牢獄へ投獄されてしまった。
今、現在、グリザスは非常に困った状況にあった。
王宮で魔王討伐について、関係者が集まった会談があった。
それが終わり、クロードはフローラとユリシーズと話をしているようだったので、
グリザスは先に帰ってきた。
備品を買いに行きたい。油がなくなってきた。
剣を手入れしていてそう思った。
夕方に油を買いに出かけた。
良い油を扱う店があったので、気に入ってよくその店で買い物をしていた。
出かけた先の店員はグリザスがクロードと共によく来るので、顔なじみになっていた。少なくとも死霊の黒騎士が店員に驚かれる事はないのだ。
まぁ人目は気になるが、何とかなるだろうと歩いていたら、声をかけられた。
黒い制服を着て帽子をかぶっている。腰には剣を持っていた。
治安隊だ。特に下の方の隊員は、鎧兜は着用しておらず。制服を着ているのだ。
「お前は何者だ?」
「怪しい奴め。」
グリザスは身分を名乗る。
「グリザス・サーロッド。王宮騎士団所属の正騎士だ。」
二人の治安隊の青年たちは、凄く怪しんで。
「嘘をつくな。」
「騎士団がそんな黒づくめの格好をしているはずはない。」
そして腕を掴まれて一言。
「一緒に来てもらおうか。」
抵抗すれば、治安隊と問題になるかもしれない。
仕方なくグリザスは連れていかれる事となった。
連れて行かれた先はいきなり王都地下牢獄である。
腰に下げていた魔剣を取り上げられ、そこへ入れられてしまった。
取り調べもないのか???
唖然としたが、仕方がない。
今は冬なので、ともかく寒い。
与えられているのは、薄い毛布と敷布団だけだ。
トイレの衝立があるだけで、風呂もない。
後は水が汲んであるカメが置いてあり、酷い環境だった。
仕方がないので布団に座っていると、目の前に入っている女が声をかけてきた。
髪はピンクでお下げをしている。
着ている服は薄いワンピース一枚だ。
「ねぇ。寒いの。私寒いの…。お腹もすいているの。何か食べ物頂戴。」
鉄格子の間から痩せた手を差し出す。
グリザスは困ってしまった。
「申し訳ないが何も持っていない。」
「あああああああっーーーーー。ここから出たいっ。私の何が悪かったというのっ。」
そう女は叫ぶ。
牢番が食事を持ってきた。
小さな黒いパンとスープっぽいのが入った皿しかない。
それをグリザスの牢の差し入れ口に入れながら、
「気の毒にな。大の男が、いや女だってこれだけの食事じゃ生きていけんわ。」
そう言いながら置いていった。
俺は食事はいらないんだが… それにしても粗末な食事だな。
目の前の女を見ていたら、牢番に向かってワンピースをめくりあげ、下着を見せながら。
「ねぇーー。私を好きにしていいのよ。だから、もっとご飯頂戴。」
牢番は無視をして、食事を牢の小さな差し入れ口に入れると、女はがつがつと食べる。
他の牢からもうめき声や、いろんな声が聞こえてきて、さながらここは地獄だった。
布団に横になるが、ともかく寒い。死霊の身でも寒さは感じるのだ。
助けに来てくれるのか?クロード。
俺は今、危機的状況だと思うんだが…。
薄い毛布を纏って寒さを耐え忍ぶグリザスであった。
その頃、クロードは焦っていた。
愛しいグリザスが何やら危ない状況っぽいのだが、命に関わる危機ではないとグリザスの傍に転移できないのだ。
何が起きたのか耳を澄ませてみるも、肝心な事が解らない。
暗くて寒い所にグリザスがいるであろう事が解るだけだ。
ああ、そうだ。魂の世界だ。
そこで聞いてみよう。
グリザスを魂の世界に呼び出した。
夕焼けが広がる中、グリザスは裸で身を丸めて横たわり震えていた。
「寒い…とても寒い。助けてくれ。クロード。」
