第一〇八話『道の往く先』
「瑞希さんが死んだ時に思ったよ。あんなに強い人がこんなにも簡単に死ぬんだって」
楓の言葉を、雪菜は黙って聞いていた。
「……ならさ。あたし達がやってきたことに価値はあるの? 雪菜」
雪菜に投げかけられた楓の問いに、観客も、綾香やひばり、シモーヌたちも固唾をのんで見守る。
そして、槍を携えた長い黒髪の少女の口が開いた。
「そんなもの、知るかっ!」
言い放った雪菜の言葉に、楓はおろか、会場中の人間が口を半開きにして雪菜を見つめた。
「…………え?」
その答えに、楓の目が点になった。
「え? ではない。知らんと言ったんだ」
呆気にとられる楓に、雪菜は落ち着いた調子で言う。
その言葉に、俊夫や祐介達が笑みを浮かべ、辰美が苦笑いをした。
そして、硬直の解けない楓に雪菜がさらに続けた。
「……楓、貴様は頭は良いが、阿呆だな」
「……」
雪菜に真面目な顔で言われ、楓が鼻白んだ。
「姉上ならなにかしらの答えをくれるやもしれん。いや、自分で考えろと木刀で小突かれるか。ともあれ、姉上ならば価値だのなんだの言うより、まずは刀の一振り、槍の一本でも扱えるようになれ。と言うだろうな」
そう言って、雪菜は小さく苦笑いした。それを見た楓が、少し目を伏せた。
「どちらにしてもだ。私もまだまだ修行中の身。価値がどうだの考える余裕なぞ無い。それに、お前は誰かから答えを得て由とするのか?」
「!!」
訊ねるような雪菜の言葉に、楓が息をのんだ。
「……価値を見いだすとすれば、自分で見いだすしか無かろうが。違うか?」
「…………そう、かもね」
雪菜の言葉に、楓が自嘲気味に笑う。
「我らは互いに未だ道半ば……いや、半ばにも達していないだろう。余計なことを考えてる暇なぞ無いはずだ」
続く雪菜の言葉に、楓が軽く息を吐いた。
「……はぁ。万年平均点以下の雪菜に説教されるなんて……なんか悔しい」
「余計な一言をつけるなっ!?」
楓のつぶやきに、雪菜がいきり立ち、それを見た楓が口元に手をやりながら笑った。
その様子を見ていたひばりがハッとなった。
「……空気が変わった?」
「……だな」
つぶやくようなひばりの声に、綾香がうなずいた。その横に巨漢の少年が顔を出す。
「試合が動くな。どう転ぶか……。にしても、黒崎の奴が、あの黒崎瑞希の妹だったとはな」
感慨深げな俊夫をひばりが見上げた。
「前田君、知ってるの?」
「いつか対戦してみたいと思っていた。剣を持てば天下無双の鬼姫、黒崎瑞希と言えば裏表の区別無く有名だ。亡くなったのは二年ほど前か。事故だったと聞いている」
俊夫の話に、ひばりが悲しそうに顔になった。
「……事故じゃないよ」
不意に聞こえた声に、俊夫とひばり、綾香がそちらを見た。
すると、赤みが強い茶髪をツーサイドアップにした少女が、三人に泣き笑いのような顔を向けていた。




