交渉の付き添い、再び襲い掛かる魔物
フォルダン公爵家で食事をしてから2日後の事である。
いよいよアマルゼ王国へ、ディオン皇太子のお供をして、クロードと共に、グリザスは出かけることとなった。
他にセシリア皇太子妃、リーゼティリア聖女、フィーネ、ユリシーズ、ミリオン、スーティリアが同行する。
御前10時、マディニア王国の広間から、アマルゼ王国の王宮の門の前に転移すると、門の前にアマルゼの出迎えの人が2人、待ち構えていた。
雪は止んでいい天気だ。
「お待ち申し上げておりました。どうぞこちらへ。」
ディオン皇太子達、9人は案内人の後に続いて、王宮へと入る。
王宮へ入った後、何故か、ディオン皇太子、セシリア皇太子妃、リーゼティリア以外の人は、別室でお待ちくださいと、一つの部屋に押し込められる。
ばたんと閉まるドア。
豪華な部屋にはソファが置いてあり、それなりの客間のようだ。
クロードがソファに腰かけて。
「交渉を見たかったんだけどな。皇太子殿下の。」
ミリオンもソファに腰かけながら。
「仕方ねぇ。ここで待ちぼうけか…つまらん。」
グリザスはクロードの隣に腰かける。フィーネがちょこんと隣に座り。
目の前にはミリオン、スーティリア、ユリシーズがソファに腰かけている。
美味そうな焼き菓子と、温めてある茶のポットが置いてあった。
仕方がないので、皆で茶菓子を食べながら、ディオン皇太子の交渉が終わるのを待つこととする。
ミリオンがグリザスに話しかけてきた。
「その鎧って冷えないのか?」
「俺の鎧か…。それは寒いが…クロードが温めてくれる。」
「おい。それって惚れ気か?」
「事実を言ったまでだ。」
いや、本当に事実を言ったまでなんだが…。添い寝してくれて、熱を分けてくれる。
温かい…。
皆が一斉に俺の方を見た。
スーティリアが。
「お熱いですねーーーー。いいなぁ。ねぇ。ミリオンーー。温めてよう。」
「気が向いたらな。俺の恋人はあちこちに居るんだ。」
相変わらず、ミリオンは俺はモテるんだアピールをしているが、クロードが。
「男に走らないようにね。ミリオン。」
「お前じゃないーー。俺はまともだ。女にしか興味ねぇーー。」
フィーネはゴソゴソと荷物からスケッチブックを取り出して。
「グリザス様の花嫁姿を描いてあげようと思うの。ドレス着せたほうがいい?やはり、ベールとブーケは必要だよね。」
クレヨンで俺らしき物体を描き始める。
いやちょっと待て…死霊の黒騎士の花嫁姿なんて、不気味以外の何物でもないぞ…
クロードがフィーネに。
「俺を隣に描いてくれよな。ハンサムに頼むよ。」
「うん。努力してみる。」
どう見ても、〇に点々が入ったクロードと、真っ黒に塗りつぶされている怪しげな物体が寄り添って、頭にひらひらなベールらしきものを着け、手に花を持っている。
あああ…男としての俺はどこへ行った?きっと家出して、もう戻ってこないのであろう。
さっきから空気のユリシーズは、何やら様子がおかしかった。
手にはマナーの本を持っており、真剣に読んでいる。
クロードがユリシーズに。
「勉強かい?偉いね。」
ユリシーズは本から目を離さずに。
「まずは貴族のマナーから。かな…。俺が田舎者すぎて、アイリーンに恥をかかせちゃ可哀想だから。今度、魔界の王族のマナー本を借りるんだ。アイリーンにふさわしい王配にならないと。」
心を入れ替えたのか?グリザスには何だか異様に思えた。
何故だろう?何故異様に思えるのだろう。長年生きてきた時の感としか言えない。
