第一〇七話『目指したものの価値』
「……はい、すいません……」
三人の剣幕に、秋人は萎縮しながら謝罪する。それを見て雪菜が鼻を鳴らした。
「まったく、これだからデリカシーの無い男は……」
「まったくだよ。もうちょっと考えて発言してほしいよね」
雪菜の隣で、楓が腕組みをして仁王立ちになりながら言う。
と。
『そろそろ試合に戻ってくれませんか?』
不意に聞こえてきた男性の声に、雪菜が、あっ!? となり、楓が、なんぞ? とそちらを見る。
するとそこには、立ち会いのレオンハルトの笑顔があった。
「は、はい! ただいまっ!」
「しゃーないなー」
あわててステージ中央へと戻ろうとする雪菜の横で、楓がめんどくさげにつぶやきながら歩き始めた。
「早くしろ楓!」
「へいへーい」
雪菜に急かされ、楓が少しだけペースを上げて中央に戻り、ふたりは対峙した。
「では、改めて。ゆくぞ!」
「はいはーい。いつでもどうぞ〜」
気合いを入れて槍を構える雪菜を見てなお、楓はフラッシュセイバーを構えることなくローテンションで答えた。
その彼女の喉元へ、銀色の閃光が突き進んだ。しかし、楓はあわてることなく体を仰け反らせるようにしてかわしてみせる。そして、雪菜が槍を引き戻すより早く、柄を蹴り上げた。
「くっ?!」
突如として跳ね上がった槍を取り落とさないように押さえつけながら、雪菜は大きく一歩下がった。
だが、楓は追撃をしようとはしなかった。
それを見ながら、雪菜が槍を構えなおし、口を開いた。
「……まだ手を抜くつもりか」
「……別に」
雪菜の言葉に、楓がつまらなさそうに答えた。
その理由を雪菜は知っていた。
だからこそ。
「そんなお前に、私は勝たねばならんのだ!!」
闘気をみなぎらせる雪菜に、楓の口の端が歪む。
「……瑞希さんの代わりのつもり?」
「……私に姉上の代わりなど務まらんことは重々承知している。しかし、姉上はもういないのだ。ならば、お前をたしなめるのは姉弟子たる私の役目だ」
バカにしたような楓に、雪菜は真面目に答えた。
それを聞いて楓がうろん気になった。
「アホらし。あたしが武術なんてくだらないって思うようになったのは、瑞希さんが居なくなったのがきっかけだよ。けど、それだけじゃない」
その瞳が暗く冷たい光を灯す。
「……何人ものプロって言われる武術家、武道家。それに強いって言われてる人達と戦った。黒崎 瑞希の弟子ってネームバリューはすごいね。それだけでみんな時間を割いてくれたよ。まあ、みんな瞬殺だったけど。中には雪菜でも勝てそうな連中も居たよ。そんな程度の連中が、武を語る時代なんだよ、今は」
両手にフラッシュセイバーを持ち、だらりと下げる。
「……こんなちゃらんぽらんにやってるあたしに負けるような連中ばっかりの武術なんて、やる価値もないよね?」
言いながらヘラヘラ笑う。
「……ねえ雪菜。教えてくれる? あたし達が目指したものの価値って、本当にあるの?」
虚ろに笑って訊ねる楓を、雪菜はまっすぐに見た。




