アイリーンに自分が恋人だってバレてしまった。
アイリーンの転生者惨殺事件のグリザス視点です。内容は、フローラのお話と被っています。
グリザスはこの日の朝も、具合が悪かった。
大雪で、朝8時になってもフィーネは来ない。それは幸いだと思った。
今朝は逃げる気力もない。
言いたい。クロードに…手加減してくれと…
言う事が出来ない。魂の世界で、繰り広げられる情事に、グリザスは何をされても文句ひとつ言えずに耐えた。
耐える事には慣れている。200年間、魔物達と戦い、虐げられてきたのに耐えてきたのだ。
ただ…今は…身体よりも心が痛かった。
何やら外が騒がしい。
まどろむ意識の中、ハっと目が覚める。
血生臭いイメージ…。緊迫した状況。
― グリザスさんは来ないで下さい。 ―
クロードからヒシヒシと、来るなと言うイメージが伝わってくる。
飛び起きた。
具合が悪いなどと行ってはいられない。
クロードから貰った魔剣を腰に着けて、部屋を出て、寮の玄関に出れば。
クロードの婚約者のアイリーンがギルバートとカイルに迫っていた。
「ねぇ…貴方達。知っているのね?クロードの恋人。」
クロードが二人を庇うように前に出る。
「二人は関係ない。何も知らないはずだ。」
カイルがモジモジして、ニンマリ笑うと。
「ばれちゃったか。俺。クロードの事、愛しているんだっ。好きで好きでたまらない。」
すると、ギルバートもわざとらしく。
「俺も。クロードとの熱い抱擁が忘れられなくて。クロードっ。俺と結婚してくれ。」
ぎゅううっと抱き着く。
すると他の連中も次々と。
「クロード。俺とは遊びだったのか。本気で愛していたのに。」
「俺もだ。お前の事っ…愛しているっ。」
皆、クロードに向かってハートを飛ばし、わいわいと抱き着いて行く。
アイリーンが怒りまくって。
「何よっーーーーー。この集団はっ。私を馬鹿にしているの??」
すると魔法陣を展開して、ミリオン・ハウエルが現れて。
「ハハハハハ。アイリーン。お前の負けだ。俺も愛してるぜーーーー。クロード。
愛しくて愛しくてたまらねぇ。」
ユリシーズが笑い出して。
「ねぇ。アイリーン。騎士団の皆はクロード大好きなんだよ。恋人探しは諦めたら?」
クロードは、ミリオンに向かってきっぱりと。
「貴方の愛はいりません。」
「冷たい奴だな。クロードは。」
皆に向かって、
「俺も愛しているぜーーー。騎士団見習いのみんなっ。」
何やら、騎士団の皆が、自分とクロードの関係に気づいて、庇ってくれているらしい。
というか、なんとなく感づいていたのが、ギルバートとカイルで、他の連中は合わせてくれていたのだろう。
ミリオンまで出張って庇ってくれている。
何てありがたいんだろう。
しかし、俺はどうすればいいんだ?
