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第一〇九話『対峙する者達』

「……事故じゃなかったんだ……」

 つぶやくあかりの辛そうな笑顔に、ひばりと綾香は顔を見合わせた。そこへ太い声が降ってきた。

「……まあ、ここで話すようなことじゃあ無さそうだ。それより試合だ。二人が動くぞ?」

 言われてひばりと綾香、あかり、秋人がステージ上を見た。

 すると、そこには槍を構える雪菜に対峙し、ふたつの刃の無い剣を構える楓の姿があった。

「……やっと構えたか」

 構えた楓の姿に、雪菜が笑みを見せた。だがそれは、きわめて余裕の無い笑みだ。一方で、楓も笑う。

 先ほどまでのあざ笑うかのような笑みでは無く、感心するような笑み。その口が、開かれた。

「……雪菜だって、その構え。“跳ね馬”でしょ? 修得できたんだ?」

 楽しそうに笑う楓。その構えは、左足を半歩前に出し、かかとを浮かせてつま先を着け、まっすぐに背を伸ばす。右腕を曲げ、肘を横に突き出すように士ながら手にした柄だけの剣を真横にしていた。左腕は体の側面に着けるようにしながら刃のない剣を相手に向ける。

 一方、雪菜の構えも一種独特である。

 左足を大きく前へと伸ばすように出し、右足に体重をかけながらヒザを曲げる。槍を手にした右腕は後方に引かれ、左腕は槍の穂先近くに添えられていた。そして、槍自体に多い被さるように上体を伏せ、顔は相手を見る。

 構えを取った二人が沈黙に包まれ、それが、会場全体に伝染していった。互いに見つめ合う楓と雪菜。無音の世界は、しかし、すべてを押し包むかのようにステージを、いや会場を支配した。

「…………」

「…………」

 ふたりの視線が交錯し、緊張感が高まっていく。それと同時に、ひばりは息苦しさを感じ始めた。

「あ……れ? 息が……?」

 胸元を押さえてつぶやくひばり。その頭に、大きな手が被さった。

「落ち着け支倉。落ち着いてゆっくりと呼吸するんだ」

 そんなアドヴァイスにうなずいて、ひばりは息を整えていった。

 それでも、ピリピリとした肌に刺さるような気配に、ひばりは身を震わせた。

 会場が魔法が掛けられたかのような静寂に支配される中、観客席の一角で、それをものともしない者が居た。

「むー。ドウシテ二人は動かないデスカ?」

「先に動いた方が技を返されて負けるって思ってんだろ?」

 片言でしゃべるのは、長い金髪に、翠色の瞳の少女。答えたのは、ショートボブの茶髪にヘアバンドをしてオデコを出した少女だ。

 そして金髪の少女は、肩にギター用のケースを担いでいた。

「むー静かデスネ? シンシアはもっとニギヤカな方が楽しいデスネ」

 唇をとんがらかせて文句を言う。

「……まあ見ときなよ。いいんちょにも言われてるっしょ? ライバルになりそうな連中の情報は、可能な限り集めるようにってさ」

「ぷー。ソウですケドー。高木さんは良いんデスカ?」

 頬を膨らませ、シンシアが言うと、高木は苦笑いを浮かべた。

「いや、まああたしもさっきから叩きたくてしょうがないんだけどな?」

 そう言って両手を何かを持ったようにして、それで空中の何かを軽快に叩くような仕草をした。

「…………フセちゃんも、専用装備のプログラミングにかかりきりデスシ、セッションしたいデス……」

 涙をちょちょぎらせながら金髪少女が体を傾けた。それを見て、高木が笑う。

「まあ我慢しなよ。あたしら六組の為でもあるんだしさ」

「ムゥ。わかりました……」

 言われてシンシアはうなだれた。

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