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恋の乗り換えは勢いで…

前半はファルナード、後半はグリザス視点です。

ファルナードは毎日泣いていた。

兄が晩餐会に現れたのだ。された事を思い出すたびに怖くて怖くて。

王宮で与えられた客間のベットの中で震えて泣いていた。

自分は勇者なのに…もう、その資格すらない汚れた身体…


リンドノールに添い寝を頼むも、時々はしてくれるが、毎日はしてくれない。

元々、夜遊びが好きで夜にフラフラしているのを俺が知らないとでも思っているのか…

真面目に見えて、結構、遊ぶことが好きなのは主として当然、把握しているが。

こういう時こそ、傍にいてくれてもよいのではないか?


しかし、無理に毎日添い寝を頼んでも、夜中に逃げ出してしまう事は解っていた。

ああいう男である。でも文句は言えない。ジュエル帝国から逃げ出して以来、慣れぬ日雇い労働をさせてしまい、苦労をかけている。

抱いてくれと言えば義務とばかり抱いてくれたし、時には好きなチョコレートを買ってきてくれた。優しい所もあるのだ。


泣き疲れたので、気晴らしに起き上がって廊下に出てみた。

警護に当たってくれている魔族が5人、頭を下げてくれる。


「こんな夜中に申し訳ないな…」


「いえ、仕事ですから。」


魔族の一人からそうする事が当然という風に答えが返ってきた。


そして言われた。


「お部屋にお戻りを。いつ、第六魔国の連中が狙ってくるか解りません。」


その時、見知った男の声がした。


「その通りだぜ。部屋に戻りなよ。ファルナード。」


王族に向かって呼び捨てとは失礼な奴だ。

そう思って睨みつければ、その男はハハハハと笑って。


「元気が出てきたようでよかった。ちょっとお茶でも飲まないか?」


廊下に置いてある長椅子へ誘われた。

退屈で仕方がないので、誘われてやった。


魔族の一人が温かいミルクを持ってきてくれる。

声をかけてきた男、ミリオン・ハウエルには珈琲だ。


「ファルナードは、これから先どうするんだ?」


いきなり聞かれた。どうするって言われても何も考えていない。

だが、いつまでもこの王宮に世話になっている訳にもいかないだろう。


答えに困っていると、


ミリオンは珈琲を飲みながら。


「騎士団の剣術指南になりゃいいのに…騎士団見習い達はグリザスが見ているから、正騎士とかちょっとレベルの上がった奴らの…。騎士団長も副団長も忙しいからな。近衛騎士達がときたま指南しているらしいが、アンタなら適任じゃね?」


「そんな事、考えた事なかった。」


「前を向いて歩き出したらいいと思うぜ。」


その時、リンドノールが廊下を歩いて来た。


「起きて大丈夫なのですか?」


「ああ、大分、身体が良くなってきた…気分は最悪だったが。」


リンドノールはファルナードの隣に座って。


「実はお願いがあって…ファルナード様。私…とある男に愛人にならないかと頼まれまして、承知する事にしました。」


「えええええ????」


二人して驚く。


リンドノールは言葉を続ける。


「私が、貴方にあまりにもべったりと仕えすぎているのは良くない事だと、解っておりました。貴方は泣いてばかりでいつまでも前に進めない。傷を舐めあう関係なんてまっぴらごめんです。昼間は竜騎士として仕えましょう。でも。夜は愛人稼業に励もうと思います。だって、竜騎士で仕えていたってお給料出ないですから。」


ミリオンが驚いたように。


「でも、ディオンがお金くれているだろう?王宮に保護されている訳だし。」


「そんなお金使えるわけないでしょう?そのお金で好きな東の国のお酒を買ったり、時には髪を綺麗にしたいなって、そういうお店に行ったり色々と贅沢出来ないじゃないですか。

