波乱過ぎる晩餐会( 一一)
晩餐会が始まろうとしていた。
皆、それぞれ席に着いて行く。
マディニア国王と王妃の間に、ジュエル帝国の皇女メルディーナが真紅のドレスで腰を下ろす。
第一魔国~第五魔国の魔王達、
主賓と国王達から向かって左の席に、第一魔国魔王サルダーニャと王配ゾイドリンゲン、その向かい側にディオン皇太子とセシリア皇太子妃、次に座るは第二魔国魔王レスティアス、目の前にはフィリップ第二王子、そして次に座るは第三魔国魔王シルバ、隣は婚約者マリアンヌ。彼女はこの国の王弟殿下の娘である。目の前に座るはローゼン騎士団長とフローラ、
第五魔国魔王ロッドとその前にはクロード。末席には第四魔国魔王ティムとその前には勇者ユリシーズ。12名が座った。
向かって右の席は、フォルダン公爵とアイルノーツ公爵、テリアス外交官、向かい側にはジュエル帝国のシュッセン外交官、始め、護衛騎士達のうち5人が座る。
テリアス外交官の隣にはファルナードが車椅子で、リンドノールがその隣、末席にアイリーンが腰かけた。
ファルナードの背後にミリオンとグリザスが護衛に着くことになった。
食事が目の前に出されない立場はグリザスにとっては有難い。
いざ、晩餐会が始まろうとしたその時に、魔法陣が国王陛下の横の空間に展開する。
ディオン皇太子や、フォルダン公爵始め、会場の周りを警戒していた近衛騎士達が腰の剣に手をかけながら、国王や王妃を守るように動く。
グリザスはミリオンやリンドノールと共に、ファルナードを守るように囲む。
「俺も仲間に入れて貰おうか。ジュエル帝国皇太子ロベルトだ。」
第六魔国魔王に転移してもらったのであろう。ロベルト皇太子一人が堂々と立っていた。
マディニア国王が相手に近づいて。
「これは久しい。ロベルト皇太子殿下。さぁ、私の隣へ。共に晩餐会を楽しもう。」
「有難う。マディニア国王陛下。」
優雅に席に着く。
鋭い眼光、引き締まった身体。漆黒の髪。
全身黒づくめのこの男はファルナードを睨みつけて。
「迎えに来たぞ。ファルナード。お前のようなクズが、俺から逃げられると思うな。」
グリザスはファルナードの方を見た。
真っ青になって震えている。
リンドノールが心配そうに、その肩に手をかけて。
「今度こそお守りいたします。ファルナード様。」
ミリオンがロベルト皇太子を睨みつけ呟く。
「あいつこそ、クズじゃねぇ?絶対に渡さない。グリザス。守るぞ。」
「解っている。」
どんな手で来るか。食事が運ばれてくる。
表向きは和やかに進む晩餐会。
その時である。
アイリーンが立ち上がり、大鎌を出現させ、クルクルと回転させた。
空を斬れば、ぎゃああああーと声がして、ドサっと3体の黒い影が落ちて来る。
「随分とお行儀が悪いわ。帝国はマナーがなっていないわね。」
ミリオンがアイリーンに。
「よく気がついたな。」
「注意力が足りないわ。私、今、妊娠中だからちょっとの匂いにも敏感なのよ。
下賤な匂いが近くでしたわ。」
大鎌が黒い血で滴っている。
近くにいた帝国の護衛の騎士や、会場にいる者全員が緊張する。
斬られた黒い影はフっと消えた。
ディオン皇太子が聖剣を肩に引っ担いで、ロベルト皇太子の前に行き、
「ファルナードは我が国に亡命した。連れ帰る事は許さん。文句あるか?」
ロベルト皇太子は席を立って。
「亡命は認めない。ファルナードは、俺の物だ。クズはクズらしく、いう事を聞いていればよかったのに逃げ出した。」
メルディーナも立ち上がって、
「そうよ。ファルナードはクズよ。私達の下でおとなしくしていればよいものを。」
会場がシーーンとなる。
その時に会場の中で叫んだ声があった。
「クズじゃないーーーー。ファルナードは勇者だ。」
ユリシーズが椅子を蹴って立ち上がっていた。
