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第六魔国魔王襲来。落ち着く暇がない( 一一)

今日はのんびりとした休日の朝、フィーネが癒しのパワーをくれた後、クロードが鎧の掃除をしてくれて、食事に出かけている間に、グリザスは部屋の掃除をする事にした。


週に一度は徹底的に部屋を綺麗にしたい。

掃除をする死霊なんて俺位な物だろう。

窓を拭き、床をほうきで掃いて、テーブルを雑巾で拭く。

このテーブルは騎士団に頼んだら、用意してくれたものだが、木目が気に入っていて、

グリザスに取ってお気に入りだった。

使い込めば使い込むほど、年季が入って良くなりそうな代物だ。


もし、この騎士団寮を出る事があれば、このテーブルは持っていきたいものだが。


だなんて考えていると、廊下で話声が聞こえてきた。

クロードがブツブツ言いながら、ミリオンとルディーンと共に部屋に入ってくる。

この二人はクロードを気に入っているのか、よく暇つぶしに話に来るのだ。


クロードがグリザスに向かって。


「また、この二人が遊びに来ちゃって、ちょっと部屋借りていいですかね?」


「俺は構わないが。」


ルディーンは大きな金色のぬいぐるみの熊を抱えていた。

テーブルの前に座る3人。グリザスもクロードの隣に腰かける。クロードはルディーンがテーブルに置いた熊の事を聞いてみる。


「どうしたんです?この熊…」


ルディーンは熊をクロードに掲げて見せながら。


「昨日、商工会で久しぶりにあったお人から頂いたんですよ。それでもって口説かれましてね。あああ…あの人に口説かれたのなら、もうそっちへ乗り換えようか…って感じで。」


ミリオンが怒りだし。


「お前、いい加減にしろ。今は、大事な時なんだ。これ以上、ディオンを苦しめるな。」


「それじゃ俺が苦しんでいないとでも?愛人扱いはうっとおしいだけで、シンドイんですよ。」


クロードが口を挟む。


「ルディーンの気持ちは解るけどさ。せめて、黒竜魔王討伐まで、皇太子殿下を刺激するのは止めようよ。」


グリザスも同意する。


「俺もクロードの意見に賛成だ。ここは、皆で皇太子殿下を手伝い、魔王討伐を成功させるように協力するべきだ。」


すると、扉がバンと開いて、ディオン皇太子が立っていた。


「ここへ来れば、お前らに会えると思っていたんでな。ほほう…。この熊、お前を口説いてきた男から貰ったのか?ルディーン。それからミリオン、お前、俺の友じゃなかったのか。たまにはこっちにも顔を出せよ。」


