枯れる井戸は枯れないうちにくれてやれ
社内には他の社員たちと鉄子社長、そして彼女の娘がいた。娘は孤児院から引き取った子である。
社長はキャバレーや警備業から稼いだお金を孤児院に注いでいた。
「未来を育てれば、私たちの未来も開ける。」
これが信条の鉄子。全てを失った末に行き着いた考えだ。
社員たちが専務を見る。鉄子社長は
「専務、その顔は何か分かったみたいね。」
「テッペキ警備保障を辞める。その次は何?」
専務は買ってきた雜誌を後ろからめくり、
「どの雜誌も商品を読者に直接売っています。」
「社長、これからはテレビで売るのでは?」
鉄子社長は少し首をふる。
「そうね、売り物は何かしら?」
専務は「指輪ですかね?」睨まれながら言う。
「アホか!そんな偽物まがいの指輪」
「私たちが落ちぶれてからにするわ!」
「キャバレーも赤坂を真似た偽物、警備も警察官の偽物。」
「偽物の人生から本物の人生に変わるの。」
鉄子は社長の鎧を外して落ち着いた顔をして社員たちに告げた。
「けっこうなお金を生み出している2業種。」
「キャバレーに残りたい社員」
「警備を続けたい社員は」
「迷わず残りなさい。売却先はもう決まっています。」
さらにビックリしたのは、
「私と専務は今すぐ出ていきます。即答出来ないなら残れ。」
社内の若い子が数人と専務が、社長についていった。数十人は残った。キャバレーは1973年、健康お色気なウェイターが目立つ「ヒーターズ」となり、オイルショックと共に消えた。時代が早すぎたのだ。テッペキ警備は大手ニコムの傘下となり「再教育されて」可もなく不可もない商売を続けた。
つまり鉄子と専務たちは売却して大金を得て、
逃げ切ったのだ。