その時、アイリーンがグリザスに近づいてきて、間近で問い詰めるように、
「貴方はご存知かしら?クロードの恋人。」
まるで何もかも見透かされているようで、言葉に詰まっていると。
クロードが前に出て庇ってくれた。
「この人を守るように、皇太子殿下に言われているんでね。」
他の見習い達も、グリザスの周りを囲み。
ギルバートが。
「俺達の姫に危害を加えたら許さない。」
カイルも頷いて。
「そうだそうだ。」
― 何て有難いのか…。俺は姫なんかじゃない。ただの死霊なのに。―
アイリーンは呆れたようだ
「何よ…。姫って、ただの死霊じゃない。男だし…。」
ミリオンがアイリーンに。
「この男は、クロードの恋人なんて知らないはずだ。騎士団見習いの剣技の指導者だからな。」
― ミリオンも、申し訳ない… ああ、ここはアイリーンに俺を殺すのか聞いてみないと… ―
意を決してアイリーンに聞いてみる。
「お前はクロードの恋人の名を知ってどうするつもりだ?今度こそ、殺すのか?」
アイリーンは微笑んで。
「私の気はすんだわ。クロードの本当の恋人を前は殺してしまいたいと思っていたけれど、今はユリシーズがいるから…。クロードと戦ったら、私、勝てないもの。」
そう、言うと、グリザスに近づいて。その顔を見上げる。
アイリーンに断言された。
「貴方ね…クロードの恋人って…みんな知っているのね…必死になって庇っている…
男に…それも死霊に負けるなんて…。私のプライドズタズタだわ。謝りなさい。」
― 心が痛む…。プライドの高い女性だ。本当は自分をズタズタに殺したかっただろう。―
グリザスはアイリーンと、そしてクロードに向かって心から謝った。
「すまない…。俺はアイリーン嬢を傷つけてしまった。クロードの人生を壊してしまった。謝っても謝り切れない。だが、もうクロードとは離れられない。」
クロードも頭を下げてくれた。
「ごめん…アイリーン。どうしよもなく、グリザスさんの事、愛しているんだ。
性別なんて関係ない。」
アイリーンは腰に手をやって。
「解ったわ。二人して幸せにならないと承知しないわよ。ユリシーズは私を幸せにして頂戴。」
ユリシーズはにっこり笑って。
「うん。俺がアイリーンを幸せにするよ。」
ギルバートがクロードに。
「良かったな。一安心だ。」
カイルも胸を撫でおろして。
「よかったよかった。」
ミリオンも髪をポリポリと掻いて。
「俺も安心したぜ。よかったな。クロード。グリザス。」
他の騎士団見習いの皆も安堵した表情をしている。
みんな喜んでくれて、
― ああ、俺はなんて幸せなんだろう。―
改めて皆の友情に感謝した。
部屋に戻れば、クロードが、グリザスの鎧を磨きながら、今朝あった事を話してくれた。
「アイリーンが、転生者の女性を殺したんですよ。俺がアイリーンを捨てた落とし前だって。
切断した首と身体を、寮の玄関前に置いていったんです。
ただ、現法律では、転生者は邪悪ですから、殺したアイリーンに王家から褒美が出るそうです。
あ、鎧を磨いたら俺、雪掻きに行きますから。」
グリザスは驚いた。
「殺されたって…俺達のせいで殺されたのか?その女性は…。」
「罪悪感なんて感じる必要はありません。どっちにしろ、騎士団か治安隊に捕まって、北の牢獄行きだったでしょうし。そこに送られて生きている人はいません。実質死刑です。なんでも10年前に転生者が国を乱したとかで、そういう法律になったそうですよ。」
「そうなのか…。犯罪者なら仕方がない。」
鎧を磨き終わると、クロードが抱きしめてきた。
「ごめんなさい。魔族の男って、その…強いんですよね。対象を見つけると抑えられない。
アイリーンに対してはそんな事、なかったのに…。女性は結婚するまで、関係は持てないし…。なんでだろう。俺。貴方に対しては抑えられないんだ。」
「クロード。俺は…。このままでは壊れてしまう…。頼むから壊さないでくれないか。」
クロードは頷いて。
「うん…努力するよ。俺…グリザスさんが壊れちゃったら、後悔してもしきれないから…愛してる。とても…貴方の事、愛しているんだ。」
「俺も…クロード。お前の事を愛している。」
扉が開いたのを気が付かなかった。
フィーネがぽかんとした顔で、抱き合っている男二人を見ている…
「クロード様ぁ・・・・これ、どうゆう事ですかっ。グリザス様ぁ。愛してるって…愛しているってっ…どうゆう事?」
背中から炎が噴き出しているような、怒りようだ。
クロードがグリザスの首筋をねっとりと舐めてから、
「愛しているって…言ったんだよ。グリザスさんを。」
グリザスは慌てて、クロードから離れようとするが、離れられない。
しっかりと抱きしめられていた。
フィーネは泣きながら。
「聖女様に言い付けてやるっーーーーうわーーーーんっ」
部屋を走り去ってしまった。
まずい事になってしまった。
クロードはグリザスに。
「ああ…ディオン皇太子殿下にまでバレますね。これ…。」
グリザスは頭を抱え、
「俺はどうしたらいいんだ???」
一難去ってまた一難とはよく言ったものである。
どうなってしまうのであろうか?