「お、お前らこそクズじゃないか。一生懸命、国の為に戦って働いていた勇者をクズ扱いなんてして。お前らこそクズだーーーー。俺がお前らを斬ってやる。」
聖剣を手に、ユリシーズが駆け出した。
第四魔国魔王ティムも後に続きながら。
「俺も俺もっーーーー。お前らクズなんて俺が倒すっ。」
目がランランと光っている。
ローゼンが立ち上がって、ユリシーズの腕を掴む。
「駄目だ。ここは耐えてくれ。」
走り抜けようとしたティムをシルバが捕まえて抑え込んだ。
「待て…。お前は第四魔国魔王だろう?軽率な行動をするな。」
マディニア国王がロベルト皇太子とメルディーナに。
「これは大変失礼を。さぁお座り下さい。食事の続きを。」
と促す。
ディオン皇太子はロベルト皇太子の目の前でダンっと聖剣を床に刺し、ロベルト皇太子を睨みつけ。
「ファルナードをクズという奴らに、ファルナードを渡さん。」
優雅にサルダーニャが立ち上がり、ディオン皇太子に近づきその肩に手を添えて。
「お前達は第一~第五魔国に、接触したかったんだろうが、興味はない…。
わらわ達が支持するのはマディニア王国のみじゃ。
お前達が勇者ファルギリオンである弟を虐めるのは、ひがみじゃろう?聖剣を弟は授かる事が出来た
だが、お前達は授かれなかった。当り前じゃ。心根が清らかなる者こそ、聖剣は選ぶ。
お前達のような汚い心根の者には寄り付かんわ。」
ギリギリギリ。
悔しそうに、ディオン皇太子とサルダーニャを睨みつける、ロベルト皇太子。
サルダーニャはディオン皇太子に向かって。
「さぁ、食事の続きをしようぞ。ディオン。」
「そうだな。」
二人は席に戻る。
ユリシーズもティムもおとなしく席に戻った。
グリザスはドキドキした。
乱闘騒ぎにならないでよかった。
緊張した晩餐会が終わり、本来ならば、晩餐会後の交流会があるのだが、
ジュエル帝国の連中を抜かして、別館で魔国の魔王達と、堂々と行った。
立食で皆、緊張感もなくくつろいで話をしている。
マディニア国王と王妃、フォルダン公爵達が、ロベルト皇太子達の相手をしてくれるというので、ここの開催者はディオン皇太子だ。
なかなか、出来なかった魔王討伐訓練第三回目をいつにするか、相談もしないとならない。
酒を片手に持ちながら、ディオン皇太子はサルダーニャに礼を言う。
「先程は助かった。有難う。」
「いい男の味方はしたいからのう。それにクズ発言にはわらわも頭に来たのじゃ。」
ユリシーズがティムと共に傍に来て。
「申し訳なかったです。皇太子殿下。」
ティムも頭を下げて。
「俺も飛び出ちゃってごめんなさい。」
ゾイドリンゲンがガハハハと笑って。
「俺も飛び出たかったからな。あれには頭にきた。」
セシリア皇太子妃も微笑んで。
「そうですわね。本当に、国の為に戦った勇者様を。ひどい方たちですわ。」
ディオン皇太子がサルダーニャに。
「で、次の討伐訓練どうする?」
「そうじゃのう。来週の日曜日はどうじゃ。全員揃っては難しいじゃろうが…ここはもう少し回数をこなしておかないと。」
ミリオンが近づいてきて。
「オーネットばーちゃんがまずはいないと黒竜が無いとまずいよな。」
魔女オーネットが幻を出して皆、その黒竜の幻で訓練するのだ。
ディオン皇太子はミリオンに、
「それじゃ、お前、オーネットに今度の日曜日、都合がよいか、聞いてくれ。それによって決める。」
「OK。今すぐ聞いてみるよ。」
通信魔具で連絡を取り、OKだったので、来週の日曜日に第三回という事が決まった。
第二魔国レスティアスはフィリップ王子と話し込んでいた。
「私も慈善活動には興味がある。我が国も親がいない子供達や、働けない者達がいかに、幸せに暮らしていけるか、日々、私は心を砕いてきた。」
フィリップ殿下は隣のソファに座り熱弁する。
