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第一一三話『楓と雪菜』


『こーれーはーっ!! 山岸、黒崎両選手のライフバーが無くなってしまったーっ!!』

 机に脚をかけ、マイクを片手に声を上げるクリス。となりの武瑠も神妙な様子でステージを見つめている。

『それにしてもなにがどうなったんだよん? かえっちの姿が消えたかと思ったら、ゆきりんがいきなり自分のおなかに槍を突き刺して、その身体を貫いた先にかえっちが現れたって感じだけど……』

「……簡単に言えば、黒崎が山岸の行動を読んで攻撃したということになるが、まさか自分の身体を貫いて攻撃するとはな」

 クリスに応えて説明する武瑠だが、その表情は厳しい。それに気づいてクリスが眉を跳ねさせた。

『うむん? どうしたのかなん? たけぴー』

「……たけぴーではない。いやなに試合終了どころか、どちらの勝利かも宣言されないから、気になったんだ」

 そう言って武瑠はレオンハルトへ視線を転じた。

 それにならってクリスもそちらを見る。

 二人の見る先では、レオンハルトが難しい顔でモニターを凝視していた。




 ライフが無くなり、ステージ上に倒れ伏す雪菜と楓。勝者はコールされないままだがデュエルモードが解除され、二人は央華学園の女子の制服姿に戻った。

 その瞬間、楓が跳ね起きた。

「雪菜っ!? あんたなにバカなことやってんのっ?!」

 開口一番、雪菜を怒鳴りつける楓。すると雪菜がのろのろと身を起こした。

「く、フィルターが掛かっているとはいえ、かなり痛むな」

 腹に手を当て、顔をしかめる。

「当たり前よ! 自分の腹に槍を突き刺すとか本物のバカでしょ?!」

 つぶやく雪菜を楓が罵倒する。しかし、雪菜自身は気にした風でもなかった。

「……ああでもしなければ、貴様の意表は突けまいよ」

 そう言って清々しく笑う雪菜。それを見て楓が肩を落とす。が、すぐに顔を上げて雪菜を見た。

「……そうまでして勝ちたかったの?」

「無論だ。そうでなければお前は……」

 楓の問いに、雪菜が真顔で見上げた。その答えに、楓が訝しげな顔になる。

「? ……あたし? あたしがなんだってのよ」

「…………いや、なんでもない」

 誤魔化すように目をそらし、立ち上がろうとする雪菜。痛みが軽く残っているらしく、腹を押さえてしかめっ面ではあったが、凛と立つ姿は凛々しくもあった。そんな彼女を楓は半眼でねめつける。

「……まあ、良いけどね。けど、そんな痛い思いをしてまで勝とうなんて、あたしにはわからない……」

「……なにを言ってる?」

 肩をすくめた楓のぼやきを、雪菜の声が蹴飛ばした。

「お前の“加速”のタレント、身体にかなりの負担がかかってるんじゃないか? 今も体中が痛むんだろう?」

 真顔で言う雪菜に楓が息をのんだ。

「な、なに言って……」

「貴様がやせ我慢していたことくらいお見通しだ。何年の付き合いだと思ってる? それに“親友”がそうまでして勝ちにきているんだ。相応の覚悟を以て臨むのが当然だろう」

 当たり前だと言わんばかりの雪菜に、楓は口を閉ざすしかなかった。少しだけ、目頭に熱を感じて顔を伏せる。

「……ほんとバカなんだから! バカバカバーカ」

「…………そこまで言う必要あるのか?」

 バカを連呼する楓に、雪菜が少し傷ついたような顔になった。と、そのとき。

『お待たせしました! 結果の発表をいたします!』

 レオンハルトの声が響いて、ふたりをはじめとして会場中の人間がレオンハルトに注目した。

『ライフゲージが無くなったのはほぼ同時でしたが、精査の結果、勝者は……』

 彼の声に、七組、八組の面々が固唾を飲んで見守った。

『……勝者は、二年七組、山岸楓!!』

 そのコールに、七組の生徒たちと観客が喝采をあげた。

「勝った?」

「負けたか」

 その結果を聞いて、楓は戸惑ったような顔になったが、雪菜の顔は反対に晴れ晴れとしていた。

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