婚約破棄後の事なのだが。
今、グリザスは焦っていた。翌朝の事である。
ベットには癒しのパワーを送ってくれたばかりのフィーネがむくれて座っている。
昨日、グリザスが朝、いなかったので、ちょっとご機嫌斜めなのだ。
「黙っていなくなるなんて、心配したんですっ。グリザス様。聖女様にいないって報告したら、クロード様から何も言ってこないんで、大丈夫でしょう。って言われてーー。」
「申し訳ない。ちょっと用事があったのだ。」
謝っておいたが、ぷくううっと膨れて、ご機嫌斜めで。
グリザスがあやすように。
「今度、いない時は部屋にメモを残しておこう。それで勘弁してくれるか?」
「それなら勘弁します。」
続けてクロードがアイリーンとの婚約解消を申し入れたと、グリザスの鎧を磨きながら、報告してきた。
「昨夜、姉上とフォルダン公爵立ち合いの元で、婚約解消の申し入れをしました。向こうは納得しないって承諾しなかったけど、申し入れはしたので、婚約は事実上白紙になりました。」
「そうか…。大変だったな。」
フィーネが傍にいたので、他人事として応答するしかない。
フィーネは興味深々に。
「えええ?どうして婚約破棄したんですか?クロード様。」
クロードはフィーネに向かって優しく。
「大人には大人の事情があるんだよ。」
「ふーーん。そうなんだ。それじゃ。私。戻るね。」
グリザスはフィーネに。
「本当に。申し訳なかった。」
にこっとフィーネは笑って、部屋を出ていった。
フィーネが居なくなると、グリザスはクロードに。
「本当に申し訳ない…。謝っても謝りきれない。」
「いいんですよ。俺が選んだ道ですから…。」
そっと、グリザスの手を握ってくる。手といっても黒の鎧で覆われている手なのだが…
「あ、騎士団長に呼ばれているんだった。貴方も来て下さいって、先程、伝言がありました。」
「何故?俺が…」
「ともかく行きましょう。」
二人は騎士団事務所にある騎士団長室へ向かった。
部屋の前に着くと、扉をノックする。
「入れ。」
中からローゼン騎士団長の声がして。
「失礼しますっ。」
クロードが、挨拶しながら、グリザスと共に入る。
ソファには優雅に紅茶を飲んでいるフローラがいて。
「クロード。昨日ぶりね。グリザス様、この間はどうも失礼しましたわ。」
ローゼン騎士団長とタダカツベアの店でイチャイチャしていた婚約者のフローラだったなと思い出す。
ローゼン騎士団長が、二人に向かって。
「ソファに座ってくれ。話がある。」
二人はソファに座る。
ローゼン騎士団長は、クロードに向かって。
「フォルダン公爵家から、クロード・ラッセルの騎士団推薦を取り消すと申し入れがあった。
だが、聖剣を持つ事、剣技が優れている事の2点から、騎士団を退団する事はない。安心したまえ。それからディオン皇太子殿下から、お前に、騎士団にいるからには、魔王討伐に参加するように命令があった。勿論、参加するだろうな。」
クロードは頭を下げて。
「有難うございます。勿論、参加させていただきます。俺、騎士団退団になったら、どうしようかと…。本当に嬉しいです。」
フローラが、グリザスに向かって。
「良かったですわね。グリザス様。私は…貴方達、お二人の幸せを祈っておりますわ。」
身を乗り出すとフローラは、クロードとグリザスの手を取り、二人の手を繋がせて、
にっこりと微笑む。
クロードがふううとため息をついて。
「グリザスさんも呼んでいて、結界が張ってあったから、もしやバレてる?って思ったんだ。
フローラはなんでもお見通しだな。」
「幼馴染ですから。でもお姉様とお父様は、女性が相手だと思っているわ。そう思わせるように、上手く誘導したのもありますけど。」
「さすが、フローラ。有難う。助かる。」
グリザスはそんな二人のやりとりに、もう恥ずかしくてたまらなかった。
ローゼン騎士団長の視線が突き刺さる。
ローゼン騎士団長はグリザスに。
「200年ぶりに戻ってきたと思ったら、同性である見習いに手を出すとは、不倫疑惑といい、噂が絶えない男だな。グリザス・サーロッド。あまりにも素行が悪いようなら、皇太子殿下に報告をして、懲罰を与えねばなるまい。」
クロードが慌てたように。
「手を出したのは、俺の方なんですけど…。不倫疑惑は、疑惑のままで、グリザスさんと聖女様とはなんでもないですよ。」
ローゼン騎士団長はクロードを睨んで。
「よりにもよって、剣技の指導官に手を出すな。クロード。」
「お店で、婚約者とイチャイチャしている騎士団長に言われたくありません。」
フローラが顔を真っ赤にして。
「だって…きゃっ…思い出してしまいましたわ。」
グリザスは立ち上がって。
「要件が済んだのなら、これで失礼する。騎士団長、それからフローラ公爵令嬢、色々と有難う。」
フローラはにっこり笑って。
「本当に、可愛い方…。どうかクロードをよろしくお願いしますわ。」
花が咲いたような微笑みに、ローゼン騎士団長は良いお嬢さんを婚約者にしたと、
グリザスは微笑ましく思った。
しかし、可愛い方って…。俺って可愛いんだろうか…?????