ミリオンが慌てて。


「だから…お前が忙しいんじゃないかと遠慮を。」


ピキっ…


ディオン皇太子は腰に差している聖剣を抜いて。ルディーンとミリオンを睨みつける。


そして、テーブルについていた人達に向かって、どけと言えば、皆慌てて立ち上がった。


「はぁっーーーーーーーー。」


気合と共に、聖剣を振るい、金色の熊を真っ二つにする。

そのついでにテーブルを真っ二つにし、さらに聖剣は床にそのまま食い込んだ。


お、俺のお気に入りのテーブルがっーーーーーーー。


グリザスはテーブルが壊れる様を唖然として見ていた。

クロードがグリザスに向かって慰めるように。


「グリザスさん。テーブルは俺が直しますから、ね?後、床も…」


ディオン皇太子はクロードに命じる。


「ただし、熊は直すな。いいな。」


それからルディーンの胸倉を掴み。


「浮気は許さん。お前は俺に奉仕する事だけを考えろ。」


そしてルディーンを離すと皆に、向かって。


「それから、ここへ来たのは、帝国の皇女が、こちらへ向かっていると連絡が入った。この間の夜の事を勘ぐられている。

勇者ファルギリオンの引き渡し請求と、ローゼンに接触を図ってくるかもしれん。お前達も気を付けてボロを出すな。いいな。」


ミリオンが顎に手をやり。


「あああ、あの赤い鎧の女か…。直接相手はしなかったが、チラっと見た。イイ女だったな。」


クロードも思い出すように。


「ローゼン騎士団長が剣技から正体を勘ぐられたとか言っていましたね。大丈夫かな…。」


ディオン皇太子はフンと鼻で笑い。


「勇者ファルギリオンは我が国にいないと言い張る。ローゼンは知らぬ存ぜぬで通させるつもりだ。望まれたら会わせない訳にはいかないからな。」


そう言うと、ディオン皇太子は不機嫌に。


「それじゃ俺は王宮に戻る。」


身を翻し足早に部屋を出て行った。



クロードが呪文を唱えて時計を空中に浮かべ、針を逆回転させれば、テーブルと床は元通りに戻る。


グリザスはほっとした。さすがクロード。頼りになる。


真っ二つにされた熊を見て、ルディーンはため息をついて。


「この熊、高いんですよ…。金20位の価値はあるかと…」


クロードが真っ二つの熊を見て、


「もしかして、口説いてきた人って…」


「タダカツベアの製作者、タダカツ様ですよ。」


ああ…あのタダカツぬいぐるみ店の…以前、フィーネにあげる為にタダカツぬいぐるみ店にクロードと行った事があった。確かそこでフローラと騎士団長に会わなかったか?



ルディーンはニヤリと笑って。


「ああいう仕事一筋の方が俺を口説いてくるなんて…俺の魅力ですかね。」


ミリオンがルディーンの肩をポンポンと叩き。


「諦めるんだな。ディオンに取り憑かれたらもう逃げられないぞ。」


クロードが笑って。


「妖怪みたいだね。皇太子殿下…最強のストーカー??」


ふと、3人が一気に緊張する。

魔族姿に戻ると、一斉に外へ飛び出していった。クロードは聖剣を持って行った。


グリザスは何が起こったのか感じる事が出来ない。


何だ?こんな事は初めてだ。何があった。


魔剣を手に、後を追ってみれば、ディオン皇太子が空中に浮かぶ男を見上げていて、3人はその男を凄い視線で睨みつけていた。ミリオンとクロードは今にも聖剣を抜きそうな勢いだ。


グリザスが視線を移せば黒いマントを羽織り、青白い肌をし、羊みたいな角を付けた魔族が一人、宙を浮いている。顔は痩せこけて、目だけがギラギラしていた。


ディオン皇太子は男に向かって訪ねる。


「見かけない魔族だな…何者だ?」


男は問いには答えず。


「勇者ファルギリオンを貰いに来た。貰っていくぞ。」


そう言うと、フっと姿を消した。


ミリオンがディオン皇太子に向かって。


「ファルナードが危ない。」


「大丈夫だ。安全なところへ移してある。あいつは何者だ?」


ルディーンが呟く。


「第六魔国の魔王…。ジルギュルト。ジュエル帝国の地下にある魔国の一つですよ。」


クロードが説明する。


「黒竜魔王の国が別れて作られたのが第一~第五魔国なんですけど、他にも魔国はあるんですよ。他の魔国は交流はあまり無くて、魔国の魔王の婚姻式で気が向けば、顔を出しにくる位で。」


