は俺達が騎士団長に金色のリボンで飾って差し上げようと。」
ローゼンは明らかに狼狽したように。
「いや、私には必要ない。」
グリザスはここは俺も役に立たねばと思い。
「フローラ公爵令嬢が喜ぶと思う。プレゼントは俺だ で、金色のリボンを着けて愛情表現する事も大事だ。だからここはひとつ。男を見せて。」
ローゼンは一瞬考え込んでいたが、立ち上がって。
「そのような事が流行っているとは知らなかった。それを私がしない事で、フローラが悲しんでいると思ったら私は…。一つよろしく頼む。着替えて来よう。」
ローゼンはガウン姿から、黒と金地の豪華な貴族服へと着替えて来た。
完璧なるパーティへ行く正装である。
クロードはひゅううっと口笛を吹き。
「素敵です。この服ならば金のリボンが合いますよ。」
ギルバートとカイルが。
「さっそく支度をしましょう。」
「お手伝いしますっ。」
ローゼンは金色のリボンを、やはりたすき掛けされ、肩のあたり派手な花状に結ばれ、
腰の辺りにもやはり花状で結ばれて。
俺と違って高級チョコレート感満載だな…騎士団長は…
ローゼンは鏡を見て満足げに頷き。
「どうだ?これならフローラも喜ぶだろうか?」
クロード達が嬉しそうに。
「喜ぶと思います。」
「とても素敵ですっ。」
「お美しいーー。」
口々に褒め称える。
気分を良くしたらしいローゼンは、クロードに。
「フローラを呼んでくれ。さっそく プレゼントは俺だ をやりたい。」
「解りました。その時のセリフは、プレゼントは俺だ 俺を食べて欲しい。 ですからね。間違えないように。」
「成程。解った。」
フローラを迎えに行き、クロードが連れて来た。
フローラに向かってローゼンは。
「フローラ…。」
フローラの前に立つ。フローラは驚いたようにその顔を見つめて。
「プレゼントは私だ。私を食べて欲しい。」
「えええ???ロ、ローゼン様…お熱はないかしら…」
「何でも今、流行っていると聞いた。私は流行に乗り遅れて君が悲しい思いをするのは耐えられない。」
フローラは考え込むように、そしてクロードに向かって小声で。
「流行っていたかしら?これ…とっくの昔に、くだらないって下火になっていた風習よね…」
クロードも小声で。
「流行っていないのか?まぁ流行っているって事で喜んでやってよ。ね?フローラ。」
「仕方ないわね。」
フローラはにっこり笑って。
「ああ、有難うございます。ローゼン様。とても素敵ですわ。後で美味しくリボンを解いて頂かせて頂きます。流行りに乗ってくれて、私を思って下さって、幸せですわ。」
ローゼンに抱き着くフローラ。ローゼンは満足げにフローラを抱き締めて。
案外、これ、流行ったらカップルが、愛を再確認するのにいいのではないか?
グリザスはそう思ったのだが…
どこでどうこの話が漏れたのであろう。
王宮で プレゼントは俺だ が何故か流行り出して。
数日後、クロードとグリザスの所へ遊びに来たミリオンとルディーン、ファルナード、ユリシーズ。
まず、ミリオンが。
「ファルナードが素っ裸の身体にリボンを着けて、プレゼントは俺だ 食べて欲しい って言ってきて俺は驚いたんだが。」
ルディーンも、頷いて。
「俺も、皇太子殿下に会った時に、身体にリボンを着けて、プレゼントは俺だ 有難く食え。
って言われましたがねぇ…どうなっているんです?」
ファルナードがチラリとミリオンを見ながら。
「今、流行っている愛情表現だって言っただろう。ミリオン、喜んで飛び掛かってきたじゃないか…」
ミリオンが赤くなって。
「まぁな…リボン解くのが萌えてだな。」
ユリシーズが感心したように。
「成程。流行っているなら俺もやらないと…アイリーン、喜ぶかな。」
クロードが慌てたように。
「そんなに流行っているんだ…。」
ファルナードが皆に説明する。
「何でもローゼン騎士団長がそれをやって、フローラ公爵令嬢と愛を深めたって有名で、
皆、見習いたいと噂しているらしい。メイド達がそう言っていたぞ。リボンをつけるのは男性限定だそうだ。面白い物だな。」
グリザスは思った。
自分発信でとんだ事になったと。後からクロードに聞いたが、別に流行っている風習って訳でもないらしい。
それからしばらくして、王宮だけでなく、マディニア王国の王都全域で、その風習が流行った。
派手なリボンを着けた男性が、女性に、「プレゼントは俺だ 俺を食べて欲しい」
と言って、きゃぁって顔を赤らめるカップルが増えたとか…
幸せなカップルが増えたのはいいとするか…
春の日差しを満喫しながら、クロードの隣で今日も幸せを感じるグリザスであった。




