お茶出しをする死霊って俺位だと思う( 一一)
今日は休日である。雪も止んで天気もいいある日…
クロードと共にグリザスは歩いていた。
クロードが買った物を入れたリュックを背負っていて、伸びをしながら。
「今日は暖かいですね。すみません。俺の買い物に付き合って貰ってしまって。」
クロードの荷物を半分手に持ち、歩きながら。
「いや、食料品や服など色々と見られて楽しかった。」
「やはり、お菓子は必需品ですよね。夜、腹が減ってしまうと、勉強も身に入らないから。」
そう、春が来れば鎮魂祭もあるが、騎士団の正騎士になる為の試験もあるのだ。
時々、皆が集まって黒竜魔王討伐の訓練もやらねばならず、決して暇な訳ではない。
魔王討伐自体は初夏までには終えたいとディオン皇太子殿下は言っていたが…
ふと、クロードが白い家を指さして。
「グリザスさん、見て見て。あの家、理想的なんだよね。売りに出ているんだけど。
俺達が結婚したら住む家。」
白い2階建ての屋敷が見えて、庭もそれなりに広そうで…
結婚…。クロードは正騎士になったら結婚しようって言ってくれているが。
こんな死霊の身で幸せになっていいのであろうか?
「お前と住めたら素敵だろう。きっと…。しかし、本当に俺と結婚していいのか?」
グリザスの言葉にクロードは嬉しそうに。
「この国の法律は同性婚は認めていないけど、法律なんてどうでもいいんです。
俺はグリザスさんを娶りたい。必ず正騎士になって、そしたら寮を出て一緒に暮らしたい。」
そう言ってグリザスを抱き締めてきた。
「愛しています。グリザスさん。どうか俺と結婚してくれませんか。」
改めてプロポーズされてしまった。
何だかドキドキしてしまって…
「俺でよければ、とても嬉しい。クロード。」
クロードが鎧の口元辺りにキスをしてくれた。
そして、あの白い屋敷を見つめて、クロードは力強く。
「いつか必ずああいう家に住めるように、俺、出世しますから。近衛騎士になれば可能だ。
時には同期の仲間を招待して、グリザスさんと楽しく過ごしたいな。」
「ああ…俺は出世出来ないから、頼もしく思う。」
そう、剣技の指導者なので近衛騎士になることは不可能だ。
給与も正騎士の金3枚から上がらないだろう。
死霊なのだから仕方がない。
クロードはいずれ近衛騎士になれるだろう。以前、ローゼン騎士団長が言っていた、将来、空席になる予定の騎士団長の座をクロードなら狙える。
クロードに向かって、その顔を見つめながら。
「クロードなら騎士団長も狙えるのではないか。頼もしい男が俺の夫になって、幸せものだな…」
「うううん…。まぁライバルに勝たないとならないけどね。ジャックや、近衛騎士の人達に。頑張るよ。」
二人で手を繋いで、騎士団寮まで歩く。
最近、王宮の近所で俺の事は有名になってしまった。
怪しげな死霊の黒騎士が、若い青年と手を繋いで歩いているとか…イチャイチャしているとか。
だから、すれ違う人達も、いつもの光景かくらいで、通り過ぎていく。
クロードと一緒に歩く幸せな時間を過ごしながら、騎士団寮の自分の部屋に帰れば、先客がいた。
第三魔国魔王のシルバと第五魔国魔王のロッドだ。
黒竜魔王が氷漬けになって第一魔国の魔界で眠っているのだが、
氷漬けになった後、その配下5人が5つの国を作り、魔王を名乗るようになったのが、第一~第五魔国である。
クロードは2人の姿を見て不機嫌に。
「何だよ。ここ俺の部屋じゃないし…何の用だよ。」
シルバが4人掛けのテーブルの椅子に座っていて。
「あんな狭い部屋で待てるか。茶くらい出したらどうだ。」
隣に座っているロッドも長い髪を掻き上げて。
「そうだな…茶ぐらい飲ませてくれていいと思うぞ。」
グリザスはクロードに。
「食堂へ行って茶を貰ってくる。クロードは二人の相手をしていてくれ。」
