第二話 錯綜する思考 田畑兼続編
15組の寮の前で、田畑兼続は顔をしかめて、目の前にそびえ立つ寮を見上げていた。正直に言うと中に入りたくな無いのだ。何せ先ほどのあの入学式の式典の際、大声で泣き叫んでしまったのだ。いつもの自分らしく無い行動をとってしまったせいで、恥ずかしさでこのまま死にたい気分だった。
この学園での、兼続の評価はとても素晴らしい物で、野球部のキャプテンをやっており、高校は、もうすでにスタメンに決定しているという逸材だ。しかし、15組だが。そんな兼続は、いつもムスっとしており、感情をほとんど表に出さない事で知られており、7組の新嶋麻耶は彼女であるのだが、その彼女にでさえ、ほとんど感情を出さない。それゆえに、鉄仮面というあだ名を頂戴しているくらいである。
そんな自分が、あんなところで、全員がいる目の前で泣くとは・・・。一生の不覚であった。あの時、あれだけ泣き叫んでいたのに、麻耶を見る余裕のあった兼続は、麻耶がどういう反応をしているか、ちらりと見たが、案の定ドン引きしていた。彼女の顔は、学校ではかなり顔が良い方で、上の中なのだが、そんな彼女の素敵な顔が、彼氏の泣き崩れる姿にドン引きし、顔がピクピクしていた。それを思い出すだけで、もちろん、表に出すことはないが、泣き崩れたいくらいだった。
しかし、どうして自分があんな事になったのだろうか。兼続は、不思議そうに腕を組んで、首をかしげた。あの時だって、別に何も悲しい事も無く、泣きたい理由も無かったのだ。どうしてあそこまで、泣き叫んだのか疑問だった。まるで誰かに操られてしまったように感じた。
「兼続!!!」
そんな兼続の思案タイムに、誰かが声をかけてきた。その声は、ソプラノのような高さで、何度でも聞いていたくなるような歌声のような響きをした声だった。その声の主は、自分の彼女である麻耶である事を兼続はすぐに気付いた。麻耶は、何か考え事をしている兼続を一瞬にして、その声で現実に引き戻す力を持っていた。お互いにそれくらい惹かれていたので、中1の時からなので3年経つが、今でもこうやって交際が続いているのだった。
「麻耶・・・。」兼続は見つかったとばかりに、顔を少しだけしかめて、下でチョコンと立っている麻耶を見た。麻耶は、こちらを少しだけ首をかしげて見上げていた。兼続は、先ほどのあの失態も忘れて、彼女を抱きしめていた。
「兼続?」
麻耶は急に抱きしめられて少しだけ驚いたが、すぐに抱きしめ返した。こういう態度を取る兼続は、この3年間で久しぶりだった。その時間を少しでも味わいたかったのだった。少しすると、兼続はハっとして顔を真っ赤にさせて、麻耶を引き離した。そして、恥ずかしそうに顔をそむけた。
「もしかしてあの事を気にしている?」
痛いところをつかれて、兼続は更に顔をそむけて、顔を片手で隠した。隠し切れてはいないが。兼続は、少しばかりそうしていたが、いつの間にか、目の前に麻耶が移動している事に気付き、もう逃げられないと悟ると、首をしぶしぶ縦に振った。
すると、麻耶は馬鹿馬鹿しいとばかりに、フンと鼻をならした。
「やっぱりそうだったんだ。私の顔見てたもんね。あのドン引き顔。」
やっぱりドン引きしてたのか!!!それを知らされた兼続は、体がふぬけていくのを感じた。しかし、麻耶はそんな兼続の背中をバシっと叩いた。
「もう!!!しっかりしなさい!!!私は、あなたにドン引きしてたんじゃないのよ!!!」
どういう事だ?麻耶は俺の事をドン引きしていないのか?そう聞かされた兼続は、自分の体が再び元気を取り戻していくのを感じた。そして、顔をキリっとさせると、ジっと麻耶の顔を覗き込んだ。どういう訳かは、分からないが、麻耶は怒っているようで、ムっとしていた。それにしても、どういう意味なのだろうか。兼続は、少しだけ首をかしげて見せると、麻耶は盛大な溜息を吐いて話し始めた。
「あの男よ!!!全く、趣味が悪いったらありゃしない!!!私見たのよ!あの黒い団体さんの一人が、フードを取って、あなたを見ながら、『泣き叫べ!』とか言ったのを!その瞬間よ!あなたが、びっくりするくらいに泣き始めたの!きっと、あの男があなたを操ったんだわ!私がドン引きしていたのは、あなたの背後の2階部分で立っていた男の悪趣味さにドン引きしたのよ!」
そういう事だったのか。兼続はホっと胸をなでおろした。そういう事であるならば、正直もうどうでも良かった。友達はほとんど皆無なので、誰かに陰口を言われても平気だし、部活の方もスタメンから降ろされるとしても、1年生なので、時期尚早と考えていたので、却って都合がよかった。
「何ホっとしてるのよ!!!あの男の魂胆は私にはわかるわよ!!!きっとあなたが、“鉄仮面”と呼ばれてる上に、その名前を知らない人がいないから、あなたを利用したのよ!鉄仮面と呼ばれているあなたが、あんだけ泣き叫んだら、すっごく効果が出ると思ったのね!実際、効果があったし!しかも、私を入れる事で、感動的な悲劇な恋人たちを演出する気よ!!!ああ、腹が立つ!!!」
「そういえば、お前もか・・・。あのときは、それが本当ならば、泣き叫ぶのに忙しくて、誰が選ばれたのか、あまりちゃんと聞こえてなかったんだ。」
兼続が申し訳なく思いながらもそう言うと、麻耶は良いのよと言って、クスっと笑った。「あなたのあの泣き顔。おもしろかったし。あの行為には腹が立ったけど、あなたがあそこまで感情を嘘でも出したのは初めてだもの。ちゃんと写真も撮ったわ。」
麻耶はそう言うと、得意げにポケットの中にあったスマホを手に取ると、画像を出してそれを兼続に見せた。兼続はそれを見て、静かな唸り声を出した。そこには、不細工に泣き叫んでいる哀れな自分がいた。
「大丈夫!誰にも見せないから!それより、あなたの部屋に行きましょう!ちゃんと説明聞いて無いなら、説明してあげるから!!!」
麻耶はそう言ってほほ笑むと、兼続に腕をガシっと掴んで、15組の寮の中へと引っ張って行ったのだった。兼続は、その麻耶の行動に気を取られて、顔を綻ばせながら、それに引っ張られた。そのせいで、兼続は気付いていなかった。麻耶がチラっと何かを確認するように後ろを一瞬だけ振り返った事を・・・。
羽元香織編に続く―。
今回は、secret seenはありません。この二人は書いていて楽しいかったです。しかし、兼続はいかんせんしゃべらないので、麻耶一人に喋らさせないといけないので、兼続視点なのに、たまに書き方が麻耶視点になってしまいます。
なんでこんなめんどいキャラにした自分!!!
そして、そんな兼続に付き合える麻耶は大人じゃないといけない!と思い、あんなしゃべり方な大人なしゃべり方をした子に。
うーん。我ながら、お前のしゃべり方ちょっと20代だろうと言いたくなります。今の20代でもこんなのいないかもしれません。
うーん。ま、このままでいこうと思います。とりあえず・・・。




