俺は決して、聞き耳を立てる事が好きな死霊ではない( 一一)
ジュエル帝国のロベルト皇太子はすぐに帰国して、メルディーナ皇女はしばらく滞在する事になった。
第一魔国や第二魔国から魔族の警護を頼み、ファルナードをマディニア王宮の客間に移す事になった。
ディオン皇太子から、ファルナードも、メルディーナも目が届きやすい。
第六魔国のジルギュルトが襲ってこようが、警備を増やせば王宮内なら、すぐに対処出来る。という事で、そうなったのである。
まだまだ緊張する日々が続くなと、グリザスは王宮の庭へ出れば、何やらいい争いの声が聞こえてきた。
修羅場の予感が…関わらない方がいいのか?
両方とも相当、声を荒げているようである。
建物の陰から、チラっと覗いてみれば、
ゴイル副団長とリンドノールが言い争いをしていた。
珍しい組み合わせだ。
(ちなみに俺は覗き見とか、聞き耳が好きな死霊ではない Σ( 一一))
「人違いではありませんか?私はレインという男ではありませんし、貴方の事は知りません。」
と、リンドノールが言えば、ゴイル副団長は、
「お前、顔とか雰囲気とか変えているが、レインに間違いねぇ。おいっ。俺の金返せ。財布から銀貨5枚盗んでいっただろうっーー。」
「だから、貴方、私の話、聞いていますか?人違いと言っているでしょう。」
リンドノールは不機嫌に言うと、歩き去ろうとしていたが、腕を掴まれて。
「匂いで解る。俺はマディニア王国副団長のゴイル・シャルマンだ。
鼻はいい方でな。お前の汗の匂い、良く覚えているぜ。いい匂いだ。」
リンドノールの銀色の長い髪を、ゴイル副団長は指先で掬って、その毛先に口づける。
えええええ?それってそれって…ちょっとエロい展開か?
グリザスはその場から動けなくなった。
すると、リンドノールがバンとゴイル副団長を壁ドンした。
えええ??あれが有名な壁ドンかっ…俺もクロードにやってもらいたい。
逆に俺がやったら、怖すぎると思うが…死霊の黒騎士の壁ドン。迫力がありすぎる。
やられたクロードは命の危機を感じるだろう。
そして、間近でゴイル副団長に向かって、凄い不機嫌な表情で。
「アンタ、覚えていねぇのか?銀貨5枚で、交渉成立って話だったろ。
事が終わったから抜いて行った。それだけの話だ。」
うわっ…なんか口調が変わったぞ。リンドノール。大丈夫か???
ゴイルはガハハハと笑って。
「ああ、そうだったような…。酔っていたから忘れてたぜ。お前、やっぱりあの夜のレインか。酔っ払って飲み屋で話した時は口調が悪かったからな。」
「俺は育ちが悪い…。普段の口調は気を付けているが…。っていつまで髪に触っているつもりだ。」
ああ…リンドノールの礼儀正しい竜騎士のイメージが崩れていくような。
ゴイル副団長はリンドノールを抱き寄せて。
「俺と付き合えよ。あの夜はよかったぜーー。探していたんだ。」
「アンタとは一夜の関係だ。」
「その割には飲み屋で愚痴っていたな。仕えている主人が逃げ出さないせいで、凄く苦労したとか、やっと逃げ出したら、今度は金がないとか。」
リンドノールはゴイル副団長から離れて。
「断る。」
「囲ってやろうか?金が欲しいんだろ?」
おおおおいいっーーー。副団長――。こんな所で男を口説かないでくれっーー。
「苦労だったのか…?楽しんでいたつもりだったが…魔族の夜の接待をしていた…。ジュエル帝国に居た時に強要されていた。
だが、俺は育ちが悪い…白竜の化身だが、人の村で育って、竜騎士になるために、剣技や言葉遣い、礼儀作法を教わったが…幼い時からの心根の悪さだけは治らなかった。
ジュエル帝国の王宮で、ファルナード様にされている仕打ちを見て、一緒に逃げようって一度だけ誘った。勇者としての責務をまっとうしたいって、ファルナード様は首を縦に振らなかった。
それで俺も逃げられなくなった訳だが、魔族の接待を強要されていてもそれを楽しんでいたし、給与は良かったから、美味い酒は飲めたし、好みの女も買えた。ファルナード様が苦しむ傍で、俺は楽しみまくっていたんだ。
贅沢させてくれるのか?俺は高いぞ…クククク…」
そう言うと、スっと離れて背を向けて歩き出した。
ゴイル副団長はその背に向かって、
「ファルナード殿下の体力が戻ったら、騎士団見習い達の元へ連れて来い。
あいつら皆、いい奴だから、きっとファルナード様も元気が出る。お前も無理するな。
愚痴ぐらいは聞いてやる。」
リンドノールはチラっとゴイル副団長の方を見て、片手を挙げ、そのまま王宮の方へ歩いて行ってしまった。
ゴイル副団長ってスケベなのか、優しいのかよく解らんな…
ともかく、見つからないように、そっとその場を離れた。
部屋に戻って見たら、クロードがいて、グリザスが入って来たらいきなり、
ドンっと壁ドンされた。
「壁ドンされたいだなんて、グリザスさんって乙女ですね。」
クロードがにっこり笑って言う。