それから3日程、立った夜の事、昨日は初雪が降り、その雪がやまず、皆で今年の冬は早いなぁと噂をしていたのだが、
オレグ・マーティンがある夜、クロードの部屋に訪ねてきた。
グリザスがその時、クロードの部屋で話し込んでいたのだが、
グリザスが席を外そうかと言えば、
オレグは。
「後から来たのは俺だから。いても構わない。ちょっと頼みごとがあってクロードに会いにきたんだ。クロードっ。俺っ…俺っ…」
恋の告白か何かか?心中穏やかでない、グリザス…。
クロードがオレグを落ち着かせるように。
「どうしたんだ?何が頼みたいのかな?」
「アイリーンに惚れたんだ。まだ、友達枠だけど…。婚約破棄したっていうし…。それなら惚れてもいいんじゃないかって。でも、俺、根っからの平民だし…。魔界の王族のマナーってさっぱりわからないし…。少しは歩み寄らないと、アイリーンの事、もっと知りたい。だから…王族のマナー、教えてくれないか?」
天地がひっくり返る程、二人は驚いた。
クロードが慌てて、
「うわっ…本当かい?俺はアイリーンの不幸を願っている訳じゃない。だから…君がアイリーンを幸せにしたいというのなら、協力は惜しまないよ。ユリシーズ。」
グリザスが疑問に思う。
ユリシーズって言わなかったか?今…
歴史書に必ず出てくる30年前の英雄であり勇者ユリシーズ。
魔王を倒した後、行方不明になったんだったか…
ただの同名なのか?勇者に憧れて、ユリシーズという名をつけた子供は多い。
しかし何故、偽名で騎士団にいたのか。
クロードがグリザスの疑問を察したかのように。
「改めて紹介しますよ。勇者ユリシーズ。間違いなく本人です。訳があって、今、偽名で入団していますけど。まだユリシーズが見つかったって事。公にしたくないらしいですよ。ディオン皇太子殿下。」
ユリシーズは右手をグリザスに差し出して。
「ユリシーズです。苗字は俺の田舎ではなかったから。」
その手を握り返してグリザスは。
「道理で強いはずだ。勇者ならば納得する。」
クロードはユリシーズに向かって。
「食事のマナー、夜会のマナーとか、後、ダンスを踊れないとまずいかな…。ユリシーズの名前は魔界でも知られているよ。だから第二魔国の魔王の王配として、十分通用する。人間でもね。君がマナーを完璧に覚えてこなせれば、いう事ないんじゃないかな。」
「それなら、よろしく頼むよ。クロード。」
毎日は無理なので、週に一度、2時間程、付き合って教えてあげるとクロードはユリシーズに約束した。
ユリシーズが帰った後。クロードはグリザスを抱き寄せて。
「俺があまりユリシーズと仲良くすると焼きもち妬いちゃいますかね。グリザスさん。」
「アイリーンの幸せを奪ってしまった。その償いの為なら、お前は協力すべきだ。俺も出来る事は協力しよう。魔族のマナーは解らんが。」
「まぁ、他に応援頼みますよ。踊る相手もいないとね。フローラなら協力してくれそうだ。エスコート一つでも大変なんですよ。俺なんて小さいうちから教えて貰っていたから負担にはならなかったですけどね。」
「フローラ公爵令嬢は騎士団長の婚約者だ。いいのか?協力なんて頼んで。」
「お友達のマギーとかも連れてきてくれるでしょ?一石二鳥。マギーに惚れているギルバートにも良いチャンスを作ってあげないとね。」
外を見れば、まだまだ雪はやみそうにない。
二人はそっと顔を近づける。
クロードはグリザスの鎧の口元をずらして、骨をあらわにし。
舌でぺろりとグリザスの歯を舐めて。
「俺、きっと…あの時に貴方に惚れてしまったんだ…。貴方にキスを初めてした時に…
ねぇ…あの時と同じ…キスをしましょうよ。」
「あれは命を助ける為の処置ではなかったのか?」
「貴方でなくてはあんなに優しく出来ませんよ…。」
クロードはグリザスの歯をこじあけて、舌を差し込んできた。
答える舌は無いけれど…何だかとても、甘い時だな…と思えるグリザスであった。




