専務はついに、伝説を創りはじめる
テレビ東和の夜9時直前、テレビ通販が始まった。
毎週5分だけだが、都内の知られざる老舗がこんなにあるのか!と、インパクトがあり好評な滑り出しだ。
専務は同感と思いながらも
「確かに。でも私たちらしさも欲しいかも。」
と提言するが、
「商売はお客様が安心して喜ぶものが大事よ。」
専務は放映を見て「自分たちが考えた商品も売りたい」と思うようになった。アドバタイズ天国が始まって半年ほどの頃だ。
番組もネタが尽き始めた。テレビ東和は東京でしか放映されないし、配送料が高いと売れないから、取り上げる商品も都内に限られてしまう。しかも食品は無理だ。今みたいに冷蔵宅配便はないのだから。
だんだん2回目、3回目の店紹介が増えて、同じ商品の紹介が繰り返される。
専務は「今なら自分のアイデア商品が出せるかも?」と思うようになった。
春の終わり、社員の若い子たちが安宿時代に書いたノートをパラパラめくっていた。
ちょうど1年前か。通販番組の準備に明け暮れる間、若い子たちは小道具や進行などのあらゆる小間使いをしながら流行りをキャッチしていた。ノートにはこうある。
アングラ劇団はカッコいい。ポスターがカッコいい、横尾忠則は最高だ!サイケデリックな音楽をもっと聴きたい。
専務は横尾忠則のポスターを見てぎょっとしたが、怖いけど惹きつけられた。
これをヒントにお化け屋敷みたいなレコードが作れないか?
アドバタイズ天国の企画会議は煮詰まっていた。鉄子社長は番組を通じて出会った老舗呉服屋や銀座の画廊と盛り上がり、番組は専務に任せて社交界へ通って顔を出さない。
しかも、社長命令で紹介する商品も着物や絵画が増える。素晴らしい商品だが同じようなモノが増えてはマンネリだ。会議の場は不満であふれかえる。
「どうにかなりませんかね?」
テレビ局の営業は専務に投げかける。
「視聴率が下がってます。」
「この夏、夜9時は若い子向けにホラーサスペンスをやります。よそがホームドラマだから。」
編成も続ける。
「若い子向けの直前に着物の通販はないよ。」
専務は今だ!と思った。
「届くまで中身が分からない」
「ホラー玉手箱はどうかな?レコード付きで。」
営業も編成も乗ってきた。
「箱の絵柄は横尾風だね。小道具に作ってもらおう。」
かくしてホラー玉手箱の通販が放映された。
鉄子社長には隠して。
始まりはこうだ。
「貴方はこの5分間を一生忘れられない。」
とナレーションが入る。
サイケな音楽がけたたましく鳴り、
アングラ劇団「洲裡羅阿」の白塗りの俳優が墓場から蘇り盆踊りをハイテンポで踊り出す。踊りといってもモダン舞踊だからわけがわからない。口から緑のゼリーを吐き出しながらアップで笑いかける。4分半の踊りの後、「続きは貴方のお部屋で。ホラー玉手箱。限定50個発売」
最後に気味の悪い笑い声が流れた。
コールセンターの20台の電話がいきなり鳴り始めた。豊島区と墨田区の電話交換機がパンクした。成城や吉祥寺からはクレームの電話が止まらない。
配送センターはザワメキだった。
忌み嫌うモチーフだらけの赤い段ボール。
触るのも嫌だ。触ったら死んじゃうかも?
とは言え仕事だ。早く代引きで送っちゃお。




