練習試合
「練習試合?いいよ」
神栖高校野球部の監督は二つ返事で俺の申し出を受けてくれた。
「うちはまだ新設だからさ、練習試合をしてくれるとこが少ないんだ。練習試合は大歓迎だよ」
監督はまだ大学生だった。同じ学生だからか、俺の突発的な話にも柔軟に対応してくれる。
「それでどんなチームなんだい?」
「エースがサブマリンです」
「本当に!?ちょうど今度の公式戦でアンダースローのピッチャーと当たるんだよ!」
顔を輝かせて喜ぶ監督に俺は一番重要な事実を告げた。
「しかも女なんス」
「え……」
さすがに監督も驚いている。小学生までならまだしも高校生ともなれば男女の力差ははっきりしている。俺も優希じゃなければ同じ反応をするだろう
「力では負けるかもしれないっすけど、技術ならあいつよりも上のやつを見たことないっす」
「うーん、寺島くんが言うなら本当にそうなんだろうけど……どうする、桜田?」
そう言って神栖の監督は一番でかいやつを呼んで経緯を説明した。
「女と練習試合っすかぁ?」
明らかにやる気のない声。俺は拳に力を入れた。予想通りとはいえ、自分が認めたエースを馬鹿にしたような反応は悔しい
「女だけど技術なら男に負けないって。アンダースローだし。どうする?」
「え~」
桜田は他の部員に目で訴えかけていた。確かにこういう話はなかなかないだろう。桜田たちが困惑するのも仕方ない。それでもやっぱり、女ってだけで断られるのは腹がたつ。優希はそういう次元の女じゃない。
「バックには東山大付属の一之瀬と相模北の徳山がいる」
「え!あの野球強豪校に一般入試から入部した二人が!?」
桜田が目を丸くした。一之瀬と徳山は監督から推薦してもらえず、強豪野球部に入部テストを受けて入った。本来なら一之瀬も徳山も監督の口利きで入部できるだけの結果を残してる
やっぱあいつらすげーんだ。これは利用するしかない。
「二人とも同じシニア出身だからな。当然来るぜ。戦力的に不足はないはずだ」
すると横から小さいのが口を挟んできた。噂の多川だ。
「いーじゃん桜田!俺、一之瀬と試合してみてーもん」
「そ、そうか?それなら……」
どうやら多川の意見には主将の桜田も逆らえないらしい。桜田が言い切るのを待ちきれずに俺は勢いよく頭を下げた。
「あざっす!」
これでもう一度優希をマウンドに立たせてやれる。
この時の俺は何もわかっていなかった。
なんで優希が野球を止めたのかも。
なんで俺が必死になって優希に野球をやらせようとしてるのかも。