だから、愛人になる事にしたんです。いくら落ちぶれ貴族だからって、副団長ってお給金いいですよね?」


「お前、現実的だな。相手はゴイル副団長かよ…。あの男、男色の気があったんだな。」


呆れてミリオンが呟けば、リンドノールは真面目な顔で。


「今回のジュエル帝国からの逃走でいかにお金が必要かって解ったんです。だから、

ファルナード様。どうか許可をお願いします。」


ファルナードは笑い出して。


「お前らしい選択だ。リンド。俺はお前に頼り過ぎていた。解った。夜はその男の元で愛人稼業に励んできてくれ。俺の事は気にするな。」


リンドノールはファルナードの手を取り。


「昼は竜騎士として、傍におりますから。それに昼夜、魔族の方々が守って下さいます。

今度、お好きなチョコレートを買ってまいりましょう。貴方が好きな銘柄のチョコレートを。」


「楽しみにしている。」


ファルナードは思った。

止める権利もないし、この男が望むなら好きにさせてやろうと。

少し、心が痛い…。だが、きっとこのまま二人でいても煮詰まってしまうだろう。

俺だって、傷を舐めあう関係は御免だ。


ミリオンは立ち上がると、


「リンドノールも帰ってきた事だし、ファルナードは部屋にお戻りを。

何かあったら呼んでくれ。」


そう言うと、その場を歩いて行ってしまった。


リンドノールはファルナードの手を取って、立ち上がらせて。


「それでは、ファルナード様、お戻りを。眠れないのなら、添い寝位は致しますので。」


「いや、大丈夫だ。おやすみ。リンド…」



これ以上、リンドノールに甘える訳にはいかない。


部屋に戻ると、扉を閉めた。



何だか…サビシイ…一人はどうも嫌だ。


再び、廊下へ出てみる。リンドノールにもう頼る訳にはいかないのだ。


魔族に頼んで、ミリオンを呼び戻して貰った。


「何だ?何か用事でも残っていたか?」


ミリオンが現れる。


その身体に抱き着いた。


「俺は…これでよかったのだろうか?リンドを自由にしてやるために、愛人稼業に許可を出した…本当にこれで。」


ミリオンは優しく髪を撫でてくれた。


「お前が嫌なら嫌って言えばいいんじゃね?」


「解っている…このまま傍にいては駄目なんだ。俺は勇者ファルギリオン…。傷を舐めあう関係なんて望んじゃいない。」


その時、廊下の端からリンドノールが姿を現して、口調を変えてポツリと。


「俺…。気がついちまったんだ…。竜騎士として仕えている俺も…ファルナード様に仕えている俺も好きだけど…ゴイル副団長と話していた時は楽しかったなぁって。

東の国の酒も、食った煮込み鍋も…遠い昔を思い出した。悪さ、沢山したけど、そりゃもうその頃は楽しかったんだ。」


そして口調を戻して。


「申し訳ありません。ファルナード様…。どうか、ミリオン。ファルナード様をよろしくお願いします。」


「へ?????俺????」


ファルナードは思った。

あいつ、押し付けていきやがった…。まぁそういう奴だって薄々は気が付いていたけど…

あああ…でも距離を置かれると無性に寂しい…。


目の前の男に抱き着きながら。


「リンドに振られてしまった。無性に寂しい…代わりに添い寝してくれないか。」


「??????いや、俺…。そ、添い寝だよな?本当に添い寝だけだろうな。」


「ああ、当たり前だろう?何を…」


「解った。リンドノールの代わりに添い寝してやるよ。」


あああ…リンドノールに振られたのは寂しいけど、こんな汚れた俺でも、

何だかワクワクしてきた。何故だろうか?


ミリオンはベットの脇に聖剣を立てかけて、そのままベットに転がり込んできた。

その横でパジャマ姿でベットに入る。


ミリオンの聖剣は大剣だ。赤くて鞘に黒龍の彫刻が巻いている。


「お前の聖剣は凄いな…。気性の激しさが良く出ている。」


それをミリオンに言ったらミリオンがニンマリ笑って。


「人の事、言えるか…普通、石に刺さった聖剣が炎巻いて燃え上がっているだなんて、有りえねぇ。お前、凄く気性が荒いんじゃないか?」


「そりゃ、勇者ファルギリオンだからな…。剣を持った俺は一味違うぞ…。」


「ああ、フォルダン公爵家で4人の魔族を一瞬で、退けていたから解っている。凄い力だよな。」


そう言うと、ミリオンは眠そうに。


「眠くなってきた。お前も早く寝ろよ。」


ミリオンの逞しい身体の上にのしかかると、ファルナードはその耳元に囁いた。


「今度から添い寝はお前とすることにしよう。おやすみ…ミリオン。」


耳元にふうううっと息を吹きかけてみた。


ミリオンは真っ赤な顔をして。


「生憎、俺は女性オンリーなんだ。」


「俺が汚れた身だから駄目なのか?」


「いや、乗り換え早すぎだろう??お前らおかしいぞ。今からでも行ってリンドノールに愛人なんてやめろって言えよ。」


「リンドの決意は固い。特定の相手の愛人になるだなんて言わない男だ。金の為に不特定多数と遊んでいたからな…。リンドにとっては俺といても疲れるだけだ。…素で話せる相手が出来たのならいう事はない。」