「有難うございます。グリザスさん。」
お茶を食堂へ行って3つ貰い、戻ってみれば、
クロードが買ってきたばかりの菓子を皆で摘みながら話をしている。
ロッドがシルバに対して。
「いい加減に悪い事はやめろ。転生者を使ってローゼン騎士団長を陥れようとしたり、ディオン皇太子の魂に夢魔を出現させたり…お前との親交をやめてもよいのだぞ。」
シルバは菓子の中で小分けにされた豆の袋を開けて、口に豆を放り込みながら。
「俺の野心はマディニア王国への楔となる事だ。今は第一魔国のサルダーニャが主導権を持っているが、アイルノーツ公爵を利用し、のし上がって見せる。邪魔者は消すか、利用させて貰うだけだ。」
グリザスはそっと3人の前に茶の茶碗を置く。
お茶出しする死霊なんて俺位な物だろう。また、記録を更新してしまった。
クロードが不機嫌に。
「お前の野心的な所、嫌いだな。俺はディオン皇太子殿下の事、尊敬しているし…ローゼン騎士団長は家族みたいに大切な人だと思っている。お前がそのつもりなら俺は全力で、お二人の事を守るし、お前と敵対するよ。」
ロッドも豆の袋を手にとり、袋を開けて豆を食べながら。
「シルバ…お前は第一魔国と第五魔国を敵に回したな…。第二魔国のレスティアスはフォルダン公爵の言いなりだ。お前の国とは一切、交易もしない。外交的付き合いも無しという事になるが…。」
シルバはぽりっと豆を噛んで、苦々し気に。
「ロッド。お前なら俺の野心を理解してくれると思っていたが…親友ではなかったのか?」
ロッドは澄ました顔でお茶を飲んで、再び豆を食べて。
「私はディオン皇太子を評価している。あの男が先々、王になるマディニア王国と我が第五魔国は良い関係を築いていく方針に変わりはない。」
クロードがシルバに向かって、
「なぁ…シルバ。お前も考え直してくれよ。これから黒竜魔王を倒さねばならないという使命もあるんだ。何より、マリアンヌ様を悲しませないで欲しいな。」
シルバは豆を食べ続けながら。
「マリアンヌの父、王弟殿下はアイルノーツ公爵派だ。今は無理でもいずれ、俺の野心を理解してくれるはずだ。それに、ディオン皇太子を引きずり落して、フィリップ第二王子に王位についてもらうように策略を練るのもよさそうだ。ディオンは男に狂っているしな…」
クロードが豆の袋を手にとりながら。
「ええ?まさか…ルディーンをけしかけたのは、お前じゃないだろうな。」
シルバは新しい豆の袋を手に取って、袋を開け。
「まさか…。第一魔国の王族のルディーンが、俺の言う事なぞ聞くものか…。
こちらには都合がいい展開になったが。」
グリザスはベットに座って3人のやりとりを聞いていた。
しかし、皆、豆が好きだな…。大事な話をしながら、豆を食べる事をやめぬとは…。
俺も死霊じゃなければあの豆を食べたいところだ。
ロッドも新しい豆の袋を手に取ってから、ギロリとシルバを睨む。
「で?我が第五魔国の国交断絶という事でよいのだな?シルバ。」
「それは困る。ロッド、お前こそ俺の協力をしてほしい。俺の野心を解ってくれ。」
「言っただろう?ディオン皇太子を評価していると。」
「ディオンは男に狂っている。何かやらかして王になれずに、廃嫡されるだろう。
そこは俺が画策するが…」
クロードが手に持った豆をシルバにぶつけて。
「ディオン皇太子殿下に手を出すな。騎士団の騎士として。まだ見習いだけど、それだけは許さない。そうだよね?グリザスさん。」
グリザスは腰の魔剣に手をかけて。
「お前がディオン皇太子殿下に害をなした時点で命は無い…。」
クロードも立ち上がって聖剣を手に持ち。
「夢魔の件は証拠がなかったけど…ディオン皇太子殿下が皇太子の地位から引きずり降ろさせた時点で俺はお前を殺す。」
ロッドもスっと立ち上がり。
「その時は私も力を貸そう。クロード。グリザス。魔国同士の戦になるか?