あああ…俺の心のつぶやきが、クロードに聞こえってしまったようだ。
クロードがグリザスの兜の顎に手を添えて、口元に口づけをしてきた。
それだけで、何だか力が抜けて、このままクロードに何やらされたい気分になった。
床にズルズルと座り込む。
「おや、昼間からイチャイチャですかね?」
ルディーンが声をかけてきた。
クロードが不機嫌そうに。
「何の用?あれ?最近、見かけなかったな。どこ行っていたの?」
ルディーンが部屋の中に入ってきたので、グリザスは慌てて、立ち上がる。
テーブルの前にルディーンが腰かければ、その対面にクロードとグリザスが腰かける。
ルディーンは、二人に向かって、
「冠が形になってきたんで、その仕上げに立ち会っていたんですよ。第二魔国の彫金師に依頼していたんで、もうすぐできますよ。」
クロードがふーんっていう感じで。
「それは良かったけど…皇太子殿下に報告は?」
「まぁ出来上がってからでいいでしょう。最近、やっと俺の事を忘れたみたいで、
あの人、どうしたんですかね?」
「寂しいんだ。」
「いえ、別に…」
「帝国のメギツネの対応で忙しいんじゃないかな…。」
「ふふん。メギツネね…そっちに気持ちが行きましたかね。まぁこのまま忘れてくれれば言う事はないんですが。」
グリザスは思った。
絶対に噂をすれば影で、皇太子殿下が現われるぞと…
多分だが、この部屋は見張られている。だからタイミングよくディオン皇太子殿下がすっとんでくるのだ。
その時、やはり部屋の入り口から声が聞こえてきた。
「待っていたぞ。ルディーン。書類づくりに手間取っていてな…」
ディオン皇太子は部屋に入ってくると、ルディーンの前にバンと書類を置いて、
「側室契約だ。お前、俺の側室になれ。」
クロードが慌てて。
「それ、マズイですよ。男性の側室なんて、皇太子殿下の評判が…」
「俺の評判っ???胸と背にこれ見よがしな慎みのない黒百合の痣がある破天荒の勇者の?それとも、7つも聖剣を拾って、拾いすぎではないかと言われている、何だか慎みのない男だと思われているようだが??」
ルディーンがニヤリと笑って。
「慎みなんてアンタには縁がないでしょ?皇太子殿下。」
「俺だって慎みたいんだ。イルグの奴が勝手にだな…」
慎みって言葉が飛び交っているが、本当に…皇太子殿下にはふさわしくない言葉だと思うが…
クロードが書類をチラっと見て。
「側室って、それこそ国民の評判がマズイですよ。皆、反対しますよ。」
ディオン皇太子はフンと鼻で笑って。
「ああ、破天荒の勇者はついに、男を側室に迎えたか。やはり慎みがないのだなとか、納得されると思うが。」
グリザスはともかく何か言わないとと思い、
「ディオン皇太子殿下は、ルディーンの事になると、ポンコツになります。それでは、いけないと俺は思いますが。」
その言葉が効いたのか、ディオン皇太子は言葉に一瞬詰まって。
「それなら、公にしない愛人契約だ。週に2回、俺にルディーンは奉仕する形にする。
しっかりと気持ちよくしてもらうぞ。お前は他の誰とも浮気をするな。
愛人契約だから、手当は出そう。」
「いやその…俺。一応、ソナルデ商会の会長ですし…お金に困っている訳でも…」
ディオン皇太子は、腰の聖剣に手をかける。
グリザスは立ち上がって、慌ててテーブルの上に突っ伏して。
「このテーブルには愛着があります。木目が気に入っています。
だからどうか、テーブルに当たるのは止めて下さい。
例え修繕が出来るとしても、斬られるテーブルがかわいそうです。
皇太子殿下の聖剣は悪を斬るための物、木目が素晴らしいテーブルを切断する為の物ではありません。」
突っ伏しながら言うセリフはあまりにも、かっこ悪いのだが仕方がない。
ディオン皇太子は不機嫌に。
「ルディーン、書類は改めて作る。考えておけ。ちなみにこれは皇太子命令だ。王族の命令は拒否すれば首が飛ぶぞ。」
そう言うと、背を向けて出て行った、
クロードがため息をつき。
「ルディーンが絡まないとイイ男なんだけどね。この間の晩餐会の時も、かっこよかったし。」
ルディーンは立ち上がり、
「冠が出来上がったら、考えましょうかね…ああ、ジュエル帝国への出店は止めました。
あそこは、皇族が横暴ですからね…どんな難癖をつけられるか解らないですから。」
クロードが頷いて。
「それが利口だよ。あそこの皇族はひどいからね。」
ルディーンは背を向けて。
「それじゃ、また来ますよ。では…」
魔法陣を展開し帰っていった。何しに来たんだろう??
クロードがグリザスの疑問に。
「皇太子殿下に会いに来たんだよ。この部屋に来れば会いに来るから…。やはりセシリア様のいる王宮は嫌なんだな…」
両想いなんだろうが…何だか切ない…そう思えるグリザスであった。
雪も大分溶けて暖かさを感じられるようになった。
窓を開けて、クロードと共に外の気持ちのいい空気を楽しむグリザスであった。