ユリシーズに向かって。
「あまり自分を追い詰めるな。でないと壊れてしまうぞ。」
ミリオンも頷いて。
「そうだぜ。気楽にやった方がいい。疲れちまうからな。」
クロードが皆に向かって。
「アイリーンに何かされたんじゃないかと思ったんだけど、魂は綺麗なままだ。
青くて透き通っていて。うううん。ユリシーズ。本当に大丈夫?」
ユリシーズは顔を本から上げて、にっこり笑い。
「大丈夫。俺、元気だよ。本当に大丈夫だから。」
「それならいいんだけど。」
その時、バタンと部屋の窓が開いて、真っ黒な空間が窓から現れて。
ドロドロした魚の魔物達が、次々と湧いて出てきた。
クロードやミリオン、ユリシーズは聖剣を持参している。
皆、襲い掛かる魔物を斬りまくる。
勿論、グリザスも、魔剣を持っており、それを振るって魔物を斬りまくった。
スーティリアはフィーネと共に、奥に下がって身を低くしている。
ミリオンが叫ぶ。
「キリがねぇっ。どうなっているんだ?」
斬っても斬っても湧き出てくる魔物。
このままでは、こっちが力尽きてしまう。
ユリシーズが叫んだ。
「リリア。俺に力をっ」
ユリシーズの両手首に銀の腕輪が現れる。左手を翳せば、そこから一直線に光が奥の黒い空間に伸びて。
「あそこに大元がある。俺が斬ってくるよ。」
黒い空間にユリシーズが飛び込んだ。
ユリシーズ一人で行かせるわけにはいかない。
ミリオンもクロードも、そしてグリザスも共に黒い空間に飛び込み、ユリシーズを追いかける。
一直線に伸びる光、その光の先を追ってユリシーズは走っていく。
暗い空間の中、3人が後を追えば、巨大な一つ目の周りに人間の顔が無数に湧いた、
おぞましい魔物に遭遇した。
ユリシーズが叫ぶ。
「あれが、本体だ。」
ミリオンが飛び上がり、
「俺に任せろ。」
目玉に向かって、赤く輝いた大剣である聖剣で斬り付けようとする。
黒い稲妻を纏った聖剣の攻撃をミリオンごと、目玉の魔物は跳ね返した。
地に叩きつけられるミリオン。
皆がミリオンを心配して駆け寄る。
クロードが叫ぶ。
「大丈夫か?ミリオン。」
「大事ない。俺は頑丈なんでな。」
身を起こすミリオン。
魔物の周りの人の顔は口々に叫んだ。
- 死にたくなかった… もっと生きたい。―
- 憎きマディニア…憎きグリザス。―
- 死ぬ前に会いたかった。愛しい妻よ…子共よ… ―
- 痛い…苦しい…ここで死ぬのか。誰を恨めばいい。―
- お父さん、お母さん…。クルシイ… 苦しいよう。 ―
口々に恨みや苦しさを訴える。
グリザスは自分の罪深さを改めて認識した。
自分が殺した人々も沢山、魔物の周りにいるのだろう。
俺が殺した人たちは、成仏できずに苦しんでいる。
俺はこうして幸せで過ごせていいのか?
その時、女の甲高い笑い声がした。
- 殺せ。殺せ。すべてを殺し尽くせ。さぁ行くのよ。―
目玉の妖怪が、巨大化する。
今は引くしかない。
4人は元来た道を戻る。
しかし、また、魚の妖怪が出てきたらどうする?
封じ込める事は出来ないのか?
4人が飛び出ると、再び魚の妖怪達が飛び出ようとした。
フィーネが空間に向かって手を翳す。
「みんなは私が守るっ。チュドーーーーーーーーーン。」
凄い勢いで魚の妖怪達が空間の奥へ吹っ飛んだ。
それと同時に空間はあっけなく消滅した。
グリザスは思った。
フィーネはだんだんと強くなっているような気が。今、触らないで妖怪を吹っ飛ばしたのだ。
もしかして、復活予定の魔王もフィーネがいれば、一人で倒せるのではないか?
