恋の乗り換えは勢いで その2
そして、その日の夕方、グリザスが部屋で勉強に励んでいると、ミリオンが再び訪ねてきた。
「クロードならいないが…大事な集まりに出ている。」
そういえばミリオンが、
「大事な集まり?何で俺も呼ばれないんだ?グリザスも…」
「いやその…そういう集まりではなくて、騎士団見習い達の収穫祭だ。」
「収穫祭?」
グリザスは説明する。
「胸の実った可愛いお姉さん達の絵姿がランダムに入った10枚入りのカードを皆で持ち寄って、好みのお姉さんと交換する会らしい。俺も若かったら加わりたかったが、さすがにこの歳では恥ずかしいからな。」
ミリオンはテーブルの前の椅子に腰かけて、へぇーー。と呟いて。
「グリザスは確かに、若い兄ちゃんって感じじゃねぇからな。胸の実っているお姉さんの絵姿って、どうせこの国のそういうエロい絵姿は大した事ないんだろう?だって、ミニスカートで死刑の国だからな。」
「胸のトップを布で隠している絵姿らしい…。ただし、上半身だけしか許可されていないという事だ。下半身なんて描いた日には、それだけで北の牢獄行だろう?その絵師は。」
「だが、この国にだって娼館とかあるんだろう?」
「俺は良く知らないが、あるらしいぞ。営業は許可されているが、そういう店が集まっている地域があって、国が厳しく管理しているって事だ。」
「この国は本当に変わっているよな…。下半身には厳しいんだからさ。」
「何でも10年前だったか?転生者のせいらしい。学園に現れたミニスカートの転生者に高位貴族の息子たちが惑わされて婚約破棄ラッシュが起きて国を乱されそうになったとか…転生者を殺したアイリーンは褒美をもらったらしい。」
「うわっ…そりゃ、厳しくもなるな…。国を乱されたとなると…。所で俺、
ファルナードの護衛、ディオンに言って断ってきた。」
グリザスは驚く。
「えええ?添い寝するという話になっていたと思ったが、それに迫られたんだろう?」
ミリオンは腕を組んで、眉を寄せて。
「人一人の人生を引き受けられねぇよ。俺みたいな適当な男は…。恋人とか出来たら、気を遣わないとならねぇし。定職にもついていないから…。ま、そういう事で。」
その時、ドアをバンと開ける音がした。ディオン皇太子か?いや今回は違う。
「何がそういう事でだっ???ファルナード様に無責任だぞ。」
リンドノールが怒鳴り込んで来た。
ひえっ…修羅場の予感しかしない。
ミリオンは立ち上がってリンドノールに向かって叫ぶ。
「俺に押し付けるな。お前が愛する男なら、しっかりと責任取れ。」
「俺じゃ駄目だから、お前に押し付けたんじゃねーかよ。」
「何が駄目だっ。愛さえあれば何とかなるだろうっ。」
すると、バンとテーブルをリンドノールは叩いて。
「俺は男に抱かれる方が好みだし、筋肉モリモリついた野郎が好きだっつうのーー。
元々は女が好きだったが、帝都で、色々されたせいで、野郎に方向転換しちまって…
みんなファルナード様のせいだっーーー。俺は逃げようと言ったのに、5年も、我慢する羽目になっちまってっ。帝都の事も思い出したくねぇしっ…俺はファルナード様の事を憎んでいる。でも、ファルナード様の事は心配で心配でたまらねぇけど…。もう煮詰まった地獄にいるのは嫌なんだ。」
涙を流して、そのまま床に座り込んだリンドノール。
ミリオンは身を屈めると、その頭をヨシヨシと撫でて、身体を抱き締めてやった。
「辛かったな…リンドノール。どうするかは自分で考えるしかねぇだろ?かといって俺に押し付けられても困るんだが…。この通り、適当な野郎だからな…。」
リンドノールは頷いて。
「取り乱して、申し訳なかった。ミリオンの都合も考えず。
私が距離を置いたらあの方は、少しは自分の事を考えてくれると思うか?甘やかしすぎるのも良くないと思うか?」
「ま、まぁ…どうなんだろうな…。どう思う?グリザス。」
グリザスは困ってしまった。
「俺に振られても困るんだが…せめて今夜だけでもミリオン、添い寝してあげたらどうだ?」
「えええっ???」
