何故か今日、俺はローゼン騎士団長の部屋にいる。( 一一)
グリザスは困り果てていた。
フローラがクロードと共に魔界に用があると言うので、警護の為にローゼン騎士団長のお部屋で過ごしなさいと、迎えの馬車をよこしたのだ。
フォバッツア公爵家の屋敷に案内されれば、ローゼンの部屋に通されて、
椅子に座って新聞を読んでいたローゼンが。
「今日一日、お前を預かる事になった。今日は休日だ。ソファに座ってお前もゆっくりと過ごすがいい。」
えええええ???騎士団長の家??それも部屋?
クロードに言わせれば、何の罰ゲーム的な事になるのだろう。
騎士団長とは私的な話など一切したことがない。
この気まずさで1日乗り切らなければならないのか…
ローゼンは優雅に珈琲を飲みながら、新聞に目を通している。
袖のゆったりした黒の貴族服着て、足を組むその姿だけで絵になるようだ。
ローゼンはふと顔を上げて。
「何か読むか?書物なら隣の部屋の書庫にあるぞ。」
グリザスは疑問に思っている事をローゼンに向かって。
「騎士団長、休日はどのように過ごしているのか?俺は知りたい。」
ローゼンは優雅な手つきで珈琲を飲んでから。
「日曜日だけは自宅にいるようにしている。大抵は新聞と、国政についての報告の書類に目を通しておく。月曜日は王政会議だからな。何も解りませんではすまない。」
「大変なんだな…」
「ところで、前々から思っていたんだが、お前が私に敬語を使わないのには意味があるのか?」
グリザスは痛い所を突かれたと思った。
確かに本来は騎士団長に敬語を使うべきなのだろうけれども。
「自分より年下に敬語を使う気にはなれない。敬語に変えた方がよいのだろうか?」
「そのままでかまわん。正騎士でもあるが、剣技の指導者でもあるからな。」
沈黙が流れる。
ローゼンから口を開く。
「グリザス、お前は友という者はいるのか?もしくは過去にいたのか?」
珍しい事を聞いてくるものだ。
「過去に友がいたとしても、戦で亡くなってしまった。もう、既に顔も思い出せん。
今は騎士団見習いの全てが友であると俺は勝手に思っている。皆、良くしてくれるからな…。
ミリオンに友になろうと言われたが、友かどうかよく解らない。親身になってはくれるが。」
「成程。グリザスが見習い達に良くして貰って私も嬉しく思う。騎士団は結束が大事だからな。私は…友という者がいない。友とはどういう者なのかよく解らない。」
この騎士団長は孤独なのか? 確かに近寄りがたい雰囲気があるからな…
「俺も友というのはどういう定義だか解らないが、困った時に助けてくれる。こちらも助けてあげられるのが友ではないかと思う。そう考えれば、困った時に助けてくれたミリオンも友に当たるのか。」
となると、困った時に助けてくれたこの騎士団長も友に当たるわけか?
「ローゼン騎士団長はこの間、俺を牢獄から救ってくれた。有難う。貴方も友になる訳だな。」
ローゼンは驚いたようにグリザスを見つめ。
「大事な騎士団員だから、助けに向かったまでだが…。お前でなくても騎士団員が危害にあえば私は助けに行くぞ。」
グリザスは答えに困ってしまった。
「そういう騎士団長だからこそ、俺達騎士団員は安心してついて行けるのだと思う。」
ローゼンが今度は答えに困ったように。
「当たり前の事だ…。騎士団長としての職務を全うしているだけだ。」
「もし、騎士団長が窮地に立った場合、俺も必ず助けに行こう。騎士としても当然だ。」
「安心して窮地に陥れるな。お前の剣技は見事な物だ。」
ローゼンは微笑んだ。
この人はこういう表情も出来るのだと、グリザスは驚いた。
「たまには笑った方がいい。騎士団長は笑顔が綺麗だ。」
ローゼンは焦ったように。
「まさかお前からそのような言葉を聞くとは思わなかった。」
「俺の事をお堅い人間…いや死霊だと思っていたのか?」
「私からみたグリザス・サーロッドは腕の立つ真面目一筋な騎士だ。」
グリザスは否定する。
「俺は真面目一筋じゃない。遠い昔はそれこそ…憧れの女性の裸を想像して…
時には娼婦を買った事もあった。クロードに出会うまでは女性が好きだった。
賭け事もやった事があった…まぁ懐が寂しかったから、大した額はやらなかったが。
普通の男だ。欲もあるし…色々と…」
ローゼンは椅子に背を預けて。
「それならば、この間の、第三魔国魔王シルバの発言、どう思った。勿論、嫌がらせの捏造だが。」
「騎士団長が、裸になってフローラに見せびらかす変態という発言か?誰も信じていないと思う。ローゼン騎士団長は俺だけでなく、他の者から見ても、高潔な騎士団長のイメージが強いからな。」
「それならばよい。」
「他にもディオン皇太子殿下が男を銜えこんでいるとか、ユリシーズが変態性癖の持ち主だとか、趣味が悪い捏造だと俺は思った。他の人もそう思っているに違いない。絶対に。」
実は…騎士団長とユリシーズの件は真実だと俺は知っている…。クロードが教えてくれたからだ。
だが、真実だと言ってしまえばプライドの高い騎士団長が困るのではないか。
しかし、グリザスの言葉にローゼンはマジマジとその顔を見やり。
「グリザス・サーロッド。何か知っているのではないか?何を知っている。」