グリザスはふと思った。


「もしかして、魔法図書に仕掛けられていた罠って…」


クロードが頷く。


「第六魔国が絡んでいたんだ…。これはちょっとやっかいな事になりそうだよね。」


ディオン皇太子が命令する。


「皆はファルナードを守れ。俺は、これから来るじゃじゃ馬を相手にしないとならない。」


クロードがミリオンに。


「フォルダン公爵家に転移頼むよ。」


「了解。それじゃ俺達はそこへ…」


ルディーンは首を振って。


「俺はまだ仕事が残っていますんで、大した戦力にもなりませんし…皆さん、頑張って下さいよ。」


そう言うと魔法陣を展開して姿を消した。




ミリオン、クロード、そしてグリザスはフォルダン公爵家に転移する。


アイリーンとユリシーズが居間にいて、


アイリーンが3人に。


「ついに敵が来たのね。お父様が結界を張って隠したので、大丈夫だとは思うのだけれど。

もし、この屋敷に転移してきたなら…」


黒い巨大な鎌がスっと出て来る。


「これで屠って差し上げますわ。」


ユリシーズが慌てて。


「アイリーンは赤ちゃんの為におとなしくしていないと。戦うのは俺の役目だから。」


クロードも宥めるように。


「そうだよ。ともかく君はおとなしく…ね?」


「もう、つまらないわ。」


アイリーンは鎌を消すと、ソファに座る。


ミリオンがアイリーンに確認する。


「すると、魔法陣を展開してフォルダン公爵家に来たなら、皆、ここへ転移してくるようになっているのか?」


「ええ、そういう風に結界を張ってあるから。ただ、私達二人しかいなかったから、敵は簡単に転移出来ないようにしてはあるけれども。貴方達が来てくれて助かるわ。」


王宮にファルナードがいないとなると、下手したらフォルダン公爵家をかぎつけてここに敵は現れるはずなのだ。


そして、肝心のフォルダン公爵もフローラもいなかった。


クロードが疑問をぶつける。


「フォルダン公爵とフローラは?」


アイリーンが答える。


「王宮に行っているわ。何でもメギツネが、ローゼンと婚姻したいと手紙を送ってきたそうよ。フローラという婚約者がいるのに。」


「メギツネってあのジュエル帝国の皇女か?」


「そうなのよ。どういうつもりかしら。」



その時、黒い魔法陣が現れた。そこから転移して来ようとしている者がいるのだが、

何かに阻まれて転移出来ないようで。風は猛烈にぐるぐると回っていて、バチバチと光を放っている状態で。


皆、緊張して武器を構える。


その時、奥の部屋からファルナードが聖剣を右手に持ち、リンドノールと共に出て来た。


ユリシーズが叫ぶ。


「来てはいけない。今、敵が貴方を…ファルナード殿下は奥に逃げて下さい。」


ファルナードは聖剣を構え。


「俺を連れに来たのだろう。俺はディオンに、そしてお前達に助けられた。もう、ジュエル帝国に戻るつもりはない。虐げられてきた自分を今日限りで終わりにする。来るなら来い。勇者ファルギリオンの力を見せてやる。」