クロードは服を着たままである。
いつもは淫らな事をする前は魂の世界といえども、服を着ていた。
グリザスも顔以外は鎧を着こんでいる。
それが、今日は最初から裸なのだ。
暖かい魂の世界で、彼は震えている。
クロードはグリザスを抱き締めて。
「落ち着いて。貴方に何があったのか話して下さい。必ず助けに行きますから。」
グリザスはクロードに抱き着きながら。
「治安隊に捕まった。王都の地下の牢獄にいる。」
「解りました。騎士団長に話して必ず助けにいきます。待っていて下さい。」
クロードはグリザスの唇にチュっとキスを落とすと、
急いで魂の世界から現実に戻り、ローゼンを探す事にする。
王宮にまだいるかもしれない。
捜していると、フローラと手を繋いで廊下を歩いているローゼンとばったり会った。
クロードはローゼンに向かって。
「ローゼン騎士団長、お願いがあります。グリザスさんが王都の地下牢獄へ投獄されてしまいました。どうか、騎士団長の力で助けてくれませんか?」
ローゼンは驚いたように。
「解った。すぐに助けに行こう。私は馬で先に行く。お前は馬車で来い。初めての場所は転移できないだろう?」
「スーティリアは出来るんだけどね。会談から帰ってしまっただろうし。お願いします。俺は馬車で行きます。」
ローゼンは馬を引っ張ってくると、すぐに飛び乗り、走り去っていった。
クロードが馬車をどうしようと困っていると、フローラが。
「フォルダン公爵家の馬車を使うといいわ。私も一緒に行きます。さぁ急ぎましょう。」
二人でフォルダン公爵家に転移鏡を取り出して転移する。
馬車を出して貰い、聞いた事がある王都の地下牢獄へと急ぐのであった。
ローゼンは王都の地下牢獄へ馬で乗り入れた頃は夜になっていた。
地下牢獄の建物の入り口で、門番に向かって。
「ローゼンシュリハルト・フォバッツアだ。王宮騎士団の騎士団長である。
うちの騎士団員、グリザス・サーロッドを迎えに来た。取り次いで貰いたい。」
門番は慌てて、中の職員に取り次いでくれた。
中にローゼンは通されれば、牢獄の所長がやってきて。
「これはローゼン騎士団長、そちらの騎士団員が投獄されていると?」
ローゼンは所長を睨みつけて。
「死霊の黒騎士が投獄されたはずだ。大切なうちの団員を返してもらおうか。」
所長は大げさに肩を竦めて。
「怪しげな男だと思ったので、投獄したのですが、そちらの団員さんでしたかー。
それは失礼しました。すぐにお出ししますので。」
「早くしてもらおう。」
その時である。
ローゼンの背後から、棒で男が殴り掛かった。
ローゼンは振り向きもせず、聖剣を抜き、その棒を真っ二つに斬る。
そして、振り向くと、素早く殴り掛かって来た男の首に聖剣を押し当てて。
「どういうつもりだ?」
いつの間にか周りには人相の悪い10人位の男たちがローゼンを囲んでいた。
「これは美しい騎士団長さんだ。」
「そこら辺の女より、食いがいがありそうだ。」
「ひひひひ。さぁ俺達のいう事を聞いてもらおうか?」
襲い掛かってくる男たちを聖剣を使って、みぞおちに衝撃を食らわせる。
あっという間に11人の男達は気絶し、床に転がった。
ローゼンは廊下に飛び出る。
しかし、困ってしまった。
グリザスはどこにいるのだ?
この地下牢獄は広大だ。
何百という牢屋がある。
そこへクロードとフローラが、飛び込んできた。
ローゼンはフローラに向かって。
「フローラ、君は戻った方がいい。ここは危険だ。」
フローラは頭に角を生やして魔族姿になる。
「大丈夫です。足手まといにはなりませんわ。」
クロードも魔族姿になって。
「俺がグリザスさんを見つけます。さぁ…答えてくれないかな?
