第一一一話『解放する力』
「リミットリリース」
力を解放するコマンドワードが楓の口から紡がれ、雪菜が身構えた。
その瞬間、楓の姿が掻き消えた。
「な……」
んだとっ?! と続くはずだった雪菜の言葉を遮るように、彼女の手にした槍へ光の斬閃がいくつも刻まれた。
そして、光の刃を振り切った楓の姿が雪菜の後方に現れ出づる。と、同時に光の刃が霧散し、雪菜の手の中の十文字槍がバラバラに切り刻まれていた。
「……!!」
起きた現象に、言葉もなく立ち尽くす雪菜。立ち上がって振り向いた楓がそんな雪菜を見て笑みを浮かべた。
「どうかな? あたしのアバターのタレント“加速”は?」
「……くっ!!」
雪菜は楓へと振り向きながら予備の槍を呼び出す。
こちらは十文字槍ではなく長槍だ。それを構えて油断無く楓を見る雪菜。大して小柄な楓はフラッシュセイバー片手に余裕の表情だ。
「すごいっしょ。“加速”は。アバターの行動速度を、最大で千倍にまで高めることの出来るタレントなんだよね」
これを聞いて雪菜の顔がゆがんだ。“跳ね馬”で掴み掛けたアドバンテージを、あっさりと楓に持って行かれた形だ。
「さあどうする? 雪菜。千倍の速度で動けるあたしに勝てる?」
「……くっ、リミットリリースっ!!」
余裕しゃくしゃくの楓に対し、雪菜もタレントを解放するコマンドワードを口にした。
本来口にする必要は無いものだが、解放のイメージが固まっていない内は、口に出した方が確実に解放できるからだ。
それを見て、楓が笑みを深くした。
「さて、雪菜のタレントはどんなかな?」
「ふん。楽しみにしていろ」
楽しげな楓に、雪菜が鼻を鳴らしながら答えた。
だが、その表情は険しい。
雪菜のタレントは、“加速”に対抗できるようなものではないからだ。
“貫通”。
それが雪菜のアバターのタレントだ。あらゆる防御、障害物をただ貫く能力。当たれば必殺となりうるほどの能力だ。
当たれば。
だが、もともと俊敏で反射神経の良い楓に、“加速”まで加わったらどうなるか? 雪菜の攻撃など掠りもしないだろう。
雪菜自身そのことに気づいてはいる。しかし、だからと言って彼女が諦める理由にはならなかった。
『これは大変なことになってきたよん!』
未だバニーコスのまま、クリスがマイクを片手に声を上げた。
「山岸にとっては相性の良いタレントだな。こうなると、フラッシュセイバーなどと言う際物武器を選択したのも解らなくはない」
『というと?』
小さくうなずきながら言う武瑠に、クリスが首を傾げた。
「刃の形成時間が一秒でも、千倍の速度で動けるなら千秒と変わらん。となれば、一秒で一回振るえるなら千回振るえるようなものだ」
『それは恐ろしいねい』
話を聞いて、クリスが身を震わせる。が、武瑠は淡々と言葉を続けた。
「まあ、そんな単純な話では無いだろうがな」
『うむん? なんでかなん?』
「……あのタレントにも弱点はあるということだ。動くぞ?」
不思議そうな顔のクリスをおいて、武瑠はステージを注視した。