3国揃えば、第三魔国なぞ叩き潰してくれよう。」
シルバは椅子に腰かけたまま、豆を口に放り込み。
「解った…ディオンには手を出さぬ…。それで良いであろう。」
グリザスはシルバに向かって。
「ローゼン騎士団長にも手を出さないで欲しい。フォルダン公爵家にもだ。俺やクロードに取って家族のような大切な人達だ。」
クロードは聖剣を置き、椅子に座り、新たなる豆の袋を開けながら。
「俺、シルバやロッドとも幼馴染でいい関係でいたいと思っているんだ。これから先もずっと…こうして豆を一緒に食べて、色々と話をして。」
ロッドも豆の袋を開け、口に放り込みながら。
「私もシルバと親友でいたい…。これから先も第五魔国は第三魔国と良い関係でいたいのだ。解ってくれるな?シルバ。」
シルバは諦めたように。
「お前達にはまいった。ディオンにもローゼンにも手は出さぬ。フォルダン公爵家の連中にもだ。俺はお前達と友でいたい。」
クロードは嬉しそうに。
「有難う。シルバ。ほら。もっと豆を食えよ。」
豆の袋をシルバの前にどさっと置く。
シルバは豆の袋を開け、豆を口に放り込みながら。
「この豆、美味いな。後で売っている店を教えろ。買って帰る。」
「了解。」
ロッドは茶を啜りながら。
「私は安堵している。お前とこれから先、友で居られることに。もし、約束を違えた時は…
お前の事を許さぬ。」
そう言ってシルバを睨みつける。
シルバは肩を竦めて、
「怒らせたら怖いからな…ロッドもクロードも…。安心しろ。怖くて裏切れんわ。」
その後も3人は豆を食べまくり、グリザスはお代わりの茶を食堂へ貰いに行く羽目になった。
心の中でこっそりと、「シルバの野望を抑える為の豆会談」と名付けておいたが。
2人が帰った後、ミリオンとルディーンがやってきた。
クロードが二人に向かって。
「豆は食べちゃいましたよ。後、残っているお菓子は…チョコレートとクッキーとせんべいかな…」
ミリオンが残念そうに。
「えええ?俺も豆、食べたかった…。無いのか?」
ルディーンが気を利かせて。
「豆は美味いですからねぇ… ちょっと転移して買ってきましょうか。」
そう言うと魔法陣を展開して、ルディーンは豆を買いにいった。
何故に魔族は豆が好きなんだ???
豆を沢山買ってくると、二人はクロードの前に座って、小分けにされた豆の袋を開け食べ始める。
グリザスは慌てて、食堂へお茶を3つ貰いにいった。
クロードも豆の袋を開けて食べながら。
「何の用?そろそろ夕食なんだけど。」
ミリオンが豆をポリポリ食べながら。
「いや…どうよ。最近、面白い事あったかなぁってな。」
「ミリオン。ディオン皇太子殿下の所へ遊びに行けばいいじゃん?何も俺のとこに来なくてもさ。」
グリザスが茶を出していると、ミリオンはグリザスの顔を見ながら。
「それに…こいつに会いに来たんだ。友達だからな。」
グリザスは慌てて礼を言っておく。
「そういえば、ミリオンには世話になっている…有難う。」
「友達だから当然だぜー。いや、ディオンは仕事忙しいだろうから…遠慮を。」
クロードがルディーンに向かって。
「聖女様の冠はどうしたんだよ。油売っていないで、さっさと作るか、ディオン皇太子殿下のお相手でもしてきたら?」
ルディーンも豆を優雅に食べながら。
「午前中に聖女様と打ち合わせをして、デザイン始めましたよ。いや、楽しくて楽しくて。
あまりに根詰めて疲れたんでちょっと休憩しにこちらへ…。今夜は徹夜しますよ。」
クロードは呆れたように、豆を食べながら。
「本当に…仕事となると、根詰めるんだから…。」