「だからって俺かよ…」


「お前はイイ男だ…きっとモテるだろう?」


「そりゃ、魔界に沢山の恋人たちがっ…全部、女だ。女…」


「それなら男が一人位混じってもいいのではないか?」


「うわっ…畳みかけてきたな。だから…俺はっ…」


ミリオンの口をふさいでやった…。ああ…何だか元気が出て来た。


兄は怖い…恐怖があって、泣きたい気分に変わりはないが…


そんな事よりも今は、この胸の高まりが止まらない。


「今宵は寝かさない。どうか…こんな身体でもよければ、抱いてくれ。」


その頬を撫でて、再びミリオンに口づけを落とすファルナードであった。


帝都にいた時の夜は恐怖でしかなかったけれども、これから訪れる熱い夜を楽しみにミリオンの服を脱がしにかかるのであった。




翌朝、ミリオンは早朝からグリザスの部屋を訪れていた。


「ちょっと聞いてくれよーー。クロード、グリザスっーー。」


「何だ?こんな朝早く…」


グリザスはまだ、ベットの上にいた。グリザスと一緒に寝ていたクロードも、パジャマ姿で瞼を擦って眠そうである。


そして、ミリオンにクロードは文句を言う。


「睡眠妨害だよ。まだ6時じゃん…。後、1時間は眠れるのにさ。」


「俺、昨夜、ファルナードに誘惑されちまったんだ。」


「えええええ????」


「どうにか押しとどめて、添い寝だけで勘弁してもらったけどさ。」


グリザスはふと、思い出した事があった。


「リンドノールはどうした?傍についているはずだろう?」


「それが…ゴイル副団長の愛人になるんだとよ。一体全体どうなっているんだ?」


えええ?あれだけ嫌がっていたのに、愛人になるのか?リンドノール。

ゴイル副団長は悪い人ではなくて、むしろ見習い思いで、騎士団の事を考えているいい男なのだが。


ミリオンは髪をガシガシ掻いて。


「どうなっているんだ???何も俺でなくていいだろうよ。今夜も添い寝をする事になっちまったし…」


クロードが呆れたように。


「嫌なら嫌って断れよ。」


「あんな寂しそうな顔されたら断れねぇだろうが。」


グリザスはポツリと。


「ミリオンは優しいタイプだから、押しに弱いのだろう。人の事は言えないが…」


流されまくる自分としては、呆れる事も出来ない。

クロードに流されまくって、今は、海のど真ん中にいて、もう岸には帰れないだろう。いや、ど真ん中を通り越して、男色という新たな扉を開いてしまっているとも思える。

あああ…死霊で男色とは、俺位なものだろう。


クロードはベットから降りると、テーブルの前に座って。


「だったら諦めて、お相手するしかないんじゃない?ファルナード様って綺麗な顔しているから、お得だと思うよーー。」


「クロード。お前、適当に返事しているだろう?」


「よく解ったね。自分で決めたら?女の子がいいんならしっかり添い寝を断ればいいんだし。そもそもスーティリアとはどういう関係なのさ。」


「あれは…大勢いる恋人の一人で…。でも、最近。好きな人が出来たって言って、何だかなぁって感じで。」


「よく女の人に振られるよな。ミリオンって。本当はモテないんじゃない?」


図星とばかりの顔をしているように俺からは見えるんだが…ミリオン…。


グリザスはミリオンに近づき、その手を取って。


「ミリオンが幸せになるのなら、俺は嬉しい。結婚するなら是非呼んで欲しい。」


「おいこら、グリザスっ…話が凄く飛んでいるぞ。何で即結婚までかっ飛ぶんだ?」


「もし、誘惑に負けてベットを共にしたのならば、きちっと責任を取ってやって欲しい。

ファルナード様は苦労されている方だ。不幸にしないでやってくれ。」


「ああああ…解った。間違って手を出したら、責任を取るって事で…俺、帰るわ。

早朝からすまんな。」


ミリオンはクラクラして帰っていった。


クロードは断言した。


「絆されちゃう方に一票だな…あの男、優しいから、絶対に絆されて関係を持っちゃうよ。」


「確かに…優しい男だからな…。ミリオンにはいい伴侶を得て幸せになって欲しいものだ。」


何だか、凄い事になっていると思いつつ、クロードと共に朝の支度を始めるグリザスであった。


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