旧友との会話
「ところで彼女に了解はとってあるのか?」
俺は首を横に振った。
「そんなんで大丈夫なのかぁ?色々と心構えとか準備とかあるだろうし……」
「絶対に来ます。あいつだって気持ちは同じはずだから」
※※※
「嫌」
次の日、俺は優希の家の前にいた。学校帰りの優希を捕まえて練習試合の話をすると速攻で今の台詞を返された。
「何でだよ!」
「それはこっちの台詞。私、野球止めたって言ったじゃん」
「でも野球以外のことだってやってないんだろ?だったらいいじゃねぇか!」
「無理。ブランクあるし男子と投げ合えるとは思えないし、だいたいなんで自分の学校と戦わなきゃならないのよ。野球部だったら普通にクラスメイトとかいるんだからね」
「そんなの関係ねぇだろ!もう決まっちまったんだから絶対に来いよ!」
「翔大が勝手に約束したんでしょ。私は行かないからね」
引き留める俺の声を無視して優希は家の中へ入るとドアを閉めてしまった。
「こら!話を聞け!」
いくら叫んでも優希が出てくる気配はなかった。
俺には優希の頑なさが少し異常に思えた。野球を止めてブランクがあるから心配な気持ちは分かる。相手が男子というのも不安材料だろう。だけど俺の知ってる優希はそんなことで勝負から逃げたりはしなかった。むしろ逆境を楽しむタイプだった。
優希が野球をやらなくなったのには、他に何か理由があるような気がする。
その日の夜、俺はかつてのチームメイトたちに電話をした。
「へー、優希と会ったんだ」
一通り電話をかけて最後になったのが一ノ瀬達也だった。達也はショートのレギュラーで、俺と同様に推薦はもらえなかったが一般入試で名門東山大付属東山高校に進学した。
「そうなんだ。でも、なんていうか、ギャルになっててさ」
「それ想像つかないな。素のままで十分いけるのに」
「いけるって……」
達也は昔から少しませていて女子にも「かわいいね」とか平気で言えるやつだった。そういうところは苦手だったけど、野球についてはすごく真剣に考えていて一番話が合う。優希が男子との体力差に悩んでた時にアドバイスしたのも達也だった。
「でも、そんなんで優希は出てくれるのか?」
「それが……」
俺は素直に事情を話した。他のやつらには言っていないが、達也には少し相談したいのもあって最後にした。達也は「何やってんだよ」と呆れたように息を吐いた。
「優希は野球やってないって言ってたんだろ?なのに、なんで試合なんか申し込むんだよ」
「いや、優希がまだ野球に未練あるみたいだったし、俺も過去に踏ん切りつけたかったし……」
「それは全部お前の都合じゃん。だいたい優希はなんで野球やめたんだよ?」
俺は優希が言っていた言葉を思い出す。
「甲子園に行けないから、とか言ってた。行けなくてもやる意味あるじゃねーかって言ったんだけど、意味がなくなったって」
「ふーん」
そう言うと達也は黙ってしまった。しばらくしても返事がないので呼びかけてみる。
「達也?」
「それってさー、絶対他に理由があるよ」
俺は「やっぱそうだよなぁ?」と同意しながらも達也の確信めいた言い方が気になっていた。
「そりゃそうでしょ。だって今や女子プロもある時代だぜ?甲子園がないからって理由で止める必要はないだろ。リトルの時と違ってその先があるんだからさ」
「じゃあ何で野球を拒否するんだ?」
何かを知っているような達也の言い方がひっかかって俺は直球で聞いてみた。女房役の俺よりも達也の方がわかっているのは少し癪だがこの際仕方がない。だが、達也から明確な答えは返ってこなかった。
「そんなの優希に聞けよ」
「え?お前は何か知ってるんじゃないのか?」
「俺だって優希が辞めてから会ってないんだから知るわけねーだろ。……というよりも、連絡するのを拒否られたんだけど」
達也はそう言って苦笑した。達也が優希と連絡をとろうとしていたなんて初耳だった。
「でも、お前なら話してくれたんだろ?だったら辞めた理由も話すかもしれない。俺よりもお前の方が優希との距離は近かったんだから」
ちゃんと説得しろよ、と言って達也は電話を切った。俺はなぜだか達也が傷ついているような気がした。そして俺はそのことに少し安堵している。2人の間に何があったかはわからないが、優希が達也よりも俺を選んでくれたことに喜んでいる自分がいた。だが、それがなぜかはわからなかった。