「いや…デザインの仕事は大好きですが…ディオン皇太子殿下に、首輪の事はどうでもいい、聖女様の冠のデザインさえ出来ればって言う態度を示したら、首輪を外してくれましたよ。要は頭の使いようって事で。」
ミリオンが茶を飲んでから。
「わざと言ったのか?」
「当然…興も覚めるってもんでしょ?お前との恋なぞ、冠と比べたらどうでもいい扱いされたら。」
クロードも茶を飲んで、豆を口に放り込み。
「悪い男だな…相変わらず。」
グリザスは気になったので聞いてみる。
「本当はどうなんだ?ディオン皇太子殿下の事が…好きなのか?」
茶碗を両手で持ったまま、視線をグリザスに向けて、ルディーンは。
「望んだって手に入らないでしょう?お日様って…。
魔王討伐まで適度に相手をして、それからどうしましょうかね…帝国へ行ってみても面白いかもしれない。」
ミリオンが思い浮かべたように。
「ジュエル帝国か…アマルゼ王国の向こう側にある国だよな…俺、少しは勉強したんだぜ。
人間の国の配置を…」
クロードが頷いて。
「大きな国らしいよね…。一度は行ってみたい国だ。この国より開けているんだろうな…」
ジュエル帝国…。
死霊の俺が行ったら好奇な目で見られるんだろうな…
自分が死霊で無く人間だったら行ってみたいが…
ルディーンがグリザスに向かって。
「帝国で店を出そうと思っているんですよ。店を出したら是非、貴方にも遊びに来てほしいものですね。食べ物もマディニア王国と比べ物にならない位に、美味しい食べ物があると聞いた事があります。クロード、グリザスさんは食事はできないんですか?」
「人間に戻るには高位魔法を使えば2時間位は…閉じられた部屋が無いと駄目で、俺一人では難しい魔法かな。」
ミリオンがニンマリ笑って。
「その時は協力してやるよ。俺も、ルディーンも。だからさ…皆でジュエル帝国に遊びに行こう。黒竜魔王を倒したら。面白そうじゃん。」
グリザスは困ってしまった。
「俺は好奇の目で見られるだろう。良いのか?」
ルディーンが考え込むように。
「外を歩いている時、完全な人間に戻る必要はないですよ。
人の姿に認識して貰えれば良いんですよね…。そういう魔法があるかどうか、探しておきますよ。」
クロードが嬉しそうに。
「頼むよ。俺も探してみるけど…そうしたら、グリザスさんは人目を気にせず、色々な所を歩けるようになる。」
あああ…どんなにそうなったら幸せだろう。
人間の姿で見られるようになったら、もっと色々と出かける事が出来る。
「有難う。ルディーン。期待している。」
ミリオンはグリザスの方を見て。
「よかったな。グリザス。俺も探してみるよ。その魔法とやらを。ルディーンは頭だけはいい。」
ルディーンは立ち上がって。
「顔もいいって褒めて下さいよ。さてと、そろそろ帰って、デザインの続きをしないとね。それじゃ…また…お会いしましょう。」
そう言うとルディーンは魔法陣を展開して姿を消した。
ミリオンも立ち上がって。
「豆、美味かった。またな。ジュエル帝国、必ず行こう。」
ミリオンも魔法陣を展開し、姿を消す。
クロードと共に散らかったテーブルの上の菓子や空の茶碗を片付ける。
クロードがすまなそうに。
「今日はお客さんが立て続けでしたね。落ち着かなかったでしょ?」
「いや、興味深いやりとりも見られた。ジュエル帝国へ遊びに行く約束も出来た。
気にする事はない。」
「あああ、夕飯終わっちゃったかな…残り物がないか聞いて来よう。それじゃ、後でね。」
クロードは行ってしまった。
グリザスは勉強机に移動し、騎士団の小テストの為の勉強をするのであった。
大変な事もあるけれど、幸せな事も待っている。
今、こうして勉強出来る幸せを感じながら、日は暮れていくのであった。