「おおっ。そうですか。我が国はフォバッツア公爵家のシュリアーゼが主体となって、慈善バザーを開催したり、その収益金を、孤児院に当てたりしています。勿論、国営で、孤児院を経営したり、生活出来ない者を支援したりしてはいますが限界がありますから。」
「バザーとはどのような?」
「着なくなった洋服とか、雑貨とか、寄付をしてもらうのです。それを売って、そのお金を孤児院に寄付するのです。」
「成程。そのような物を開催したことはなかったな。」
「でしたら…」
フィリップ殿下はレスティアスの手を両手で握り締め。
「我が国の慈善バザーに魔界からも出店してみませんか?」
「えええ?よいのか?そんな事をして。」
「こういう交流こそ、これから先、必要だと私は思います。」
「考えておこう。」
こちらも有意義な交流をしているようだ。
グリザスは、いまだに真っ青な顔で車椅子に座って震えているファルナードが心配だった。
クロードは今、シルバやロッド、フローラ達と話し込んでいる。
リンドノールが何かと気を使っているようだが、近くに行って、声をかけた。
「大丈夫ですか?ファルナード殿下。」
「兄が…兄上が…。怖い…。もう、あんな事をされたら耐えられない。」
顔を覆って泣き出す。
相当、傷が深いのだろう。
こういう時になんて言って慰めたらいいのだろう…
身を屈めると、ファルナードに向かってグリザスは声を優しくかけた。
「ディオン皇太子殿下は必ず、貴方を守ってくれます。勿論、俺達も。
だから、もう、泣かないで下さい。」
リンドノールは悲しそうに呟く。
「俺は、守る事が出来なかった。ファルナード様は15歳まで母君と共に村で育った。母君が亡くなって村を出て王宮で過ごした5年間、痛めつけられるファルナード様を傍で見ている事しか出来なかった。勇者に選ばれてしまったファルナード様は逃げ出す事をヨシとしなかったから…」
ミリオンがこちらに戻って来て、ひょいとファルナードを抱き上げた。
ソファに抱き上げたまま腰かけると、ヨシヨシと頭を撫でる。
「ほらほら、泣かない泣かない。俺達は皆、お前の味方だ。いい子だから…安心して、な。」
あやされて安堵したように、ファルナードは瞼を瞑る。ちなみにファルナードは20歳なのだが、ミリオンにかかれば皆、子供扱いだ。
そっとそのままソファに寝かせると、リンドノールに向かって。
「後は頼んだぞ。何か掛けてやれ。」
「ありがとうございます。」
グリザスはミリオンに向かって感心したように。
「優しい男だな…ミリオンは…。何故、恋人がいないのか…」
「俺の恋人は魔界のあっちこっちにいるんだ。ちなみに男には興味はない。」
この男らしい言葉が帰ってきた。
しばらくして、交流会も解散となり、皆、それぞれ家路についた。
グリザスもクロードと共に騎士団寮へ帰ってきた。
明日から日常が始まる。ファルナードの警護は、ミリオンとスーティリア、ユリシーズ達がフォルダン公爵家でやってくれるという事で、クロードとグリザスには、騎士団での日常を優先してくれた。
何だか疲れた。刺激的な体験だった…
クロードがテーブルの前に座って、珍しくそのまま突っ伏した。
「ああ、眠い…。とっても眠い…。」
「それなら、ベットで寝たらどうだ?」
「うん…。このまま…寝たい…。」
グリザスはクロードに近づいて、お姫様抱っこをした。
クロードは目をぱっちり開けて。
「ありがとう。一緒に寝ようか。」
ベットに降ろすと、そのまま抱き着かれて、兜の口元を吸われた。
隣に潜り込むと互いに足を絡めて、抱きしめながら瞼を瞑る。
クロードに向かって囁く。
「おやすみ。クロード。よい夢を。」
「おやすみなさい、グリザスさん…」
クロードはすぐに寝てしまった。寝息が聞こえる。
愛する人の寝息を傍で聞ける幸せを満喫しながらグリザスも眠りについた。
波乱の一日が終わろうとしていた。