「自殺でもされたら困るだろう?」
リンドノールもミリオンに向かって。
「今夜だけでも頼む…ミリオン。私はゴイルの愛人になったので、そちらに行かなくてはならない。それにもう、添い寝する事も苦しい…。」
「あああっ…解ったよ。それじゃ今夜だけ添い寝して、どうするか聞いてみるよ。先の事…。」
ミリオンは二人に頼まれて仕方なく、今夜、ファルナードと添い寝する事になった。
そして、ミリオンは夜、ファルナードの部屋に向かった。
ノックをして、中に入る。
ファルナードはベットの上で身を起こして。
「俺の護衛をやめたと聞いたが…。」
「リンドノールに泣きつかれた。今夜だけ添い寝してやる。ちょっと話もしたい。」
そう言うと、ミリオンは聖剣を置いて、昨日と同じように隣に寝転がった。
ファルナードも隣に横向きに寝転がる。
ミリオンはファルナードに向かって。
「リンドノールは大分、悩んでいたな…お前の事が心配で心配で、でも、憎いとも言っていた。」
クククとファルナードは笑うと。
「そりゃそうだろう。俺のせいで地獄を味わったんだ。奴は帝都の暮らしを楽しんでいるーーって言っていたけどな。竜騎士となって故郷からついてきてくれて、だからこそ、竜騎士の決まりとして俺から離れる事が出来なかった。
もう、竜騎士からも解放してやるのが一番かもしれんな。」
「まぁ、それは二人でよく話し合ってから決めろよ。ああ、それから、お前が前向きたいって言ったら、手伝ってやるよ。勿論、友として。な…。」
ファルナードはミリオンの胸に顔を寄せて。
「俺はお前に恋人になって欲しいと思っている…駄目か?」
「いやその…。俺みたいな無責任なテキトー魔族は止めておいた方がいいと思うぞ。
金は稼いだら稼いだでパァっと使っちまうし。やはり女が一番だし…。悪いな。」
「女よりも…イイって言われる位に、お前を夢中にさせたい…。」
そして唇にキスをされて、抱き着かれた。
ミリオンは困ってしまって…
「ああ…それはその…。と、ともかく添い寝だけで勘弁してくれっーーー。」
2日目の夜も添い寝だけで、終わった関係であった。
(ミリオン、お前はヘタレかっ…BY天の声)
翌日、ファルナードとリンドノールは話し合ったらしく、リンドノールは竜騎士をやめる事にしたらしい。ゴイル副団長を手伝って、騎士団で働く事にしたとの事。
しかし、ファルナードを狙うジュエル帝国の皇族や、帝国に協力している第六魔国の魔の手は、まだ諦めていないだろう。
そして、今…グリザスの部屋に、クロードとミリオン、そして何故かファルナードが共に来ていて、テーブルの前の椅子に座っている。
ファルナードを警護する魔族達がドアの外に5人ほどいるはずだ。
ファルナードは、3人に向かって。
「この度は俺と、リンドの事で色々と迷惑をかけてすまなかった。リンドは、騎士団のゴイル副団長の手伝いとして働く事になった。俺は…帝国に追われていてまだ先行きは見つける事が出来ないが、リンドを開放してやることが出来てほっとしている。
今は黒竜魔王討伐の為に、この身体を作っていくことを最優先にしていきたい。」
クロードは頷いて。
「ファルナード様が元気が出たようでよかったです。帝国や第六魔国にファルナード様がさらわれないように気をつけながら、共に頑張りましょう。」
「ありがとう。」
ファルナードは礼を言う。
ミリオンはため息をついて。
「結局、俺は添い寝を毎夜しないとダメなのか?」
「ああ…恋人はともかく、せめて警護から外れないで欲しい。黒竜魔王が倒せるまでで良いから…。添い寝をしてくれれば安心して俺は良く眠れる。」
「仕方ねぇな…。」
ミリオンは諦めたようだ。まぁ、まずは友達からって事だろう。
グリザスがファルナードに。
「それでは、明日からでもよろしければ、騎士団見習い達を俺が教えている所で、共に身体を作って行ったらいいと思います。ファルナード殿下。」
「有難う。そうさせて貰おう。」
ミリオンがファルナードを見て。
「でも…強すぎて見習い達じゃ相手にならねぇよな。それこそ、グリザスとか…。ユリシーズとか…」