スーティリアが。
「凄い。フィーネ。最強じゃない?」
「怖いオーラが中で燃え滾っている。また、出てくるかもしれないよ。」
腰を抜かして、震えだした。
ミリオンがクロードと、スーティリアに向かって。
「封印の魔法だ。本封印は無理だが…しばらくは持つだろう。」
クロードが悔しそうに。
「今はそれしかないか…。3人で協力して詠唱しよう。」
スーティリアも頷いて。
「よし。やりましょーー。」
3人が窓の外に向かって、手を翳す。
黒い空間がだんだんと広がってくる。
3人が魔界の言葉で何やら唱えると、黒い空間が溶けるようにすうううと消えていった。
ユリシーズが感心したように。
「凄いよ。みんな。封印したんだね。」
クロードがふううと息を吐いて。
「しばらくしか持たないけどね。怨念が強すぎる。やはり鎮魂祭をやって、あの目玉の周りの死霊を成仏させないと。」
ミリオンが窓を閉め。
「グリザスの事を恨んでいたな…。グリザス、お前。気を付けろよ。今まで以上にな。」
グリザスは頷くも。
「俺は罪を償わなくてはならない。あの死霊たちは俺を八つ裂きにすれば、少しは気が晴れるだろうか。」
クロードがグリザスの目の前に聖剣を突き付けてきた。
「貴方が死んだら、俺は寝たきりだ。それは構わないけど…覚悟の上の魂の分割だし。
でも、罪の意識とかで、命を終わらせるのなら、許さない。貴方は俺の物だ。
貴方の為なら俺は悪鬼でも、なんでもなる。ほら、見てよ。聖剣が形を変えていく。
より、禍々しく、より邪悪にね…。」
クロードの頭には魔族の印の角が、口には牙が生えて、見るからに姿も恐ろし気な魔族に変化していく。爪も長く、羽も生えて。
聖剣も夕空だった剣が、黒く、ネジくれた剣へと変化した。
ああ…俺のせいでクロードは…
グリザスはクロードを抱きしめて、自分の鎧の口元をずらして、骸骨の歯をさらけだし、クロードの唇に押し当てた。
恐ろしく変貌したクロードの顔を間近で見つめて、
「俺は優しいお前が好きだ。あの時、俺を助けてくれた、お前の優しさを忘れないでくれ。頼む。頼むから。」
クロードはすううと人間の姿になって。
聖剣も夕空のように美しい剣に戻り、その剣は床にカシャンと音を立てて転がった。
クロードがグリザスを抱き返してきて。
「死ぬなんて言わないで下さいよ。俺は貴方を守りたいんですから。俺の為に生きて傍にいてください。」
泣きたかったが、涙を流す事は死霊の俺には基本、出来ない。
それでも、涙がこぼれた。そんな気がした。
クロードはソファにグリザスを押し倒してきて。
「それに。俺から逃げられませんから。ずっと傍に居て下さい。俺と結婚してくれませんか?」
グリザスの骸骨の歯にかぶりつくようにキスをしてくる。
プロポーズは嬉しいのだが、ソファの真横に見物人が4人いるのには、どうも困ったもので。
横を向いたら、にやにやしたミリオンと、目をキラキラさせたスーティリア。スケッチブックで、スケッチしているフィーネ。そして戸惑ったような顔のユリシーズと目がそれぞれ合って。
ミリオンがどっしりと胡坐を掻いてご機嫌よく。
「続きをやってもいいんだぞ。」
スーティリアもわくわくしながら。
「さぁて、どのような展開が待っているのかなーー?死霊だから鎧は脱がせる事はできないしーー。」
フィーネがカキカキしながら。
「グリザス様はクロード様にソファに押し倒されましたーー。この絵、聖女様に見せたら喜ぶかな。」
ユリシーズがふと思い出したように。
「盛り上がっている所、悪いけど、ディオン皇太子殿下の交渉どうなったんだろう?」
慌てて、クロードを押しのけて、起き上がる。
クロードはニコニコしながら。
「あああ、でも、正騎士になるまで結婚はお預けかな。俺、グリザスさんと結婚したい。」
「俺は死霊だ。結婚なんて…。ともかく、今はディオン皇太子殿下の様子を見に行った方が。」
無事に交渉は終わったのだろうか。心配である。
取り合えず、廊下に皆、出るのであった。
結婚なんて…。男同士でも出来るものだろうか…
何だか心がドキドキするグリザスであった。
男としてのグリザスは、たぶん永遠に家出をして戻ってこないと思います(笑)
良いクロードのお嫁さんになれるといいですね♡