パァンと魔法陣が弾けて、5人の魔族の姿が現れた。


その瞬間にファルナードはファルギリオンの力を発動させる。


「はぁあああああああっーーーーー。くらえ。」


黒い聖剣から猛烈な炎が吹き上がって、魔族達の身体に巻き付いて燃え上がった。


「ぐああああっーーー。」

「何だこの炎はっーーー。」

「熱いっーーーー。消すのだ。早くっーーー。」


1人を残して4人は慌てて姿を消す。


その男は簡単に巻き付いた炎を消すと、


「我が名は第六魔国の魔王ジルギュルト。さすが勇者ファルギリオンの力、だが、私には効かぬ。ジュエル帝国のロベルト皇太子の元へ帰って貰うぞ。」


ジルギュルトの杖から黒い炎が飛び出す。それは犬の形に変わり、ファルナードに襲い掛かった。


グリザスはとっさにファルナードの前に出て、魔剣を振るう。


真っ二つに斬り裂いたと思ったその黒い炎の犬は再び形を成しグリザスを襲う。


ミリオンが聖剣を振るい、上段斬りで、その犬を真っ二つにした。


今度はしゅううううっと音がして犬は消える。


ジルギュルトは呟く。


「聖剣か…。お前達魔族だな。何故、聖剣を持っている? 魔物である死霊もいるぞ。不思議な組み合わせだな。」


クロードが叫ぶ。


「魔族が聖剣を持っていてまずいか?反転っ。」


クロードの夕闇の聖剣が光った。ジルギュルトに向かって斬りこむ。


窓の外が一気に暗くなる。星の灯りが聖剣に吸い込まれる。


そして、ジルギュルトの杖にぶつかった瞬間、バァアアアアンと爆発した。


屋敷の屋根が吹っ飛ぶ。


すかさず、ユリシーズがジルギュルトのわき腹を聖剣で斬り付ける。


ジルギュルトは傷はつかなかったものの、よろけた。


アイリーンがにやりと笑って、大鎌でジルギュルトの首を落とそうと振るう。


ジルギュルトは転移して首を落とされる寸前に姿を消した。



「あら、逃がしちゃったわ。残念。」


ミリオンがアイリーンに。


「聖剣、いらなくねぇ?アイリーン。大鎌、お気に入りだな。」


「だって、こちらの方が使いやすいんですもの。あんな小さな聖剣、役に立たないわ。」


ファルナードが皆に礼を言う。


「有難う。追い払ってくれて。」


ファルナードを守っていたリンドノールも頭を下げて。


「助かりました。感謝します。」


クロードが首を振って。


「また、来るかもしれない。困ったな…。どうしよう。それより、まずは修復か…」


呪文を唱え、時計を空中に浮かべ、針を反転させて、穴の開いた天井や屋根を直した。


ミリオンがファルナードに向かって。


「敵に居場所がバレている。だが、今、ここから移動するのは得策ではないと俺は思う。

クロード、グリザス、悪いが俺と一緒に今日はここで、ファルナードを守ってやってくれないか?」


クロードは頷いて。


「今日はお休みだし、OKだよ。」


グリザスも腰の魔剣の柄を握り締め。


「了解した。」


ファルナードは皆に礼を言う。


「俺の為に、迷惑をかける。」


そう言うと、ソファに座り込む。


リンドノールが心配そうに。


「まだ無理はいけません。」


「そうだな…だが、そうも言ってはいられないが…」


ミリオンが事の次第を通信魔具でディオン皇太子に連絡する。


その後、皆でサラが出してくれた紅茶を飲み、焼き菓子を食べる。

グリザスは食べたかったが、こういう時、死霊である身は悲しい。

サラはグリザスの顔を見て。


「あら、グリザス様、この間はお気遣いありがとうございます。」


「いえ…俺は何も。」


「席を譲って下さろうと。嬉しかったですわ。」


クロードがグリザスの耳元で囁く。


「言っておくけど、サラは旦那さんも子供もいるからね。」


サラが聞こえていたのか笑って。


「ええ。私には愛しい旦那様と可愛い娘がおりますわ。クロード様、御心配なさらずとも。

愛されていますのね。グリザス様。」


何だかそう言われると恥ずかしく感じる。

死霊でなければ赤面している所だ。


ソファに座って疲れた様子のファルナードであるが、ユリシーズに何やら話しかけていた。


「ユリシーズ。君に聞きたい。勇者っていうのは、どうあるべきなのか?俺は国の為に。必死になって戦ってきた。魔物退治から、盗賊退治まで、それこそ国中を移動して。それでも不手際があると兄に折檻された。言えないような事もされた…。俺は駄目な勇者なのだろうか?

兄に殺されると思った。闇竜退治に失敗して怪我を負ってもさらに働けと命じられて。

休みたかった…。疲れ切っていた。教えてくれ。俺は…逃げるべきではなかったのか。俺は駄目な勇者なのか?」


ユリシーズはファルナードの手を両手で握り締めて。


「そんな事、無いと思います。ファルナード殿下。俺なんて大した事をしていなくて。

魔王だって簡単に倒れて、その後に、訳も解らず、封印に利用されて30年間、氷漬けにされていたんだ。その間に英雄として伝説になってしまって。ファルナード殿下の方が余程、勇者として立派だと思います。帝国から逃げて正解です。だって命の方が大切だから。俺が封印していた黒竜魔王が復活します。地上を荒らしまわる前にその場に拘束して、倒さないとならない。共に魔王を倒しましょう。30年前、アマルゼ王国や周辺の国は魔王のせいで、地獄を見たんだ。絶対に阻止しないと。どうか、一緒に、お願いします。ファルナード殿下。」


ファルナードは涙を流して、ユリシーズの手を両手で握り締め。


「有難う。ユリシーズにそう言って貰えると、俺は救われる。共に戦おう。」


ミリオンが二人の肩をポンと叩いて。


「俺の父親でもあるんだ。黒竜魔王は。間違った道を進んだ父は倒さないとならない。

宜しく頼むぜ。」


二人は頷く。


クロードがしみじみと。


「ああ、二人の勇者の友情っていいよねー。こういう光景が見られて幸せだな。」


グリザスは遠い昔に想いを馳せる。


「俺の時代にも勇者がいれば、違ったのだろうか。あれだけの血を流さずにすんだのだろうか?」


マディニア王国もアマルゼ王国も沢山の騎士や兵士達が血を流した。

一進一退で国境の付近では激戦が何度も繰り広げられた。

200年前の血塗られた歴史。


もし、最強な勇者がいたならば、戦は早く終わっていたのだろうか?


クロードがグリザスに向かって。


「その最強な勇者に、まずは沢山の人が殺されて…戦は早く終わったかもしれないけど。

この話は止めましょう。過ぎた事です。」


そう言って優しく抱きしめてくれた。


ああ、アマルゼの鎮魂祭もまだ終わっていない。


あの目玉の化け物の周りでいまだに苦しんでいるアマルゼ王国の死霊たちの魂を思うと、

何だか切なく感じる。


俺だけがこんなに幸せでいいのか。


クロードの身体をぎゅっと抱きしめて、何だか泣きたくなったグリザスであった。


帝国の皇女が来たお話はフローラの方で書きます。

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