グリザスは頷いて。
「後、クロードとジャック位だな…。俺は見習い達を教えねばならない。だから、ファルナード様は、ユリシーズやクロード、ジャックの相手をお願いしたいのですが。」
「喜んで。お相手させて頂く。楽しみだ。」
クロードが嬉しそうに。
「有難うございます。勇者ファルギリオンと、勇者ユリシーズと一緒に鍛錬できるなんて、なんか贅沢だな。」
ミリオンが頷いて。
「ああ…本当に勇者が3人もいる国なんてマディニア王国位だよな…。」
その時、ルディーンが転移してきた。
「おや、ミリオンも来ていたんですか。」
クロードがルディーンに、
「お前が来ると、皇太子殿下が来るからもう、来るなよーー。」
「ああ、皇太子殿下とは正式に愛人契約を結びましたから…。用事がなければすっとんでこないでしょ。」
そう言って、ルディーンはファルナードに挨拶をする。
「ファルナード殿下、お久しぶりです。お元気そうで何より。」
「ああ、ルディーン。その節は有難う。お前が言付けてくれたおかげでディオンを頼る事が出来た。」
クロードがルディーンに向かって。
「ええ?ルディーン、知り合いなの?」
「いえ…知り合いって訳ではないですが、ファルナード殿下の居所を偶然知ってしまったので、ディオン皇太子殿下に相談したら、俺の所へ来いと伝えろ言われて…言づけただけですよ。」
グリザスがディオン皇太子に出会った頃を思い出すように。
「ディオン皇太子殿下は、俺のような死霊でも、働かせてくれるから有難い。」
ミリオンがニンマリ笑って。
「使える者は使え精神だからな。ディオンは。あ、剣技の相棒だけは誰にも譲らないぞ。
ディオンと組むと力が湧くし、楽しくてたまらねぇ…。あれ?そういえば、第三回魔王討伐練習会は中止って…どうしてだ?」
クロードが頷いて。
「マディニア王国の大事な行事とぶつかって伸びたんだって…なかなか練習出来ないよね。どうするんだろう。」
ルディーンが皆に報告するように。
「そういえば、そろそろ鎮魂祭、本格的に準備に入るとの事ですよ。聖女様の冠も納品出来ましたし…」
クロードが心配そうに。
「俺、心配なんだ…。グリザスさんって死霊だよね…だからさ…。鎮魂祭で、影響受けて成仏しちゃう危険あるんじゃないかな…。」
あああ…そうだった。俺は死霊だ…。身の危険があるのではないか。
グリザスがクロードの指摘に、内心オロオロしていると。
ミリオンがグリザスに。
「こういう時は聖女様に相談だな…。どうしたらよいか…。俺はグリザスと良き友人のつもりなんだけど…成仏しちまったらもう、悲しくて悲しくてたまらねぇ。」
クロードが立ち上がってグリザスに抱き着いてきた。
「うわっ…嫌だ。俺、グリザスさんと結婚していい家庭を築きたいんだ。グリザスさんが成仏しちゃったら…ああ、寝たきりになるし…。魂の分割しているから…。何より、グリザスさんがいなくなったら、俺…俺…。」
ファルナードがオロオロする皆に向かって。
「その聖女様という人に早く相談した方が良いと俺も思うが…。クロードとグリザスは良いカップルだな…。俺もミリオンと良い恋人になりたい。」
皆、一斉にファルナードとミリオンを見る。
ルディーンがファルナードにアドバイスをする。
「外堀を埋めるんですよ…まずは外堀…。俺から皇太子殿下に報告しておいてあげますよ。ミリオンがファルナード殿下と婚姻したがっているとか…。」
ミリオンが慌てて。
「おいこら、ルディーンっ。付き合ってもいないし恋人でもねぇーーー。」
クロードがニコニコして。
「外堀いいですよね…。ガシガシに埋めて固めてしまえば逃げられませんから。
もう、見習い達の間で俺とグリザスさんの仲は周知ですし。後は…婚姻するだけですよ。」
グリザスは思う。
外堀…怖すぎるんだが…。
きっとミリオンも同様に思っているはずだ。
皆のアドバイスもあって、翌日、クロードとグリザスは聖女リーゼティリアに鎮魂祭について相談することになった。
どうなるのであろうか…




