俺と優希
神栖高校との試合は1対3で俺たちが敗北した。神栖は新設で1年生しかいないとは思えないほど統率がとれていた。中でも多川はやっぱり圧巻だった。こっちの甘い球はどんどん打ってくる。結果5打数4安打、1ホーマー2打点。ほとんど多川に負けたような試合だった。
「多川って本当にすごいんだな」
有森先輩が呟いた言葉に俺は心の中で激しく同意した。
「再来週はお前の試合か……。多川の攻略法とか考えてんの?」
「いちおう考えてあります。今日もちょっと色々試してみたんですけど……やっぱ難しいっすね」
俺がそういうと細谷先輩は何か言いたそうな顔でこちらを見た。
「なんすか?」
「お前さぁ、なんでそんなその女ピッチャーにこだわんの?彼女なの?」
先輩の言葉で過去の下世話な質問が脳裏に蘇る。
――お前ら付き合ってんのかよ?
――優希が好きなんだろ?
からかう笑い声。明らかな敵対心。ライバルを傷つける方法でしか自分を守れなかった幼いチームメイト。
「違いますよ」
俺がもう一度シニアの試合をしたいのは過去に踏ん切りをつけたいからだ。
「あいつは―優希は公式戦に一回も出たことがないんす」
「え?だってエースなんだろ?技術もあるって……」
「強いのは確かです。でも監督の方針で使ってもらえなかった」
監督は教育者としては最低の人だった。男子は甲子園もプロ野球もあるのだから女子よりも男子にチャンスを回そうという考え方で、練習試合以外に優希を登板させることはなかった。それでも優希は自分に実力がつけば使ってくれると信じていたし、優希の親は野球に大して関心がなく優希の言葉を鵜呑みにしていたので問題にはならなかった。他のチームメイトの親は自分の子がよければなんでもよかったし、俺らは監督にたてつけばレギュラーが危うくなるから口出しできなかった。
「そんな中でも、俺と一之瀬とかは優希がエースじゃなきゃおかしいって言い続けてたんすよ」
だから監督から推薦がもらえなかったのか、と優希は聞いた。半分は当たってると思う。俺は自分のチームでレギュラーだったのに、推薦は他の奴に持っていかれた。
「だからうちに来たのか。監督の反感をかって推薦がとれなかったから」
有森先輩が言うので慌てて否定する。
「そういうわけじゃないっす!どっちにしろあのクソ監督の推薦とか受ける気なかったっすから!俺が三沢にしたのはそうじゃなくて…」
「いいんだよ。別に」
有森先輩が俺の言葉を遮る。
「寺島みたいなすごいやつがうちにいたんじゃもったいないと思ってたんだ。そのシニアの時のチームで神栖を倒せよ」
怒られるかと思っていたのが背中を押された。このチームはみんなそうだ。実力の違う俺が入部しても、レギュラーをとっても何も言わない。がんばれよ、と応援してくれる。
先輩たちの期待に応えなきゃ男じゃない。
「ありがとうございます」
俺は全員に深く頭を下げた。