グリザスさん。貴方はどこにいるんですか?」
グリザスは寒い牢屋の中で、クロードの呼びかけを聞いた。
ああ…助けに来てくれた。
クロード。俺はここだ…。
魂に魂を絡めるように、グリザスは強くクロードを求める。
クロードはローゼンとフローラに向かって。
「こっちだ。グリザスさんを感じるよ。」
3人は廊下を走り出す。
地下への階段を下りていけば、頑丈な鍵がついた扉に突き当たった。
ローゼンが聖剣を構えて。
「この剣に斬れぬものはない。」
あっという間に扉を三角に斬り開く。
3人がその斬り開かれた扉を通って、中に入れば牢屋が、奥へ奥へと長く並んでいた。
皆、寒さに震え、やせ細っている。
3人を見て口々に助けてくれと叫ぶ。
だが、ここに入れられているのは重罪人ばかりなのだ。
春になれば、北の牢獄へ行く予定の者が大半を占める。
だが、飢えたり、寒さで死ぬものが多数いるので、実際に北へ行くのは少数だった。
北の牢獄へ行ったら行ったで更に厳しい環境が待っている。
そして、軽犯罪者は地下牢獄ではなく、別の地上にある牢獄に入れられているはずだ。
クロードはそんな連中には目もくれず、ただただ、グリザスの魂を求めていた。
どこです?どこにいるんです?
俺はここだ…ここにいる…
奥へ奥へと急ぐ。
そして、ある牢屋の前に行くと、そこにグリザスは居た。
ローゼンが聖剣で鍵を破壊する。
牢屋からグリザスを出してやった。
グリザスは3人に向かって礼を言う。
「助けてくれて有難う。まさかこんな事になるとは。」
ローゼンはグリザスに向かって。
「治安隊の嫌がらせだな。恐らくザビト総監は関わってはいないだろう。
下っ端の連中と、この牢獄の所長が組んでやった事だ。ともかく早くここを出よう。」
その時である。
向かいの牢の女が叫んだ。
「フローラ。ローゼン。あんたたちのせいで私はっ…殺してやるっ。」
フローラが驚いたように見てから、冷たい声で。
「あら、ここにいたのね。貴方…」
ローゼンはチラリと女を見やり。
「まだ死んでいなかったのか…意外としぶといな。」
クロードは二人の対応に。
「この女、悪い事をしたんですか?」
ローゼンは吐き捨てるように。
「転生者だ。私を陥れようとした。死罪になって当然の女だ。」
フローラも頷いて、嫌がらせのように。
「今年の冬は寒いわ。こんな寒い所は私は嫌。さぁ、早く帰って美味しい物を食べて、暖かいベットで寝ることにしましょう。ね?ローゼン様。」
「そうだな。愛しのフローラ。」
グリザスは思った。
この二人、敵には容赦ないなと…。
クロードが3人に向かって。
「ともかく地上へ戻りましょう。」
建物を出る前に、先程の通された部屋に行ってみれば、グリザスの押収された魔剣が置いてあった。
それを回収する。所長は逃げたのか見当たらなかった。
ローゼンは馬に乗って帰るといったが、フローラが転移鏡を大きく展開し、馬ごと皆、王宮へ転移した。フォルダン公爵家の馬車は転移できないので、空のまま帰って貰った。
クロードがローゼンに。
「有難うございました。騎士団長。そしてフローラ。」
グリザスも礼を言う。
「助けてくれて有難う。」
ローゼンは2人に向かって。
「今回の件は、ザビト総監に苦情をいれよう。グリザス、外へ行く時は必ずクロードと行動を共にしてくれ。」
「解った。今回の件は反省している。」
フローラはにこやかに。
「無事でよかったですわ。グリザス様。」
「フローラも有難う。」
2人と別れると、騎士団寮へ帰ってきた。
グリザスの部屋に入ると、クロードが抱きしめてくれた。
「良かった。無事で…。あんなに寒がるグリザスさんを見るのは嫌だ。」
「クロード。本当に助けてくれて有難う。ああ、温めてくれ。お前の熱が欲しい。」
「勿論喜んで…添い寝しながら、魂の世界で愛し合いましょう。」
外は雪が降ってきたようだけども、グリザスはクロードに抱きしめられて、暖かくて幸せであった。
魂の世界では淫らに愛し合い、クロードの名前を何度も呼んだ。
クロード。クロード。愛している…。ずっと俺の傍にいてくれ…。
この手を離さないでくれ…
離しませんよ…ずっとずっと傍にいますから…愛しています。グリザスさん。
その言葉に何だか胸が締め付けられて、切なさを感じて、グリザスは涙を流すのであった…
グリザス姫は助け出されてよかったです(笑)