うわっーーー。付け足したのがまずかったのか。俺は嘘をつくのが下手なようだ。
「何も知らない。クロードから聞いてはいない。」
「クロードだな?クロードが何か話したのだな??」
「いやその…フローラとユリシーズの動向がおかしかったから、絶対に真実なんじゃないかなーとか、聞いてはいないっ。」
ローゼンは額に手をやって。
「すまないが、あまり言いふらさないで欲しい。他の者に万が一聞かれたら、俺は知らないと一言言ってくれ。お前は嘘をつくのが下手なようだ。」
「まことに申し訳ない。」
再び沈黙が訪れる。
グリザスはどっと疲れてしまった。
恐らくローゼンはもっと疲れを感じているだろう。
グリザスは立ち上がると。
「書庫をお借りしよう。あまり、長話をしていると、騎士団長の明日の支度に差し障る。」
「ああ、そうしてくれ。」
隣の部屋へ逃げる。
えらく肩が凝った。
沢山の書物が所狭しと本棚に入れられて並んでいる。
さすがフォバッツア公爵家の書庫だ。
グリザスは歴史書を手に取り、ソファに座り読み始めた。
時間がたつのが遅い。
しばらく本を読んでいたが、ふとローゼン騎士団長が気になって、部屋へ行ってみる。
ノックをして返事がなかったが、部屋に入ってみれば、書類を手に取ったまま、椅子で眠っていた。
疲れているのだろう。
書類をそっとテーブルに置くと、ローゼンをお姫様抱っこしてベットに連れていこうとした。
抱き上げた途端、ローゼンが目を覚ました。
互いに目があった瞬間、凄く慌てたようにローゼンは。
「この状況を説明しろっ。グリザス・サーロッド。」
「ベットにお運びしようと…眠っていたので。」
「余計な事をしなくてもいい。おろしてくれっ。」
無理やり、降りようとするものだから、グリザスはバランスを崩して、二人は床に倒れこんだ。
ローゼンを押し倒した形のグリザス。
そして扉は開いたまま…
通りかかった若いメイド二人にばっちりと見られてしまい。
メイド達は真っ赤になりながら、扉をそっと閉めていった。
凄くまずい状況ではないだろうか…
慌てて身を離せば、ローゼンに思いっきり睨まれた。
そして一言。
「確実に噂が一つ増えるだろう。死霊の騎士を銜えこんでいるローゼンは変態とか…お前もしっかりと言い訳を考えておけ。クロードは容赦ないぞ。私はフローラへの言い訳を考えねば。」
修羅場を想像してぞっとした。どうなるんだろうか…。
二人が真っ青になって部屋で固まっていた頃に、ご機嫌なフローラとクロードが転移鏡で、転移してきた。
フローラがローゼンの部屋の扉をノックして。
「ただいま帰りましたわ。ローゼン様。」
扉を開ける。
クロードも後に続き。
「迎えに来たよ。グリザスさん。」
ローゼンはクロードに向かって、その両肩を正面から掴んで。
「クロード・ラッセル。お前に話がある。」
「な、なんでしょう?騎士団長。」
「若いメイド達から、変な噂を聞くかもしれん。しかし、それは誤解なのだ。
間違っても私はグリザス・サーロッドと出来てはいない。解っているな?」
その言葉にクロードから殺気が立ち上る。
「どういう事ですか?しっかりと説明願いましょうか。」
魔族姿になり、目まで光っているようだ。
フローラも爽やかな微笑みで。
「そうですわね。どういう事かご説明お願いしますわ。場合によっては…」
こちらも魔族姿になる。凄い殺気を感じる。
ソファに座るフローラとクロードの前で、グリザスはそれこそ、逃げ出したい気分だった。
ローゼンが説明してくれた。
「私が居眠りを椅子でしていただけなのだ。それをグリザスが気を利かせてベットへ運ぼうとして、途中で気が付いた私が暴れたせいで、バランスを崩して床に倒れこんだ。そこを若いメイド達に見られたという事だ。だから、私達は淫らな事はしていない。」
クロードがグリザスに確認する。
「本当ですか?グリザスさん。」
「本当だ。運んだ俺が全面的に悪い。」
フローラが立ち上がって、ローゼンの傍に行き。
「淫らな事をしていないか、確認してもよろしくてよ。」
ローゼンは慌てて。
「それだけは勘弁してくれ。頼む。」
「どうしようかしら。」
クロードがにっこり笑って。
「納得しました。騎士団長。俺はグリザスさんを連れて帰ります。
守って下さってありがとうございます。誤解を生む行動をしたグリザスさんにはお仕置きをたっぷりしておきますんで。」
うわっーーー。仕置をするのか。嬉しそうだぞ。クロード。
フローラもにっこり笑って。
「クロードが納得したのなら、私も納得しますわ。でも、とりあえず潔白を確認する事に致しますわ。後で…よろしいかしら。ローゼン様。」
ああああ…脱がされるな。騎士団長。いやまずは自分の心配ではないだろうか…
クロードに手を引っ張られ、部屋を連れ出された。
耳元で囁かれる。
「さぁ、帰ってお仕置きをしますから…。楽しみにしてくださいね。」
何だか疲れる一日で…更に疲れそうなお仕置き…
冬の一日はこうして過ぎていったのであった。
フローラ達の話と連動しています(笑) いやはや、ローゼン様との会話は疲れるとグリザスは申しておりました。




